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本編
第5話_英国生まれの花-3
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よく見ると、どの冊子にもおびただしい枚数のふせんが貼られ、それらひとつひとつに小さな文字で何事かコメントが書き記されていた。
「今日は元々ホテル近辺の観光地だけ周る予定にしてたから、ママからあなたにパートナーが代わっても全く問題無かったの」
「…お母さんは残念でしたね」
「そうね。でもかえって私は、現地に長く居る人についててもらった方が安心できるわ…なにしろトウキョウは、人の密度がすごいって聞いてるし。それに、乗り換えとかはイメトレしかできてないから、ソウヤくんには是非交通機関の案内をお願いしたいの」
「もちろんです、わかりました」
蒼矢がそう快諾すると、カレンは大きく頷き、ついで神妙な顔つきになって、居住まいを正した。
「…急な話だったのに、お時間空けてくれて本当にありがとう。…今日は一日お世話になります」
声のトーンを落としながらぺこりとお辞儀をする姿を見、蒼矢は一時黙した後、彼女の観光誌をひとつ手に取る。
「…せっかく遠方からはるばる来たんですから、ぜひ楽しんで、沢山思い出を作っていって下さい。カレンさんにとって素敵な一日になるよう、僕もお手伝いします」
「…ありがとう」
よれた冊子に優しく手を触れながら伝えられる言葉に、顔をあげたカレンは少し目を見張って表情を止めてから、嬉しそうに破顔した。
「重いでしょうから、カレンさんが持ってきたガイドブックは道中僕が持ちますね」
「…! ありがとう、助かるわ。あ、私のことは"カレン"って呼んでね」
「!? は、はい…」
「それからっ」
出会ってすぐさま呼び捨てで呼ぶように言われて少し動揺する蒼矢へ、カレンは間髪入れずに続ける。
「同い年なんだから、敬語はなしにしましょう?」
茶目っ気たっぷりにウィンクをしながらそう要求され、ますます戸惑った蒼矢だったが、カレンのその人懐っこい笑顔を見てすぐに折れ、遠慮がちにはにかんだ。
「…了解」
それからまた少しだけ一日の流れについて打ち合わせが続けられ、とどまっている時間がもったいないということで、さっそく観光地巡りへくり出すことになった。
ホテルのエントランスから外へ出、ひとまず最寄りの駅から最初の目的地へと移動する。
うきうきで小躍りするカレンの隣で、蒼矢は立ち止まり、スマホの電車乗換案内へ目を落とす。
「まずはお台場だったね。ええと、乗る電車は…」
「モノレールに乗って、一度乗り換えるって書いてあったと思うわ」
「そうなんだ。ええと、どっちから来たっけな…」
「…あっ、あそこに案内板があるわよ。右に行ってまっすぐで、5分くらい行けば着くみたい」
「そっか、そうだった」
「こっちよ、ソウヤ!」
カレンはもたつく蒼矢の手を優しく引き、微笑みながら先導していく。
開始直後で既に案内・サポート役の体をなしていない蒼矢だったが、ふたりともそこはお構いなしに、緩やかな空気感で最寄り駅への道を歩いていった。
「今日は元々ホテル近辺の観光地だけ周る予定にしてたから、ママからあなたにパートナーが代わっても全く問題無かったの」
「…お母さんは残念でしたね」
「そうね。でもかえって私は、現地に長く居る人についててもらった方が安心できるわ…なにしろトウキョウは、人の密度がすごいって聞いてるし。それに、乗り換えとかはイメトレしかできてないから、ソウヤくんには是非交通機関の案内をお願いしたいの」
「もちろんです、わかりました」
蒼矢がそう快諾すると、カレンは大きく頷き、ついで神妙な顔つきになって、居住まいを正した。
「…急な話だったのに、お時間空けてくれて本当にありがとう。…今日は一日お世話になります」
声のトーンを落としながらぺこりとお辞儀をする姿を見、蒼矢は一時黙した後、彼女の観光誌をひとつ手に取る。
「…せっかく遠方からはるばる来たんですから、ぜひ楽しんで、沢山思い出を作っていって下さい。カレンさんにとって素敵な一日になるよう、僕もお手伝いします」
「…ありがとう」
よれた冊子に優しく手を触れながら伝えられる言葉に、顔をあげたカレンは少し目を見張って表情を止めてから、嬉しそうに破顔した。
「重いでしょうから、カレンさんが持ってきたガイドブックは道中僕が持ちますね」
「…! ありがとう、助かるわ。あ、私のことは"カレン"って呼んでね」
「!? は、はい…」
「それからっ」
出会ってすぐさま呼び捨てで呼ぶように言われて少し動揺する蒼矢へ、カレンは間髪入れずに続ける。
「同い年なんだから、敬語はなしにしましょう?」
茶目っ気たっぷりにウィンクをしながらそう要求され、ますます戸惑った蒼矢だったが、カレンのその人懐っこい笑顔を見てすぐに折れ、遠慮がちにはにかんだ。
「…了解」
それからまた少しだけ一日の流れについて打ち合わせが続けられ、とどまっている時間がもったいないということで、さっそく観光地巡りへくり出すことになった。
ホテルのエントランスから外へ出、ひとまず最寄りの駅から最初の目的地へと移動する。
うきうきで小躍りするカレンの隣で、蒼矢は立ち止まり、スマホの電車乗換案内へ目を落とす。
「まずはお台場だったね。ええと、乗る電車は…」
「モノレールに乗って、一度乗り換えるって書いてあったと思うわ」
「そうなんだ。ええと、どっちから来たっけな…」
「…あっ、あそこに案内板があるわよ。右に行ってまっすぐで、5分くらい行けば着くみたい」
「そっか、そうだった」
「こっちよ、ソウヤ!」
カレンはもたつく蒼矢の手を優しく引き、微笑みながら先導していく。
開始直後で既に案内・サポート役の体をなしていない蒼矢だったが、ふたりともそこはお構いなしに、緩やかな空気感で最寄り駅への道を歩いていった。
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※作者の個人的な解釈が含まれています。
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