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本編

5話・甘く残る余韻(高宮)

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 人の記憶はどこまでが正確で確実なものなのか。都合よく解釈したりすり替えたりすることも日常だ。それくらい曖昧で不確かで、信用なんかできない。

 それでもだ。
 そもそも記憶がないのはお話にならないだろう、頭を抱えながらそんなことを思っている。

 あの時助けた人は美山さんだった、そこからいきなり記憶が俺の家になってしまうのはなぜなんだろう。どうやって自宅まで帰ってきたのかがわからない。そこが結構重要だろうと思うのに、頭の中でモヤッとした感じもない。本当にスッパリと記憶が抜け落ちている。


(使えねぇ脳みそ~)


 自分に絶望する。
 なのに部屋で起きたことはめちゃくちゃ覚えていたりするから酔った勢いなんて言いつつ本気で酔ってたのかよ、と自分に言いたくなる。それはそれは生々しく、むしろそこの記憶だけがやたら濃いからゲスい。目を閉じて脳裏に浮かぶのが俺のベッドの上で汗にまみれて乱れる彼女の姿がそこにあるんだ。


「ん、はぁ、あ……」
 濡れる吐息が部屋の中で響いて、俺の腕の下から見上げてくる汗ばんだ彼女は最高に色っぽかった。それを思い出すだけで喉元が鳴るとかますますゲスい。なんなら興奮する、アホか。それよりも他に思い出さなきゃいけないことを優先しろよ!なにセックスの記憶に浸ってんだ!自分に突っ込んでばかりだ。

 しかし――盛ったように抱いた気がする。疲労と眠気と薬と酒で溺れていたのになぜあんなに勃ったのか自分でも謎すぎる。溜まっていたにしてもひどい、俺は猿だったのだろうか、そう思うくらい興奮して彼女を抱いた。


 言うなら猛烈に気持ちよかった。経験から思うにめちゃくちゃ相性がいい気がする、ぶっちゃけ出来るならもう一回したい。それほど沼になりそうなセックスだった……が本音。

 いろんな女の子を抱いてきた。それこそ気持ちいいセックスなんか数えきれないほどしてきたはずなのに。彼女とのあの夜は今まで感じたことのない余韻を放っていた。


 今までにないセックス。
 感じたことのない――体感と感動。


(記憶ってちゃんと戻るものなんだろうか……こんなに脳みそ絞りだしてんの久しぶりだわ)


 頭を抱えていると書類ではたかれた。



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