64 / 145
続編/燈子過去編
愛おしいだけの夜(高宮)―1
しおりを挟む
玄関の扉が開いたのは21時前だった。俺が遅くなる日はだいたい21時は回るからそれまでに帰ってこようと思ってくれていたんだろう、俺が先に家にいたから驚いていた。
「ごめん、遅くなっちゃった。思ってたより早く帰れたんだね、ごめんね」
「全然いいよ、おかえり。楽しかった?」
そう聞くと少し戸惑いつつも頷く。心なしか表情が硬いのは気のせいか。逃げるように洗面所に行くから何となく気になって追いかける。
「燈子さん?なんかあった?」
「ううん、なんにもない」
手を洗いながらそう答えるけれど俺の方は全然見ない。手を洗っているだけ、そう言われたらそうなんだけど、いちいち彼女のことには敏感に反応してしまう俺としては気になるとなんとなく勘繰ってしまう。
丁寧に泡立てて指先を洗っているその後ろ姿にくっついて腰に腕を回すとぎゅっと抱きしめた。
「楽しかった?何食べてきたの?」
同じことを聞いた。さっきは頷いただけだけど、今度はためらいながらも言葉を落とす。
「楽しかったよ……イタリアンのお店で、パスタ食べた。麻里奈がワイン頼んで私も一杯だけ……」
「ワイン?珍しいね、酔ってない?」
「――ちょっとだけ、フワッとはしてる」
ぽつぽつ話し出してくれるからそこまで気にすることはないかな、そんな風に思ったら洗い終わった手をタオルに伸ばして少し身をよじる。腕の拘束を緩めたら恥ずかしそうに見上げてくるから可愛くて。
キスしようと顔を近づけたらタオルで押し返された。
「うがい、してないから」
素直にうがいを待っているとまた恥ずかしそうに見上げてくるから待てのサインが解かれたのがわかる。
(俺、完全に躾けられた忠犬)
以前に燈子さんにゴールデンレトリバーみたいだと言われた。
犬扱いは初めて受けたが不思議と不快感はなかった、それよりもそう思われる自分に衝撃の方が大きかった。ガキ扱いされていると思っていたらまさかの犬扱い、自分の崩壊がよくわかる。もはや人でもない俺にでも彼女は頬を染めて可愛いと抱きしめてくるからもうどう思われてもいい、むしろなんでもいい。
彼女の目に俺が映って俺のことで頭がいっぱいになるのならなんにでもなる。
「ん――」
キスに応える彼女の瞳は熱っぽくて、やはりどこか憂いを感じる。でもそれはキスのせいか、なんとなく感じた違和感の正体は掴めない。ジッと見つめたらそれを見つめかえされて体の奥が熱く疼き始める。抱きたいな、このままさせてくれるかな、そんなことをぼんやり考えてまた口に触れようとしたら……。
「駿くん、ごはん何食べた?」
「え?」
いきなり雰囲気をぶち壊された。
「ごめん、遅くなっちゃった。思ってたより早く帰れたんだね、ごめんね」
「全然いいよ、おかえり。楽しかった?」
そう聞くと少し戸惑いつつも頷く。心なしか表情が硬いのは気のせいか。逃げるように洗面所に行くから何となく気になって追いかける。
「燈子さん?なんかあった?」
「ううん、なんにもない」
手を洗いながらそう答えるけれど俺の方は全然見ない。手を洗っているだけ、そう言われたらそうなんだけど、いちいち彼女のことには敏感に反応してしまう俺としては気になるとなんとなく勘繰ってしまう。
丁寧に泡立てて指先を洗っているその後ろ姿にくっついて腰に腕を回すとぎゅっと抱きしめた。
「楽しかった?何食べてきたの?」
同じことを聞いた。さっきは頷いただけだけど、今度はためらいながらも言葉を落とす。
「楽しかったよ……イタリアンのお店で、パスタ食べた。麻里奈がワイン頼んで私も一杯だけ……」
「ワイン?珍しいね、酔ってない?」
「――ちょっとだけ、フワッとはしてる」
ぽつぽつ話し出してくれるからそこまで気にすることはないかな、そんな風に思ったら洗い終わった手をタオルに伸ばして少し身をよじる。腕の拘束を緩めたら恥ずかしそうに見上げてくるから可愛くて。
キスしようと顔を近づけたらタオルで押し返された。
「うがい、してないから」
素直にうがいを待っているとまた恥ずかしそうに見上げてくるから待てのサインが解かれたのがわかる。
(俺、完全に躾けられた忠犬)
以前に燈子さんにゴールデンレトリバーみたいだと言われた。
犬扱いは初めて受けたが不思議と不快感はなかった、それよりもそう思われる自分に衝撃の方が大きかった。ガキ扱いされていると思っていたらまさかの犬扱い、自分の崩壊がよくわかる。もはや人でもない俺にでも彼女は頬を染めて可愛いと抱きしめてくるからもうどう思われてもいい、むしろなんでもいい。
彼女の目に俺が映って俺のことで頭がいっぱいになるのならなんにでもなる。
「ん――」
キスに応える彼女の瞳は熱っぽくて、やはりどこか憂いを感じる。でもそれはキスのせいか、なんとなく感じた違和感の正体は掴めない。ジッと見つめたらそれを見つめかえされて体の奥が熱く疼き始める。抱きたいな、このままさせてくれるかな、そんなことをぼんやり考えてまた口に触れようとしたら……。
「駿くん、ごはん何食べた?」
「え?」
いきなり雰囲気をぶち壊された。
11
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
デキナイ私たちの秘密な関係
美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに
近寄ってくる男性は多いものの、
あるトラウマから恋愛をするのが億劫で
彼氏を作りたくない志穂。
一方で、恋愛への憧れはあり、
仲の良い同期カップルを見るたびに
「私もイチャイチャしたい……!」
という欲求を募らせる日々。
そんなある日、ひょんなことから
志穂はイケメン上司・速水課長の
ヒミツを知ってしまう。
それをキッカケに2人は
イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎
※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる