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本編

第17話_容赦無き叱咤激励-1

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その後、影斗エイトはホテル近隣のネットカフェで待機すると言い、部屋を出て行った。
大人しく一泊することになった蒼矢ソウヤは、軽く食事を取ってからアメニティーの寝間着に袖を通し、ベッドへ横になった。
疲労を重ねていたからか、程なくしてそのまま眠りつき、夜が更けていく。


「…、…っ…!」

深夜になり、蒼矢はふと目を覚ます。

「…」

感情が揺さぶられるような激しい夢を見ていたのか、何かに意識を引っ張り戻される感覚を覚えながら目を見開き、蒼矢は少し鼓動の高鳴る胸を押さえ、詰まる息を吐き出した。
いつの間にか掛け布団は脇に落ち、火照った身体はしっとりと汗ばんでいた。

「うなされてましたよ、あんた」

と、誰もいないはずの室内に声が聞こえ、見上げる薄暗い天井の中に、ぼんやりと薄く見覚えのあるシルエットが浮かび上がる。

「…立羽タテハ…」

視界に入る景色へ身体を半分溶かし、リンはベッドに寝そべる蒼矢を真上から見下ろしていた。
虚を突かれ、自分を凝視する彼を、欠片も面白く無さそうな表情で見やっている。
昼間の件で蝶が鱗だと聞かされてはいたが、結局人間の姿では対面出来てなかったため、蒼矢の中で疑念が残ったままだったが、密室での不意な彼の出没に、やはり真実なのだとようやく飲み込めた。

「…本当にそうだったんだ」
「あれだけ影斗先輩に説明して貰ってたのに、信じてなかったんですか?」

蒼矢からぽつりと漏れた言葉に、鱗は眉を顰めて睨む。

「こっちは先輩に頼まれて甲斐甲斐しくあんたを見張ってあげてるのに、無防備に寝こけてて、いいご身分ですね。おまけに騒々しくごろごろ寝返りうつし、寝言は言うし、気持ち悪いったらないです」
「寝言…?」
「良かったですね、先輩の名前を呼んだりなんかしたら蹴り起こしてるところでした」

鱗はそう、苛立ちを紛らせながら鼻を鳴らし、つんとそっぽを向く。

「心配するだけ無駄です。あんただけじゃなく他のセイバーあんたのお仲間も、他のたちにちゃんと見張っててもらってるんですから。あんたらと違って、みんな優秀なんです」
「…ありがとう」

皮肉たっぷりの鱗の言に、呆気にとられた表情で聞き入っていた蒼矢は少しずつ表情を戻し、目元を緩める。
心情が滲み出るその面差しに、鱗は調子が狂ったのか不満気に口元を歪めてみせた。
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