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本編

第11話_傷心に触れる柔肌-3

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「…すみません。先輩の気持ちには…、…応えられません」

蒼矢ソウヤ影斗エイト読み通り・・・・、性別を理由に拒否してくることはなかった。
影斗は返答を受けても黙ったまま彼を見返す。無言で促され、蒼矢はわずかに頬を染めながら、視線は外さずに続けた。

「先輩は…俺にとって見上げる人で、導いてくれる人で…先輩と関ってきたこの数年間で、俺の中でそういう人だって、固まってしまっているんです。…それ以外の存在として見ることはできません」

影斗の中に初めて、落胆の感情が降りていく。
自分が過去下してきたいくつもの判断の過ちに、悔しさが込み上げてくる。

「先輩がいつも気遣って下さったり、…愛情を注いで下さったりするのも、すごく感じてます。自分には勿体無いくらいで、本当に感謝しています。…でも、だから…俺は先輩と同じくらい、先輩に思いを返せる自信がありません。きっとこれからも、先輩からの愛情に甘えてしまうだけになる。…俺はそれが嫌だし、…苦しいんです」

影斗は頬に触れていた手を首筋へと移し、シャツの中へ滑り込ませる。

「…っ」

肌を這うその感触に、蒼矢の身体がぴくりと揺れる。
手のひらから伝わる熱に目を細める面差しを、影斗は表情を変えずにじっと見下ろす。

「俺からの一方的でもいい。傍に居てくれるだけでいい。…だったら?」
「……、…すみません」

しかし、その少し強引に続けた口説き文句にも、蒼矢は首を横に振った。

「…」

影斗は息を吐き出しながら、蒼矢から手を離す。
被さっていた身体を外していく影斗を追うように、蒼矢は身を起こした。

「でも先輩は、俺にとってかけがえのない人です。…唯一の人なんです。…それだけは…」
「…わかった。ありがとな」

焦った風に、思いを振り絞って訴える蒼矢へ、影斗はそう短く応えるだけだった。

「…帰っか」
「……」

そう声を掛けられ立ち上がったものの、蒼矢はうつむいたまま歩き出せない。

「おら、行くぞ」
「…、…っ先輩、」
「謝んなよ」

零れかけた言葉を止められ、思わず見上げた蒼矢を、振り向いた影斗は静かに、鋭さを込めた視線で見やっていた。

「謝んな。お前の口から謝罪はもう聞きたくねぇ。…こっちが惨めになるだけだ」
「…っ……」

そして少しずつ歪んでいく面差しに、落ち着いた声色で続けた。

「お前とはしばらく会わねぇ。…俺がいいって言うまで連絡してくんな」


――
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