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続 1章 神なる存在
11-5. 初のダンジョン同行
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神獣ヴィゾーヴニルが降臨し冒険者と契約を結んだと、教会が発表した。
相手が俺であること、俺と共にダンジョンに潜ることが公表されたが、契約の条件や対価の詳しいことは公表されなかった。
ちなみに対価となった魔剣は、俺たちの借りている部屋に飾ってある。どのあたりが気に入ったのかよく分からないが、リネは時々眺めてうっとりしている。別にリネの好きそうな宝石も使われていないのに、人には理解できない何かがあるのかもしれない。
そのすぐ後に冒険者ギルドが全ギルド員と冒険者に対して、神獣様と俺への接触を禁止し、神獣様との間にトラブルが起きてもギルドは一切関知しないと宣言した。またダンジョン内では神獣様のご意向を最優先するように、と言ってくれたので、ほんの少しだけ安堵した。順番待ちとか、優先権とか、そういうものをリネは一切考慮しないだろう。
国からは、「神獣様のご降臨に感謝し、モクリーク王国は神獣様と良い関係を築くことを望む」という談話が発表された。今のところ面会などの要請はないので、自由にしてよいということなんだと思っている。
逸るリネを宥めるのも限界なので、獣道とダンジョンに潜ろう。
「アル、気を付けてね」
『心配性だなあ。オレがいるから大丈夫だって!』
『地上に戻ったらすぐにここへ戻ってこい。いいな』
『ひえっ、おっかない。アル、早くいこう!』
「グァリネ様、アレックス様、行ってらっしゃいませ」
ユウとしばしの別れを惜しむ間もなく、リネに急かされて教会が用意してくれた馬車に乗った。獣道を拾ってダンジョン入り口まで送ってもらうのだ。見送りに来ている司教様たちが苦笑している。
ちなみにリネは、大司教様をいろんな宝石を見せてくれるいい人と認識していて、名前を呼ぶ許可を出している。ブランと違って、気軽に名前を呼んでほしいようだ。
途中で恐る恐る馬車に乗り込んできた獣道と合流し、今日は王都近くのあまり人気のない中級ダンジョンに潜る。最初なので様子見のため、なるべく人の少ないところを選んだ。
ダンジョン前に馬車を乗り付けて現れた俺たちに、周りにいた冒険者がざわついた。皆神獣を見たいのか集まってくるが、俺の知り合いはいないようで、誰も話しかけてはこない。この遠巻きに注目を集める感じは、ユウとダンジョンに潜り始めたころを思い出す。
そんな中、役に立つから一緒に連れていってほしいと、一人の冒険者がリネに自分を売り込み始めた。俺は無視しているし、獣道が止めているが、それでも引き下がらない。
「神獣様! 私もぜひ一緒に連れていってください。必ずお役に立ちます!」
「やめておけ。ギルドから接触は禁止と言われているだろう」
「自分たちが一緒に連れていってもらえるからって調子に乗るな!」
「神獣様に人の理屈など通用しない。やめておけ」
ルフェオが引き下がるように説得しているが、その冒険者はあきらめない。リネは興味がないようだし、このまま無視してダンジョンに入ろうと思ったときだった。
リネがいきなり火を吹き、冒険者の髪だけが綺麗に燃え落ちた。
『うるさいから先にダンジョンに入ってるねー』
「あ、ああ……」
髪を燃やされた冒険者は呆然としたまま立っているが、その頭にはわずかに髪の燃えかすが残るだけだ。これは頭皮を火傷させずに髪だけ燃やした繊細な魔法操作に感心していい場面なのだろうか。
周りの者たちは唖然とした後、笑いをこらえきれず、急いで俺たちから離れていく。
「神は無慈悲で理不尽だ」
「ガリドラ、確かにそれには同意するが、この場で言ってやるな。お前、命を取られなかっただけよかったな。神獣様のご慈悲に感謝しろよ」
ルフェオが冒険者に言葉をかけてから、俺をダンジョンのほうへと促すので、その誘いに乗って移動を始める。
獣道が周りの冒険者に、神獣様は大変気まぐれなので手を出すなと周りの冒険者に伝えろと言ってくれている。それを聞いた冒険者たちも、かなり真剣に頷いている。頼むから、リネが何かをやらかしても俺の責任にしないでくれ。
「アレックス、大丈夫か?」
「もう帰りたい。無事に攻略が終わる気がしない」
「大丈夫だ。神獣様のされることに、人が文句を言えるわけないだろう」
呆然としている俺に、獣道の四人が同情しているのが分かる。なんでこんなことになったんだ。
あのリネとこれからどうやって付き合っていけばいいのか、全く分からない。
ブランにとって守るべきはユウであって、俺はただユウが悲しむから守られているだけなんだと、あらためて突き付けられた。
ダンジョンに先に入っていたリネに追いつくと、モンスターが弱すぎると不満気だ。ブランを見ていると上級ダンジョンの下層であって遊びで倒せるくらいだから、ここの下層で満足すると思えない。今後振り回される予感しかしない。
案の定、戦闘に飽きたリネは、ずっと俺の肩に乗っていて、ドロップ品に興味を惹かれたらとりあえず突っついてみたり、タムジェントの耳の羽根にちょっかいをかけたりしていた。
セーフティーエリアでは、他の冒険者の食べているものに興味を示して飛んでいくので、思わず首をつかんで連れ戻したら、獣道が絶句していた。
俺だって相手は神獣なのだから丁寧に接しなければと思うものの、目を離すと何かが起きるので、首に縄をつけて括りつけたい気分になる。
頼むから不要な騒動を起こさないでくれ。
何とかダンジョンを攻略して、地上に戻ったが疲れた。肉体的にではなく、精神的に疲れた。
獣道が攻略報告は後でしておくからまずは教会まで送っていくと言ってくれたので、申し訳ないがそうさせてもらおう。俺が、というよりもリネがいると騒動が起きる。
『ええー、次のダンジョン行こうよ』
「今回は終わったら教会に戻るとの約束ですので」
リネと繋がりを持ちたいのだろう奴らが周りに群がってきそうなので、こんなところでごちゃごちゃ言い合っていたくない。
案の定、貴族と思われる人たちに囲まれた。国から神獣には関わるなとお達しが出ているはずだが、全く抑えになっていない。ユウに絡むなという命令には従っていたが、神獣さえ手に入れられれば国など乗っ取れるから従う価値がないということなのか。
「神獣様! ダンジョンにご案内いたしますのでぜひ当家においでくださいませ」
「ぜひ我が屋敷に!」
すごいな。このリネを自分の家に招こうと思う、そのチャレンジ精神に拍手を送りたい。ぜひ連れていってくれ。
相手が俺であること、俺と共にダンジョンに潜ることが公表されたが、契約の条件や対価の詳しいことは公表されなかった。
ちなみに対価となった魔剣は、俺たちの借りている部屋に飾ってある。どのあたりが気に入ったのかよく分からないが、リネは時々眺めてうっとりしている。別にリネの好きそうな宝石も使われていないのに、人には理解できない何かがあるのかもしれない。
そのすぐ後に冒険者ギルドが全ギルド員と冒険者に対して、神獣様と俺への接触を禁止し、神獣様との間にトラブルが起きてもギルドは一切関知しないと宣言した。またダンジョン内では神獣様のご意向を最優先するように、と言ってくれたので、ほんの少しだけ安堵した。順番待ちとか、優先権とか、そういうものをリネは一切考慮しないだろう。
国からは、「神獣様のご降臨に感謝し、モクリーク王国は神獣様と良い関係を築くことを望む」という談話が発表された。今のところ面会などの要請はないので、自由にしてよいということなんだと思っている。
逸るリネを宥めるのも限界なので、獣道とダンジョンに潜ろう。
「アル、気を付けてね」
『心配性だなあ。オレがいるから大丈夫だって!』
『地上に戻ったらすぐにここへ戻ってこい。いいな』
『ひえっ、おっかない。アル、早くいこう!』
「グァリネ様、アレックス様、行ってらっしゃいませ」
ユウとしばしの別れを惜しむ間もなく、リネに急かされて教会が用意してくれた馬車に乗った。獣道を拾ってダンジョン入り口まで送ってもらうのだ。見送りに来ている司教様たちが苦笑している。
ちなみにリネは、大司教様をいろんな宝石を見せてくれるいい人と認識していて、名前を呼ぶ許可を出している。ブランと違って、気軽に名前を呼んでほしいようだ。
途中で恐る恐る馬車に乗り込んできた獣道と合流し、今日は王都近くのあまり人気のない中級ダンジョンに潜る。最初なので様子見のため、なるべく人の少ないところを選んだ。
ダンジョン前に馬車を乗り付けて現れた俺たちに、周りにいた冒険者がざわついた。皆神獣を見たいのか集まってくるが、俺の知り合いはいないようで、誰も話しかけてはこない。この遠巻きに注目を集める感じは、ユウとダンジョンに潜り始めたころを思い出す。
そんな中、役に立つから一緒に連れていってほしいと、一人の冒険者がリネに自分を売り込み始めた。俺は無視しているし、獣道が止めているが、それでも引き下がらない。
「神獣様! 私もぜひ一緒に連れていってください。必ずお役に立ちます!」
「やめておけ。ギルドから接触は禁止と言われているだろう」
「自分たちが一緒に連れていってもらえるからって調子に乗るな!」
「神獣様に人の理屈など通用しない。やめておけ」
ルフェオが引き下がるように説得しているが、その冒険者はあきらめない。リネは興味がないようだし、このまま無視してダンジョンに入ろうと思ったときだった。
リネがいきなり火を吹き、冒険者の髪だけが綺麗に燃え落ちた。
『うるさいから先にダンジョンに入ってるねー』
「あ、ああ……」
髪を燃やされた冒険者は呆然としたまま立っているが、その頭にはわずかに髪の燃えかすが残るだけだ。これは頭皮を火傷させずに髪だけ燃やした繊細な魔法操作に感心していい場面なのだろうか。
周りの者たちは唖然とした後、笑いをこらえきれず、急いで俺たちから離れていく。
「神は無慈悲で理不尽だ」
「ガリドラ、確かにそれには同意するが、この場で言ってやるな。お前、命を取られなかっただけよかったな。神獣様のご慈悲に感謝しろよ」
ルフェオが冒険者に言葉をかけてから、俺をダンジョンのほうへと促すので、その誘いに乗って移動を始める。
獣道が周りの冒険者に、神獣様は大変気まぐれなので手を出すなと周りの冒険者に伝えろと言ってくれている。それを聞いた冒険者たちも、かなり真剣に頷いている。頼むから、リネが何かをやらかしても俺の責任にしないでくれ。
「アレックス、大丈夫か?」
「もう帰りたい。無事に攻略が終わる気がしない」
「大丈夫だ。神獣様のされることに、人が文句を言えるわけないだろう」
呆然としている俺に、獣道の四人が同情しているのが分かる。なんでこんなことになったんだ。
あのリネとこれからどうやって付き合っていけばいいのか、全く分からない。
ブランにとって守るべきはユウであって、俺はただユウが悲しむから守られているだけなんだと、あらためて突き付けられた。
ダンジョンに先に入っていたリネに追いつくと、モンスターが弱すぎると不満気だ。ブランを見ていると上級ダンジョンの下層であって遊びで倒せるくらいだから、ここの下層で満足すると思えない。今後振り回される予感しかしない。
案の定、戦闘に飽きたリネは、ずっと俺の肩に乗っていて、ドロップ品に興味を惹かれたらとりあえず突っついてみたり、タムジェントの耳の羽根にちょっかいをかけたりしていた。
セーフティーエリアでは、他の冒険者の食べているものに興味を示して飛んでいくので、思わず首をつかんで連れ戻したら、獣道が絶句していた。
俺だって相手は神獣なのだから丁寧に接しなければと思うものの、目を離すと何かが起きるので、首に縄をつけて括りつけたい気分になる。
頼むから不要な騒動を起こさないでくれ。
何とかダンジョンを攻略して、地上に戻ったが疲れた。肉体的にではなく、精神的に疲れた。
獣道が攻略報告は後でしておくからまずは教会まで送っていくと言ってくれたので、申し訳ないがそうさせてもらおう。俺が、というよりもリネがいると騒動が起きる。
『ええー、次のダンジョン行こうよ』
「今回は終わったら教会に戻るとの約束ですので」
リネと繋がりを持ちたいのだろう奴らが周りに群がってきそうなので、こんなところでごちゃごちゃ言い合っていたくない。
案の定、貴族と思われる人たちに囲まれた。国から神獣には関わるなとお達しが出ているはずだが、全く抑えになっていない。ユウに絡むなという命令には従っていたが、神獣さえ手に入れられれば国など乗っ取れるから従う価値がないということなのか。
「神獣様! ダンジョンにご案内いたしますのでぜひ当家においでくださいませ」
「ぜひ我が屋敷に!」
すごいな。このリネを自分の家に招こうと思う、そのチャレンジ精神に拍手を送りたい。ぜひ連れていってくれ。
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