あの夜をもう一度~不器用なイケメンの重すぎる拗らせ愛~

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続編/燈子過去編

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 懐かしい記憶だ、そんな風に語れるほど良いものでもなく。できれば胸の奥にそっと潜めて隠しておきたい、そんな記憶なのに。


「返事返したの?」
「ううん、返せないよそんなの」
「向こうも番号は変わってないんだ?」
「そうみたい。私も番号なんか変えてないから……はぁ、嫌になる。無視したらいいんだろうけどさ……なんか……」
 モヤモヤしている私を見つめながらグラスワインを飲みほした麻里奈は呆れ気味に笑って言ってくる。


「燈子ってさぁ、昔からしつこい男に好かれない?高校の時付き合ってた先輩もそうじゃん?気に入られちゃってさぁ~燈子への束縛ひどかったし、良く付き合ってたよね、まぁ勧めてくっつけたの私なんだけどさ」
「あの時は別れるの大変でした」
「別れたくないって泣いてたね、引いたわあの時。めっちゃかっこいい先輩だったのにさぁ。燈子にハマってダサい男に……」
「なにそれ、私のせいなの?私が悪かったの?」
「甘やかした結果じゃん」


(甘やかし……どうしよう、あの頃より今のがよっぽど母性スイッチゆるゆるだけど)


 彼が麻里奈にダサい男と思われそうで怖い。全然ダサさなんかないけども!


「でもあの人は向こうから振ったよねぇ?燈子のこと、違ったっけ」


 十年前、お付き合いしていた人がいた。出会ったのは今みたいな雨の季節、霧雨みたいな雨が降っていた。静かに降る雨の中で出会ったその人はその雨に馴染むほど静かで穏やかな人で、声をかけられたとき時が止まったような錯覚を覚えた。
 耳に心地よく響くバリトンの声は不安になった私の心を優しく包んでくれた。


「そもそも会う理由がないし、会えるわけない。だって既婚者だもん、連絡なんか取っちゃだめでしょ?」
「不倫はダメ、絶対許さん。てかさ、駿くんに相談したら?なんなら一緒に会ってもらったらいいじゃん。既婚者と二人で会うなんてありえないしさ」
「なんで?会う意味が分からない、話したくなんかないしそもそも知られたくないよこんなこと」
「燈子が今あんなハイスぺ男子に愛されまくってるってわかれば向こうももう何も言えないよ~、駿くんもビシッと言ってくれそうじゃん」
「麻里奈!絶対言わないで!言ったら絶交!!」
 フォークの刃の部分を向けて脅したら麻里奈は肩をすくめて苦笑いだ。自分でも三十五にもなって人にフォークを向けるなんてどうかしている。でもそれくらい切実に強く頼んでいることを察してほしかった。


 彼にだけは言いたくない。
 一緒に暮らしだして幸せで、この幸せがずっと続いてほしいと願っている。そのために日々の暮らしを大事にしている。

 暮らす前に言ってくれた言葉、あれはずっと胸の中で大事にしまっていた。


「今は仕事のこともあるからそんなことは考えられないのかもしれないけど、落ち着いたら考えてくださいね」


 ハッキリ結婚なんて言葉は口にはしなかったけれど、そう言う意味にとった。
 彼にとって関われるすべての女になりたい、そう告げた私に言ってくれた言葉。


「一番そばにいれる人になれるでしょ?燈子さんなら」


(それって……お嫁さん、でいいんだよね?)



 ――私が誰かのお嫁さんになれるの?



 そのとき花が咲くように心の中に芽吹いた気持ち。それをまた夢見てもいいのか、その信じられない気持ちが大きかった。憧れで終わった想いを彼が叶えてくれるの?そんな夢みたいなことを望んでもいいの?そう思っていた。


 その人とは結婚の約束をしていた。

 でもその想いは叶えられることはなく、その人は私に別れを告げて去っていき、しばらく私はその時の気持ちを引きずって生きていたから―。



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