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世界を越えてもその手は 6章 あふれの渦中

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◆ユラカヒのギルド(1. あふれの渦中)

「ギルドマスター、タペラがあふれました!」
「冒険者と職員に緊急招集だ!Aランク以上はタペラの入り口に向かわせろ。Bランクは街周辺だ」
「はい!」

「ギルドマスター大変です!」
「なんだ!あふれなら知ってるぞ!」
「氷花が、タペラに潜ってます!時間的には下層にいるころです」
「なんだと?!不味いぞ。何とか生き残ってくれ」
「救援を出しますか?」
「出したところで、ダンジョン内に入れないだろう……」


◆王都ニザナのギルド(1. あふれの渦中)

「ギルドマスター、ユラカヒのタペラがあふれました」
「そうですか。うちからも応援を向かわせましょう。S, A, Bランクに緊急招集を。氷花はいまどこでしょうか」
「それが、タペラ攻略中だそうです」
「……大丈夫です、ユウさんは1年くらいは籠城できる食料はもっているでしょう。救援は事態が落ち着いてからと、ユラカヒのギルドマスターに伝えてください」


◆王宮 (1. あふれの渦中)

「陛下、ユラカヒのタペラがあふれました」
「国軍を向かわせろ。王都からが一番近いだろう」
「氷花が攻略中で、おそらく下層にいるそうです」
「なんだと。急いで救援を」
「それが、ギルドマスターから、救援はあふれが落ち着いてから出すと連絡がありました」
「見殺しにするのか」
「いえ、剣士と従魔がいれば生き残れるはずで、食料は十分に持っているそうです。それにあふれが止まる前にダンジョンに入るのは現実的に無理だからとのことです」
「魔剣を向かわせろ。なんとしても彼らを無事に脱出させろ」


◆モクリークの中央教会(1. あふれの渦中)

「大司教様、ユラカヒのタペラがあふれました」
「周りの教会へ、避難民の受け入れの準備をするように伝えてください。ユラカヒへは中央教会から人を出しましょう」
「氷花のおふたりが、あふれたダンジョン内にいるそうです」
「それは……、いえ、私たちのすることは変わりません」
(神獣様によってダンジョン一帯が破壊されないといいのですが……)


◆タペラのセーフティーエリア(3. 総力戦)

「エリクサー助かった。ありがとう。何年かかっても払う」
「決めたのはユウだ」
「あんたのためだってよ」
「俺の?」
「オレが死んだらみんなの心が折れるからって。これでオレは生きて帰るしかなくなったんで、もういっちょ頑張りますか」


◆タペラのフロア(4. 裏切り)

「ダンジョン特別部隊って、魔剣持ってるんだろう。どれだろう?」
「やっぱり隊長が持ってる剣じゃないか?」
「隊長さんの右後ろにいる人の剣だよ」
「おおっ!あれ献上されたんですよね。どこで出たんですか?」
「ゾヤラの上級ダンジョン、ブロキオンの最下層。首なし騎士のドロップ品」
「やっぱりめちゃめちゃ強いんですか?」
「腐ってて気持ち悪い」
「「「「は?」」」」


◆タペラのセーフティーエリア(4. 裏切り)

「魔剣振ってみる?」
「「「「え?」」」」
「アル、リンバーグのみんなに魔剣貸してあげてほしいな」
「外に出よう。人のいないほうに向けて振ってみろ。適性があると斬撃が飛ぶから人には向けるなよ」
「「「「は、はい!」」」」
「リーダー!なんで並んでるんですか!恥ずかしいからやめてください」
「だって、振ってみたいじゃないか」

「テイマーさんって槍も使うんですよね。あの魔槍は自分で使おうと思わなかったんですか?」
「……」
「?」
「強い人が使ってくれたほうがいいからな。な、ユウ」
「そうなんですね。すごいなあ」
「テイマーは、そもそもあの槍を持ち上げられるのか?」
「お前はデリカシーと言うものを学べ!」
「痛い!」
「ミランさん、もっとやってください!」
(((やっぱり、持ち上げられないんだな)))


◆タペラのセーフティーエリア(5. あの時の、それぞれの状況)

「ギルドは、氷花の救援にすぐ乗り込んでくるかと思ってたよ。俺たちには一緒に行ったら助かるかなーという打算もあったんだが」
「それな。俺もギルマスに聞いたけど、あふれてるダンジョンに潜るのは現実的に無理だろうっていうのと、王都ニザナのギルマスがテイマーは1年籠城できるから大丈夫だって言ったらしい。出来るのか?」
「うーん、1年は無理かなあ。お風呂入りたいし」
「風呂も持ち込めるんじゃないか?」
「アルに、あふれが起きたら裸で逃げる気か?って言われて諦めた」
(((持ち込む気だったのかよ)))
「でもなんだかんだすごい量の食料提供してくれたよな。俺たちはありがたかったけど、たくさん持ってるんだな」
「何かあったら困るから」(この世界コンビニがないんだもん)
「なんで毛布をあんなにたくさん持ってるんだ?」
「肌触りが良くて気に入ったものを買い足していたら、たくさんになっちゃって」
「ユウは、快適な生活のためには、金を惜しまないからな」
「戦うなら身体が資本なんだから、睡眠は大事だよ」
「アクセサリーもじゃないのか?お揃いのを見せつけやがって」
「ユウがプレゼントしてくれたんだ」(指輪にチュ)
「な……#$!&”」
((((なんでテイマーがダメージ受けてるんだよ))))

「テイマーは寝たのか」
「ああ。エリクサーだが、支払期限は10年で、ギルド買い取り価格の半額でどうだ」
「いや、そこは全額だろう」
「許可も取らずに勝手に使ったんだ。半額でいい」
「悪いな」
「延長してもいいから、支払いのために無理だけはしないでくれ。ユウが責任を感じる」
「兄さん、甘々だな。了解した。ありがとう。ところで、なんで残ったんだ。地上まで帰れただろう?」
「迷ったんだが、地上の状況が分からなかったからな」
「さっさと街を離れればよかったんじゃないのか?」
「血が苦手なんだ。地上はダンジョンみたいに吸収されないだろう?」
「そういうことか。あふれの真っ最中なら、ダンジョンの前なんて地獄絵図だろうな」
「眠ってる間に運び出すって言うのも考えたんだが、起きてしまうと、多分しばらく食事ができなくなる」
「兄さん、ほんっとに甘々だな」


◆タペラのセーフティーエリア(6. 帰還)

「明日にはとうとう地上だな」
「このドロップ品、分配はどうするの?」
「それは氷花のご自由に。我々は拾う予定もありませんでしたし」
「なんだかもったいなくて。そういえば、地上は吸収されないから、倒したモンスターのドロップ品たくさん?」
「地上ではモンスターを倒してもドロップ品にならないぞ」
「ええ、なんて迷惑なやつら……。じゃあ、リンバーグの分だね」
「え?!俺たち拾っただけですよ」
「拾った人のものになるんだから、いいんじゃない?」
「いやいや、もらえませんって」
「そう。じゃあ全部もらうね」

 ~翌日~
「治癒術師さん、これを教会に寄付したいんですが、お渡ししてもいいですか?」
「マジックバッグを、ですか?」
「中に、このダンジョンのドロップ品が入っています」
「へえ、何が入ってるんだ?」
「クルーロ、大人しくしていろ」
「このダンジョンで拾ったドロップ品全部だから、いろいろ、たくさん」
「「「全部?」」」
「あ、ブランが食べたいっていうお肉はもらいました。生ものは入っていません」
「おい、兄さん、いいのか?」
「ああ、ここの孤児院の子どもたちにな」
「いつもありがとうございます。子どもたちのために役立てます」


◆タペラの入り口(6. 帰還)

「外を確認してきますので少々お待ちください」
「ずいぶん入念だな」
「(テイマーは血に弱いらしいんだ。血生臭いことになってないか見に行ったんだよ)」
「(まじかよ、外出て大丈夫かよ)」
「(先行している部隊が片付けてるはずだ)」
「(手厚いな)」
「(二度とダンジョン行かないって言われたら大損害だろう)」
「(納得)」
「まだ外モンスターいるのかな?」
「念のため確認しているんだろう。出てすぐ囲まれたら困るだろう?」
「そうだね。街にあまり被害がないといいな」


◆ユラカヒのギルド(6. 帰還)

「無事でよかった。氷花の同行もご苦労だった」
「助けられたのは我々のほうです。彼らがいなければ帰って来られませんでした。物資も豊富に出してくれました」
「食事以外にもか?」
「睡眠が一番大切だと、毛布と遮音の魔石を出してくれました。クリーンの魔石も大量に。彼のおかげでセーフティーエリアが各段に快適になりました。移動の際に貸してくれたマジックバッグはおそらく容量大でしょう」
「エリクサーを使ったときいたが」
「ええ。致命傷でしたが、テイマーがまったく躊躇せずにかけてくれました。オレが死んだらあの場の全員の心が折れるから、剣士のためだと」
「クルーロ、支払いは大丈夫か?」
「ギルド買い取り価格の半額で、期限を10年にしてくれました」
「そうか。無茶はするなよ。マジックバッグの件は、どうだったんだ」
「テイマーは、一緒に戦った仲間だと思っていたのに悲しいと。裏切りがかなり堪えたようです」
「怒っていはいなかったのか」
「悲しんでいました。剣士の感情は読めませんでしたが、Dランクの荷物持ちがかなり責任を感じていたので、そちらに気を遣っていました。それに安全が最優先で、捕まえるために危険を冒す必要はないと」
「そうか。この国や冒険者に対して怒っていないといいんだが。しばらくゆっくり休んでくれ」


◆ユラカヒのギルド(6. 帰還)

「なんて馬鹿なことをしてくれたんだ」
「あれだけ持ってるんだから1つくらいいいでしょう。チヤホヤされて、後ろで守られて、何もしてないくせに」
「お前ら、勘違いしてるぞ。守られていたのはお前らだ」
「どこが」
「あふれが起きた時に一番深く潜っていたのは氷花だ。そこから中層の奴らを拾って、お前らがいたところまで連れて行ったのも氷花だ。お前ら全員見捨ててそのまま地上に出ることもできたんだ。あいつらは守られてたんじゃない、守ってたんだ」
「そんなはずない!」
「アイテムボックス持ちを失うわけにはいかないのに、なぜギルドが救援を出さなかったと思う。あいつらが誰よりも強いからだ」
「嘘だ」
「信じようと信じまいとお前たちの自由だが、お前たちは犯罪奴隷となってあふれの対応に使われることになる。次はだれも守ってくれない。覚悟しておけ」


◆ユラカヒのギルド(6. 帰還)

「ミランさん、俺たち、食料とかポーションとか、本当に払わなくてよかったのか?」
「きっと彼らは受け取らないさ。気になるなら、その分教会に寄付しておけばいい」
「そうする。ハチミツレモン、あれ美味かったなあ」
「あれは驚いたよ。セーフティーエリアだけどセーフティーエリアじゃなくなってたのに、果物切るだけとはいえ料理してたし」
「でもあれで気分が持ち直したっていうのはあるよな。ありがたかったよ」


◆ユラカヒのギルド(6. 帰還)

「氷花よりここの孤児院のためにと、タペラのドロップ品の寄付を受けました。ここのギルドで買い取りしていただけますか?」
「申し訳ないのですが、いまここのギルドには金銭的にも人材的にも余裕がないので、王都に回していただけないでしょうか?」
「分かりました」

「司祭様、氷花よりここの孤児院のためにと、タペラのドロップ品の寄付を受けましたが、ここのギルドでは買い取りが難しいそうなので、王都へ持って行っていただけますか?私はまだここのダンジョンに潜りますので」
「分かりました。このマジックバッグは?」
「それも含めて氷花からの寄付です。生ものは入っていないそうです」
「そうですか。ありがたいことですね。中央教会から手伝いに来てくださってる方に託しましょう」


◆モクリークのギルド長会議(8. 僕の家族)

「氷花が無事に王都につきました」
「大丈夫そうか?」
「ユウさんがマジックバッグの件で落ち込んでいるようですね。裏切りが堪えているようです」
「まったく、助けられたのに余計なことをしてくれたものだ」
「あふれの中、下層から無傷で戻ってくる実力のある相手によく喧嘩を売れるな」
「あの従魔が災害級なのは間違いないな」
「基本的に従魔は戦闘をしなかったが、最も戦闘が激しかった時は剣士のサポートに入り、その助力がなければ全滅していたとSランクが言っていた」
「他の冒険者を助ける気はないが、剣士を助けるためなら戦うということか」
「ダンジョン内に残ったのは、彼らを助けるためか?」
「テイマーに血生臭いところを見せないためらしい。地上の様子が分からなかったからな」
「この後、ドガイへ行くそうです」
「なんだと!裏切った奴らのせいか?!」
「いえ、チーズと友人に会いに行くのが目的だそうです」
「チーズ……。帰ってくるのか?」
「前回のような騒動にする気はないと本人が言っていますので、帰ってくるでしょう。いま王都でも大量に食料を買い込んでいますし、タペラで消費した分の買い出しなのかもしれません」
「どこを通って行く気だ?また山か?」
「可能ならソントにも行きたいらしいのですが、ソントは国が出てくるでしょうし、懸念は伝えました」
「なぜソントに?」
「剣士を戦闘奴隷として購入したときに使った宿に行きたいそうです」
「あそこはギルドでは国の介入を抑えられないだろう。行けば騒動になるぞ」


◆モクリークの宿(8. 僕の家族)

「アル、ごめんね……、僕、」
「ユウ、今は眠れ。大丈夫だ」
「うん……」
『眠ったか。ユウはこの世界の人間が信じられないでいる』
「俺も、この世界の人間だ」
『だから苦しんでいる。安心させてやれ』
「どうすれば」
『俺に聞かれても知らん』

「ブラン、マントのような形ならどうだ?」
『断る』
「ブラン、ユウとお揃いだぞ。絶対ユウは可愛いぞ」
『……』
「ブランとお揃いならユウも着てくれるだろう」(もう一押しか)
『……』
「一生に一度の思い出をユウに作ってやらないか」
『首輪は許さんぞ』
「ユウの髪飾りとお揃いの耳飾りはどうだ?」
『それくらいならいいだろう』
「ではマントと耳飾りだな」
『おい、マントは許可してないぞ。こら聞け!アル!』
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