世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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5章 新しい街の建設

5-6. サボテンから宝石

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 セーフティーエリアで夕食も終えてくつろいでいるときに、「だれか中級ポーションを分けてくれ!」と冒険者が駆け込んできた。その声にテントから続々と人が出てくる。
 パーティー全員が怪我をしているが、1人ぐったりしている人がいる。
 僕はギルドと、ダンジョン内で緊急の場合はポーションを地上価格で渡すという約束をしている。彼らに近寄り、ポーションを渡そうとしたところで、料金をもらってからだ、とコーチェロくんに止められた。

「ギルドとの約束で、地上価格でいいです」
「あんた氷花か。今持ってないんだ。後で渡すからとりあえずくれ」
「えっと……」

 こういう場合どうしていいのか分からない。いつもはアルが対応してくれるが、こんなことは一度もなかった。
 隣にいるブランを見て、僕が氷花だと分かったらしいが、そのブランが少し牙を見せながら冒険者をじっと睨んでいる。

「俺はゾヤラで活動しているBランクのシリウスのリーダー、コーチェロだが、あんたは?」
「そんなこと後でいいだろう、死にそうなんだ。早くポーションをくれ」
「金を払ってからだ」
「なんでだよ、アイテムボックスにたくさん入ってるんだから1つくらいくれよ!」
「話にならない。ユウくん、テントに戻って」

 キリシュくんとブランにテントへと押し戻されたけど、入り口で事態を見守る。

「あのパーティーの名前を知らないか?」

 コーチェロくんが周りの冒険者に聞くけど、誰も答えない。

「そうか。お前、自分の言ったことがどういうことか分かってんのか?」
「命が係ってるんだからくれたっていいだろう!」
「そうだな。死にそうだから上級ポーションもらってもいいよな。エリクサーもいいよな。それで氷花がモクリークを出て行ったら、お前のせいだな」
「なっ!エリクサーなんて言ってないだろう」
「同じことだ」

 そう言うと、コーチェロくんがテントに戻ってきて、お金をもらう前に渡したらダメだろ、とコーチェロくんに怒られてしまった。ごめんなさい。いつもアルに甘えて僕が対応したことないから。
 それでも、命が係ってるなら渡したほうがいいのではと思ったけど、死ぬほどの怪我じゃないらしい。死にそうな怪我なら、そもそも中級ポーションでは治らない。たしかに、アルはそれで戦闘奴隷になったんだし、冷静に考えれば分かることだから、僕も怪我を見て慌てていたようだ。
 結局その冒険者は、他の冒険者から初級ポーションを買って、セーフティーエリアを出て行った。


 サボテンを槍で突いて宝石に変えて8日目、やっと黒色の宝石が出た。緑の宝石もアルの瞳のような宝石が出ているので、これでやっと揃った。
 あまりに黒色の宝石が出なくて、なんで僕の目は黒いんだと目の色を変えたくなってきていたところなので、よかった。
 残りの時間、僕はセーフティーエリアでブランと休憩して、シリウスは順番に2人ずつモンスターを倒しに行った。

 地上に戻り、ギルドに買い取りに出すドロップ品を持っていくが、ふと宝石に付与ができるんじゃないかと思い、その練習用に一部は残すことにした。

「たくさん集めましたね」
「狙っている色が出るまで粘ったので。あまり価値がないものは自分で使いたいので、価値のあるものがあれば、買取をお願いします」

 いくつかアクセサリー加工用に依頼が出ているものがあったので、それは買い取りに出して、後は引き取った。
 加工しようと思っている石も見てもらったが、どちらも人気の石で、特に黒のほうは珍しいから、この中では一番買取価格が高いらしい。縁起が悪い石とかじゃなくてよかった。

 シリウスも買い取りが終わったところで、コーチェロくんが、氷花について伝えたいことがあると職員に告げ、ちょうど手が空いていたらしいギルドマスターの部屋に通された。僕がいないとシリウスだけでは取り合ってもらえない可能性があるので付き合って、と言われたけど、そもそも僕の問題だ。

「何かありましたか」
「ネトナシュの中層で、怪我人を抱えたパーティーが、中級ポーションをくれと、アイテムボックスにたくさん入ってるのだからいいだろう、とユウくんに言いました。周りのパーティーに聞きましたがパーティー名は分かりませんでした。ポーションは渡していません」
「なんということを。パーティーの特徴は分かりますか?」

 コーチェロくんがパーティーの人数、メンバーの特徴を伝えていく。すごいな。僕はみんな怪我をしていたことと、ぐったりしていた人がいたことしか覚えていないのに。
 それでだいたい分かったので、あとはその場にいただろうパーティーに聞いて特定して、処分するそうだ。
 ここのギルドマスターは事務出身の人っぽく見えるけど、王都ニザナのギルドマスターさんの例があるから、冒険者かもしれない。

「当ギルド員が申し訳ありませんでした。カザナラの各ダンジョン内での地上価格での譲渡をするかしないかは氷花の判断に任せます。ここのギルド員には今回のことと、譲渡のことは周知しておきます。本当に申し訳ありませんでした」

 頭を下げられて、思わず僕も頭を下げてしまう。こういう癖はなかなか抜けない。
 いろんな人がいると分かってるので、それでここの冒険者がみんなそうだとは思わないけど、あのときコーチェロくんがパーティー名を聞いた質問に誰も答えなかったってことは、仲間意識はあるんだろう。
 譲渡については、僕の判断はいつも甘いみたいだから、アルに任せよう。


 お屋敷に戻ると、アルはまだ帰ってきてなかった。20日ほど上級ダンジョンに行ってくるとサジェルに伝えたそうなので、あと5日ほどは帰ってこないだろう。
 目的のものは入手できたので、明日宝石店に行くための馬車の準備をお願いする。僕たちの馬車は街中を走るには向いていないのだ。
 アイスの付与については、都合のいいときに商人が来てくれるそうなので、宝石店を午前に尋ね、商人には午後に来てもらおう。

 のんびりお風呂に入って、シリウスのみんなとご飯を食べ、今日は早めに休む。
 でもその前にブランのブラッシングだ。いつもブランには助けてもらってるけど、今回の宝石はほとんどブランがとってくれたようなものだ。ありがとう。もふもふ。


 宝石店は、いつ来ても緊張する。今回も応接室のようなところでデザインを聞いてくれるので、ショーケースになるべく近寄らないように通り過ぎる。

「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご要望でしょうか」
「この宝石を加工して、指輪を2つ作ってほしいです」
「指輪のイメージや、使いたいモチーフなどはおありですか?」
「この花を使ってほしいです」

 今回はちゃんと考えてきたのだ。
 ブランが作ってくれた氷の花をデザインに使ってほしいので、ブランに許可をもらって、1週間は溶けないことを確認して、石と一緒に渡した。時々アイテムボックスから出して見ているけど、ブランの氷の花は、八重桜みたいに花びらが重なっていてとても綺麗だ。
 店員さんは宝石と氷の花をしばらく眺めた後、花があしらわれたサンプルの指輪を持ってきて、机に並べてくれた。中に1つすごく大きな花で花びらが全て宝石でできてるのがあるけど、それどういう場面でつけるの?確かにブランの氷の花と同じくらいの大きさだけど。

 まず、イメージと違うものを外すよう言われ、大きな花と、ゴシックリングみたいなのを外す。
 その後は、見せられた2つの指輪でどちらがイメージに近いかと聞かれて選ぶ。前回、全部同じに見えるって言ったのを覚えられていて、その対策が練られている気がする。
 質問を終えて、店員さんがさらさらと3つデザインを描いて見せてくれた中から、一番シンプルそうなものを選んだ。
 花の加工に少し時間がかかるので、出来るのは3日後以降になるが、渡すのは、リングの大きさの調整のためアルもいるときでないといけない。
 アルが帰ってきたら連絡して、それからお屋敷に届けてもらえることになった。

 お屋敷に戻って、庭でお昼を食べているが、春の柔らかな日差しと緑が綺麗だ。しばらくダンジョンにいたから余計に日差しが嬉しい。
 ブランが芝生の上で伸びていて、キリシュくんも、春と秋は地上の依頼がいいな、と呟いている。

「あのモチーフにした花ってもしかして、パーティー名の由来?」
「うん。ブランが作って降らしてくれたんだ。教会の結婚式で花をまいているのを見ていいなーって言ったら」
「アルさんとの思い出の花ってことか」
「夕陽にキラキラしてすごく綺麗だったよ」

 ユウくんって意外にロマンチストだな、と揶揄われたけど、あの時の幸せな気持ちを思い出すとそれも笑って流せる。

 その後は、冒険者があの見本で見せられた大きい花の指輪を使う場面はどこか、という話で盛り上がり、あの指輪がマジックアイテムだったら魔法使いならつけていてもおかしくない、いう結論になった。
 この世界で指輪は、貴族が財力を見せつけるためか、マジックアイテムとしてしか使用されない。
 僕が宝石に付与できれば、冒険者がつける指輪もありかもかもしれない。ただあんなに派手なのは、どこかにひっかけてしまいそうなので、ないな。
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