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(30)大食いしよう!⑤
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「ちょっと店員さん、話があるんだけど一緒にそこまでいいかな?」
人当たりの良い笑顔を浮かべたジョルジオに指名された店員は戸惑った。
話?話とは何だろう。何の因縁を付けられるのか?
苦情を言われる様な接客をした覚えもつもりもないし、この営業時間いっぱいに忙しい店の中を隅から隅まで回り働いているのだ。
なのに、この金髪碧眼の優男の言葉はどこか剣呑さを孕んでいる。
動けないでいると、ぐいっと腕を掴まれ捕まえられた。咄嗟に振り解こうとしたが、びくともしない。
「店長さんには了解取ってあるから大丈夫。給料減らされたりしないよ」
ぐいぐいっと引っ張って行く。
ジョルジオは他の従業員に「ちょっと借りますねー、有難うー」と愛想笑いで手を振った。
ずるずる引きずられる様にして裏口から外に出るとジョルジオは結界を張った。
「何だよあんた!!」
憤る店員にジョルジオの冷たい視線が降り注ぐ。
「……お前、あの人に何をした?」
「あの人?」
「広義的に言えば、この店の客」
「はあ!?意味分かんねーよ、変な因縁付けんじゃねーよ警察呼ぶぞ」
「呼べよ」
「あんだとコラ」
「ここで謝罪した後で魔界に返されて勇者に殺されるか、賢者都市に献体として送り込まれて生きたまま魔石になるか」
「待て!何の話してんだよオマエ―――」
「俺に嬲り殺されるか」
ジョルジオがパチンと指を鳴らすと魔法陣が店員の頭上に浮かび上がり光った。光の輪が上から下へ一つ、降りる。胴の辺りで2つに別れ、1本は店員を拘束し、もう1本は地面に吸い込まれて消えた。
"検索完了"
魔法陣が消えたと同時に店員の頭上に文字らしきものと数字が浮かぶ。
「それ、お前の名前だろ」
ジョルジオに言われて店員は自身の頭上を仰ぎ見た。
店員が息を呑む。そうだ、これは自分の名前だ。
「発音、合ってるかな―――」
「やめろ!」
声に出して読もうとして店員がジョルジオに叫ぶ。
「………………魔界文字…読めるのか、言葉が分かるのか?」
「一応」
「嘘だ、そんな人間いない、いたとしてもこんな所にいない、い」
「ホントはちゃちゃっと殺せればいいんだけどね、まあ、念の為」
ジョルジオが、はーーっと溜め息を吐く。
本当に即刻スパッと息の根止められたら良いのに。でももし身元や犯行確認もせずに殺ってしまって当代勇者に小言を言われるのは避けたい。ていうか、貴方の留守中の代行権あるんだから文句言われるのも理不尽な…自分だったら瞬殺、いや何するか分からん…早く過去へ行け……うんぬん。
店員に扮した魔族の男の子はジョルジオに無言で睨まれて萎縮していたが、ジョルジオは実はこんな事を思っていた。
細い模様は魔界文字だった。ただし手書き用ではなく思念を魔力で投写して書く真名文字だ。そして発音も普通に喋るものとは異なる。一方、数字は数字で人間界で今日使われる世界共通のものであった。
魔界文字と並んで書かれた人間界の数字との組み合わせのそれは。
「何とかっていう伯爵の側近の一人だな。上手ーく潜伏してたんだろうけど今日で終わりだ」
「何を…」
「やり口がセコくて狡くて卑怯で…だから今まで引っ掛からなかったんだ、そうか。絶対前科あるだろ。掠め取った人間のエネルギーは伯爵に送ってるんだな?」
店員―――には違いないが人間に化けていた魔族の男は問われても沈黙する。
ジョルジオは口の端を少し吊り上げて男を見ていた。
「あの食堂なら毎日毎時間、満員だ。毎日が祭りみたいだもんな集まり易いよな、そりゃ。でも、まさか魔界伯爵の側近が働いてるなんて流石に思わなかったよ」
男か沈黙する。
「最も側近って言っても下から数えた方で」
「うるさい!!」
「人間に一時的に夢を見せて生まれた感情を奪うんだろ?典型的な悪魔だな」
でも眠っている時に見る夢ではなく白昼夢。
しかも一瞬で、普通に人間が何気なくふと思い出してしまったり想像してしまったりした時に生まれた感情が脳裏に結ぶ像。ほんの短時間に見せられた映像から生まれる感情と映像の一部を切り取って搾取する。一部なのは全部を切り取るのは力をある程度要するからだ。存在感を極力隠しているのに、そのせいで見つかったら処分されるに決まっている。
一部しか搾取しないのは他にもある。多少嫌な思いをしてもその感情や思考や映像として想像してしまった映像を切り取れば、結構その時の思いの波の高さは低くなるのだ。印象が薄まるとでも言えばいいのか。何者かに操作されたのでなく自発的な事だったと思う事で納得する。そして目の前に旨い料理と飲み物がある。人間はその時のモヤモヤを飲食する事で忘れようとするのだ。うやむやにして忘れようとする。
「この店だったら回転率も良いし、スレスレで取るには良い場所だったな確かに」
魔族の男とて、やり方は地味で効率は悪かろうとも成功し続けたのは予想外だった。
「どうせ大した事ないから、ちょっとだけなら知らない振りしてても良かったんだけど」
ジョルジオは薄く笑った。
人当たりの良い笑顔を浮かべたジョルジオに指名された店員は戸惑った。
話?話とは何だろう。何の因縁を付けられるのか?
苦情を言われる様な接客をした覚えもつもりもないし、この営業時間いっぱいに忙しい店の中を隅から隅まで回り働いているのだ。
なのに、この金髪碧眼の優男の言葉はどこか剣呑さを孕んでいる。
動けないでいると、ぐいっと腕を掴まれ捕まえられた。咄嗟に振り解こうとしたが、びくともしない。
「店長さんには了解取ってあるから大丈夫。給料減らされたりしないよ」
ぐいぐいっと引っ張って行く。
ジョルジオは他の従業員に「ちょっと借りますねー、有難うー」と愛想笑いで手を振った。
ずるずる引きずられる様にして裏口から外に出るとジョルジオは結界を張った。
「何だよあんた!!」
憤る店員にジョルジオの冷たい視線が降り注ぐ。
「……お前、あの人に何をした?」
「あの人?」
「広義的に言えば、この店の客」
「はあ!?意味分かんねーよ、変な因縁付けんじゃねーよ警察呼ぶぞ」
「呼べよ」
「あんだとコラ」
「ここで謝罪した後で魔界に返されて勇者に殺されるか、賢者都市に献体として送り込まれて生きたまま魔石になるか」
「待て!何の話してんだよオマエ―――」
「俺に嬲り殺されるか」
ジョルジオがパチンと指を鳴らすと魔法陣が店員の頭上に浮かび上がり光った。光の輪が上から下へ一つ、降りる。胴の辺りで2つに別れ、1本は店員を拘束し、もう1本は地面に吸い込まれて消えた。
"検索完了"
魔法陣が消えたと同時に店員の頭上に文字らしきものと数字が浮かぶ。
「それ、お前の名前だろ」
ジョルジオに言われて店員は自身の頭上を仰ぎ見た。
店員が息を呑む。そうだ、これは自分の名前だ。
「発音、合ってるかな―――」
「やめろ!」
声に出して読もうとして店員がジョルジオに叫ぶ。
「………………魔界文字…読めるのか、言葉が分かるのか?」
「一応」
「嘘だ、そんな人間いない、いたとしてもこんな所にいない、い」
「ホントはちゃちゃっと殺せればいいんだけどね、まあ、念の為」
ジョルジオが、はーーっと溜め息を吐く。
本当に即刻スパッと息の根止められたら良いのに。でももし身元や犯行確認もせずに殺ってしまって当代勇者に小言を言われるのは避けたい。ていうか、貴方の留守中の代行権あるんだから文句言われるのも理不尽な…自分だったら瞬殺、いや何するか分からん…早く過去へ行け……うんぬん。
店員に扮した魔族の男の子はジョルジオに無言で睨まれて萎縮していたが、ジョルジオは実はこんな事を思っていた。
細い模様は魔界文字だった。ただし手書き用ではなく思念を魔力で投写して書く真名文字だ。そして発音も普通に喋るものとは異なる。一方、数字は数字で人間界で今日使われる世界共通のものであった。
魔界文字と並んで書かれた人間界の数字との組み合わせのそれは。
「何とかっていう伯爵の側近の一人だな。上手ーく潜伏してたんだろうけど今日で終わりだ」
「何を…」
「やり口がセコくて狡くて卑怯で…だから今まで引っ掛からなかったんだ、そうか。絶対前科あるだろ。掠め取った人間のエネルギーは伯爵に送ってるんだな?」
店員―――には違いないが人間に化けていた魔族の男は問われても沈黙する。
ジョルジオは口の端を少し吊り上げて男を見ていた。
「あの食堂なら毎日毎時間、満員だ。毎日が祭りみたいだもんな集まり易いよな、そりゃ。でも、まさか魔界伯爵の側近が働いてるなんて流石に思わなかったよ」
男か沈黙する。
「最も側近って言っても下から数えた方で」
「うるさい!!」
「人間に一時的に夢を見せて生まれた感情を奪うんだろ?典型的な悪魔だな」
でも眠っている時に見る夢ではなく白昼夢。
しかも一瞬で、普通に人間が何気なくふと思い出してしまったり想像してしまったりした時に生まれた感情が脳裏に結ぶ像。ほんの短時間に見せられた映像から生まれる感情と映像の一部を切り取って搾取する。一部なのは全部を切り取るのは力をある程度要するからだ。存在感を極力隠しているのに、そのせいで見つかったら処分されるに決まっている。
一部しか搾取しないのは他にもある。多少嫌な思いをしてもその感情や思考や映像として想像してしまった映像を切り取れば、結構その時の思いの波の高さは低くなるのだ。印象が薄まるとでも言えばいいのか。何者かに操作されたのでなく自発的な事だったと思う事で納得する。そして目の前に旨い料理と飲み物がある。人間はその時のモヤモヤを飲食する事で忘れようとするのだ。うやむやにして忘れようとする。
「この店だったら回転率も良いし、スレスレで取るには良い場所だったな確かに」
魔族の男とて、やり方は地味で効率は悪かろうとも成功し続けたのは予想外だった。
「どうせ大した事ないから、ちょっとだけなら知らない振りしてても良かったんだけど」
ジョルジオは薄く笑った。
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