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本編
第2話_胸に残る澱-3
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葉月は、苡月を蒼矢の隣に座らせる。
まだ少し紅潮していた苡月だったが、上目遣いに蒼矢へ見上げた。
「烈君は、土曜日なのに今日も配達ですか?」
「うん。酒屋さんは土日は休みじゃないからね…今日は都外まで配達周りに行くって連絡が来たよ」
会話の中に出てきた花房 烈は陽の従兄で、葉月の生徒である蒼矢とも幼馴染であるため、苡月も以前から度々会っている。
先だって苡月がこの神社へ住まいを移しに帰ってきた日も、烈は家業である酒屋の仕事が入っていたが夕方には顔を出し、夕食を囲った。
「忙しいんですね…そういえば、戻ってきてからまだ影斗さんに会えてないんです」
「!」
「たまに僕がこっちに遊びに来てたその度に、先にこの家に来ててお泊りしてる印象が強くて…そっちの方が本当は違和感なのに、今いない方がなんだか新鮮に思えます」
また、もう一人の宮島 影斗も葉月と親しく、もちろん苡月とも面識はあるし、会う度に可愛がって貰えていた。しかし先述の日、烈と同様夕食に合流するはずだった彼は姿を見せず、こちらへ戻ってきてから一度も会えていなかった。
「…影斗さんも忙しいんでしょうか?」
「…あぁ…、」
話題を作ろうと、少しはにかみながら話しかけた苡月だったが、蒼矢は再びわずかに言葉を詰まらせる。
「…影斗先輩は、忙しいというか…少しの間来られなくなったみたいで」
「えっ…来られなくなったって、何かあったんですか? 病気とかですか…?」
「ああ、えっと…先輩に何かがあったわけじゃなくて、理由は…俺もちょっと」
「…?」
蒼矢の言動と表情に、目をぱちくりさせる苡月の横から、またしても葉月が会話へ割って入る。
「――影斗は大学の方が忙しくなっちゃったみたいでね。しばらくこっちには来ないって、僕も聞いてるよ」
「影兄もあれで大学卒業年だしな! 俺はぶっちゃけ、いまだに本当に大学通ってんのか疑ってるけど」
「いやいや、彼はやるべきことはやってるよ。自分が損するような行動はしないタイプだからね」
「確かに―。ぬかりねぇんだよなぁ、あの人…」
「そうなんだ。…じゃあ、まだしばらくは会えないかな…」
「お前もうこっち住みなんだし、時期が過ぎればいくらでも会えるって! 影兄のSNS教えとくか?」
「! ううん…直接会って聞きたいから、大丈夫」
うまい具合に陽も会話に乗ってきて話が締まり、安堵する中に困惑と疑念を帯びた表情を浮かべながら見てくる蒼矢へ、葉月は微笑みを返した。
まだ少し紅潮していた苡月だったが、上目遣いに蒼矢へ見上げた。
「烈君は、土曜日なのに今日も配達ですか?」
「うん。酒屋さんは土日は休みじゃないからね…今日は都外まで配達周りに行くって連絡が来たよ」
会話の中に出てきた花房 烈は陽の従兄で、葉月の生徒である蒼矢とも幼馴染であるため、苡月も以前から度々会っている。
先だって苡月がこの神社へ住まいを移しに帰ってきた日も、烈は家業である酒屋の仕事が入っていたが夕方には顔を出し、夕食を囲った。
「忙しいんですね…そういえば、戻ってきてからまだ影斗さんに会えてないんです」
「!」
「たまに僕がこっちに遊びに来てたその度に、先にこの家に来ててお泊りしてる印象が強くて…そっちの方が本当は違和感なのに、今いない方がなんだか新鮮に思えます」
また、もう一人の宮島 影斗も葉月と親しく、もちろん苡月とも面識はあるし、会う度に可愛がって貰えていた。しかし先述の日、烈と同様夕食に合流するはずだった彼は姿を見せず、こちらへ戻ってきてから一度も会えていなかった。
「…影斗さんも忙しいんでしょうか?」
「…あぁ…、」
話題を作ろうと、少しはにかみながら話しかけた苡月だったが、蒼矢は再びわずかに言葉を詰まらせる。
「…影斗先輩は、忙しいというか…少しの間来られなくなったみたいで」
「えっ…来られなくなったって、何かあったんですか? 病気とかですか…?」
「ああ、えっと…先輩に何かがあったわけじゃなくて、理由は…俺もちょっと」
「…?」
蒼矢の言動と表情に、目をぱちくりさせる苡月の横から、またしても葉月が会話へ割って入る。
「――影斗は大学の方が忙しくなっちゃったみたいでね。しばらくこっちには来ないって、僕も聞いてるよ」
「影兄もあれで大学卒業年だしな! 俺はぶっちゃけ、いまだに本当に大学通ってんのか疑ってるけど」
「いやいや、彼はやるべきことはやってるよ。自分が損するような行動はしないタイプだからね」
「確かに―。ぬかりねぇんだよなぁ、あの人…」
「そうなんだ。…じゃあ、まだしばらくは会えないかな…」
「お前もうこっち住みなんだし、時期が過ぎればいくらでも会えるって! 影兄のSNS教えとくか?」
「! ううん…直接会って聞きたいから、大丈夫」
うまい具合に陽も会話に乗ってきて話が締まり、安堵する中に困惑と疑念を帯びた表情を浮かべながら見てくる蒼矢へ、葉月は微笑みを返した。
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