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続 2章 新たな日々

12-11. 空の旅

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 モクリーク国内でのオークションは、大盛況で終わったらしい。
 武具中心で行われたので、オークション会場には、各貴族お抱えの冒険者とか、領兵のトップとか、戦闘力の高そうな人がそろっていたと、チルダム司教様が笑いながら教えてくれた。二百年周期に向けて、良い武器を確保しておきたい貴族が多かったようだ。

 オークションに先立って、ポーションを受け取った薬師ギルドからはお礼の手紙が届いた。貴重なポーションが含まれていたそうで、感謝の言葉とともに、他の国の薬師ギルドとも協力して病気を治すポーションを研究していくと書かれていた。その研究がいずれ誰かの役に立つのなら嬉しい。

 僕がため込んでいたブロキオン上層の剣を初心者に貸し出す制度は、三つのギルドで試験的に開始されている。しばらく運用してみてから、問題がなければ全国展開するそうだ。
 蓋を開けてみると、当初僕が考えていた孤児院の子たちよりも、親が冒険者ではない家庭から冒険者になる子のほうが利用しているらしい。孤児院の子は、孤児院出身の先輩が使わなくなった剣を孤児院に預けておいて、新たに登録する子がそれを使うというサイクルがもともとあるので、冒険者の知り合いのいない子たちのほうが必要としていた。
 後は、剣を買うお金はあるけれど、買う前にいろんな形の剣を実戦で試したいから、短い期間で複数を借りたいという人もいるらしい。当初の目的とは違う用途での貸し出しだけど、そういうのもありかもしれない。

 モクリークでのオークションが終わったので、次はドガイでのオークションだ。ドガイでは、武具よりも装飾品が多めに出品される。
 次にアルがダンジョンから帰ってきたら、僕がオークションの品を収納して、リネに乗って空路でドガイ入りする予定だ。

「ブラン、そろそろダンジョン行きたいよね」
『まだダメだ』
「僕じゃなくて、ブランがダンジョンで暴れたいんじゃないかなって」
『次のカークトゥルスで思う存分暴れるから、気にするな』

 思う存分。ブランの思う存分ってどんなことになるんだろう。しかも、次はリネも一緒だよね。大丈夫かなあ。ダンジョンが壊れたりしないよね? あそこが壊れちゃうと、ギルドマスターが泣くよ。

「ブランがしたいことがあったら言ってね」
『ユウ、安心しろ。二度と何も言わずにどこかに行ったりしない』
「そうじゃなくて……。ブランがやりたいことがあったら、我慢しないでほしいだけだよ」

 僕の顔を見て小さくため息を吐いたブランは、大きくなって、僕をお腹に抱き込んでくれた。部屋の半分くらいを占める大きさだ。
 出会ったばかりのころ、カイドでのことを思い出して泣く僕を、よくこうして安心させてくれた。最近は、僕から頼んだときくらいしか、しなくなっていたのに。

『我が好きでここにおるのだ。気にするでない』
「ふふっ。その言葉使い、懐かしい」
『偉そうだと言ったのは、ユウだろう』

 そうだった。威厳のあるおじいちゃんっぽい感じで好きだったけど、出会った頃に言葉使いを僕がからかったから変えてしまったのだ。
 ブランは僕に本当に甘い。


 さて、ドガイへの空の旅だ。
 チルダム司教様に見送られて、教会の庭からカザナラの別荘に向けて出発だ。まずは、カザナラで二泊する。
 サジェルはカザナラに先回りして、受け入れ態勢を整えてくれている。大司教様はドガイへ行くためにだいぶ前に出発している。僕たちは空路だけど、他の人たちは陸路だから時間がかかるのだ。

 王都ニザナから直接ドガイの王都タゴヤヘ飛んでもいいのだけれど、僕はリネに乗って長時間移動したことがない。そのため、まずは何があってもすぐに降りられる国内を飛ぶことになった。ニザナからカザナラより、カザナラからタゴヤのほうが近い。
 実は前回あふれの対策の帰りにリネに乗って飛んだとき、短い時間だったけど酔いそうになった。羽ばたきに合わせて少し上下する、その感じが合わなかった。それでブランとアルがすごく心配して、今回のカザナラ経由が決まったのだ。
 モクリークの国内なら、リネがいきなり空から降りてきても何とかなるだろうけれど、ドガイに突然リネが現れたら、おそらく収拾がつかないほどの騒動になってしまう。
 リネでの空の移動が無理そうなら、ブランに乗ってのいつもの地上の移動に切り替える予定だ。
 ブランも空を駆けることができるらしいけど、人に見られると騒動になるので、未経験だ。

『このまままっすぐでいいの?』
「ああ。海岸にそって進んでくれ」
「海がキラキラしてきれいだねえ」

 リネはまだカザナラには行ったことがない。正確には行ったことはあるかもしれないけれど、カザナラだと認識していない。人の決めた地名なんて、神様の知識にはなくても不思議じゃない。

『ユウ、大丈夫か?』
「うん、平気だよ。ありがとう」

 ブランが心配してくれているけど、今日は全く酔わない。あのときは行きの騎乗でふらふらになって体調も万全ではなかったというのもあると思う。それに今日はリネが気にして揺れないようにほとんど羽ばたかないで飛んでくれている。滑空している感じなのに落ちていかないので、おそらく羽ばたきじゃなくて魔法で飛んでくれているんだろう。アルがいつもこれくらい安定していれば楽なのに、とぼやいているけど、そこは直接リネと交渉して欲しい。


 空の旅を楽しんで、カザナラのお屋敷に降りると、サジェルが出迎えてくれた。その後ろに、お屋敷のメイドさんたちが全員そろって整列している。今まで僕が委縮するからと、お屋敷で雇っている人たちは僕の前には姿を現さなかったのに、今回は手が離せない人以外は全員そろっているそうだ。

「皆、神獣ヴィゾーヴニルだ。いつもはこの大きさで飛び回っている。近くに寄ってきても気にせず仕事をしてくれ」
「畏まりました」

 小さくなったリネを肩に停まらせたアルがリネを紹介し、サジェルの言葉に全員が頭を下げた。
 ブランは僕のそばを離れないけど、リネは好きに移動するから、見かけたときに困らないように先に紹介したらしい。それに神獣様を一目見たくて浮足立って仕事にならないとかってこともありそうだから、その対策もあるのかも。みんなマナーとしてはダメだけど、リネのことをしっかり見たい、という葛藤が見える。
 そんなそわそわした空気を一変させるように、サジェルが軽く手をたたき、解散を宣言した。みんな名残惜し気に建物に入っていく。
 サジェルだけが残って、僕に話しかけてきた。

「ユウ様、体調はいかがですか? お客様がいらっしゃっていますが、お会いになりますか?」
「お客様?」
「シリウスのお三方と、ソマロ様です」
「会います!」

 アルを見ると、笑ってうなずいてくれた。僕のために呼んでくれたみたいだ。嬉しい。
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