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本編
第15話_閉ざす唇に触れる瞳-4
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立羽 鱗。
2ヶ月くらい前、大学の後輩として蒼矢の前に姿を現した彼は、自分の人生に絶望していたところを侵略者[斑]に襲われたものの、その存在に魅入られて身体を売って異能の力を手に入れた、元・人間の[異界のもの]だった。
"ひと"である時、他人から虐げられる人生だけを歩んできた彼は、[異界のもの]になったことで、今度は自分の意のままに人を操ろうという支配欲に駆られるようになった。
そして、元々標的としていた蒼矢を自分とのあまりの境遇の違いに憎んで妬み、内に眠っていた残虐性を振りかざして精神的にも肉体的にも追いつめようとした。
鱗は、蒼矢へ好意を向ける影斗へも干渉して心を奪おうとするが、影斗の気が向くことが無いまま、自分を造った[侵略者]に契約違反を理由に、その存在を消滅させられてしまった。
悲劇に晒されて心を捻じ曲げ、自らをつくる全てを虚構で覆っていた彼は終ぞ癒されることも赦されることも無く、その呆気なくも後味の悪い最期は、蒼矢の脳裏にへばりつくように残っていた。
記憶に呼び起こされる闇深くも可憐だった彼の容貌と、目の前に映る小さな蝶を、蒼矢は必死に頭の中で照らし合わせていた。
「――挨拶しろよ、元・恋敵に」
蒼矢が驚愕の面持ちを晒す前で、影斗は蝶へ視線をやる。
促されるも、蝶は彼の肩で黒瑠璃の翅を休めたまま、極小の複眼を蒼矢へまっすぐ向けていた。
ぴくりとも動かないその様子に、影斗は軽くため息をつく。
「お前とは面合わせたくないそうだ。…どいつもこいつも頑固で困るぜ」
「…っ…どういうことですか…? 経緯が解らない」
少しおどけてみせた影斗に構わず、蒼矢は彼へ寄る。
「仮にこの蝶が本当に立羽だとしても、なんで今ここに…この姿で」
「可愛いじゃねぇか、これはこれで」
「はぐらかさないで下さい! 立羽は…あの時」
…立羽はあの時、[侵略者]に吸収されて、消えたはずだ…
「まぁ落ち着けって、いちから説明してやっから。…構わねぇよな?」
影斗にそう問われると、蝶は彼の肩から飛び立ち、サイドテーブルの隣に備えられたフロアランプの傘にとまる。
ふたりを見下ろす高さに落ち着いたのを見、影斗は再び軽く息をついてから、口を開いた。
2ヶ月くらい前、大学の後輩として蒼矢の前に姿を現した彼は、自分の人生に絶望していたところを侵略者[斑]に襲われたものの、その存在に魅入られて身体を売って異能の力を手に入れた、元・人間の[異界のもの]だった。
"ひと"である時、他人から虐げられる人生だけを歩んできた彼は、[異界のもの]になったことで、今度は自分の意のままに人を操ろうという支配欲に駆られるようになった。
そして、元々標的としていた蒼矢を自分とのあまりの境遇の違いに憎んで妬み、内に眠っていた残虐性を振りかざして精神的にも肉体的にも追いつめようとした。
鱗は、蒼矢へ好意を向ける影斗へも干渉して心を奪おうとするが、影斗の気が向くことが無いまま、自分を造った[侵略者]に契約違反を理由に、その存在を消滅させられてしまった。
悲劇に晒されて心を捻じ曲げ、自らをつくる全てを虚構で覆っていた彼は終ぞ癒されることも赦されることも無く、その呆気なくも後味の悪い最期は、蒼矢の脳裏にへばりつくように残っていた。
記憶に呼び起こされる闇深くも可憐だった彼の容貌と、目の前に映る小さな蝶を、蒼矢は必死に頭の中で照らし合わせていた。
「――挨拶しろよ、元・恋敵に」
蒼矢が驚愕の面持ちを晒す前で、影斗は蝶へ視線をやる。
促されるも、蝶は彼の肩で黒瑠璃の翅を休めたまま、極小の複眼を蒼矢へまっすぐ向けていた。
ぴくりとも動かないその様子に、影斗は軽くため息をつく。
「お前とは面合わせたくないそうだ。…どいつもこいつも頑固で困るぜ」
「…っ…どういうことですか…? 経緯が解らない」
少しおどけてみせた影斗に構わず、蒼矢は彼へ寄る。
「仮にこの蝶が本当に立羽だとしても、なんで今ここに…この姿で」
「可愛いじゃねぇか、これはこれで」
「はぐらかさないで下さい! 立羽は…あの時」
…立羽はあの時、[侵略者]に吸収されて、消えたはずだ…
「まぁ落ち着けって、いちから説明してやっから。…構わねぇよな?」
影斗にそう問われると、蝶は彼の肩から飛び立ち、サイドテーブルの隣に備えられたフロアランプの傘にとまる。
ふたりを見下ろす高さに落ち着いたのを見、影斗は再び軽く息をついてから、口を開いた。
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