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本編

第15話_閉ざす唇に触れる瞳-3

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大人しくなった蒼矢ソウヤの治療が再開され、手首を差し出しながらも顔をそむける彼の態度に、影斗エイトはため息をつきつつぼやく。

「もうこの際だからさ、お前の中に溜めこんでるもん、全部出してみろよ」
「…」

そう続けた影斗の言葉に蒼矢の肩は微かに揺れるが、視線を外したまま口を閉ざす。

「いい加減、意固地になってんなって。他でもない俺になら明かせることがあるだろ」
「…いくら説得されようと、話すつもりはありません。…先輩相手であろうと、それは変わりません」
「お前を思う俺の気持ちが届いたんじゃなかったのかよ?」
「それとこれとは別です。…巻き込みたくないんです、わかって下さい」

続く押し問答に、たまらず振り向きながら少しだけ声を荒げる蒼矢へ、影斗はきょとんとした面持ちを返した。

「――"レツの件"なら、大筋把握してるぞ?」

何気無い口調で投げられた影斗の言に、苛立ちを滲ませていた蒼矢は途端目を見張った。

「お前がさっきの[侵略者蔦野郎]に脅されてるのも、それが発端でお前ひとりで色々動き回ってたのも、わかってる」
「…っ!?」
「断っとくが、『他の奴ら』から聞いたわけじゃねぇ、俺しか知らねぇことだ。…だから心配すんな、悪いようにはしねぇから」
「……なんで…、それを…」

昨日の葉月と同じように、一驚と懐疑を表出しながら凝視してくる蒼矢を見、影斗はにやりと笑った。

こいつ・・・に探って貰ってた」

そう言う影斗と蒼矢の間に、頭上から小さな黒い点が舞い降りる。
小さな翅を羽ばたかせる一匹の黒蝶は、ふたりの間を揺らめき、やがて影斗の肩にとまる。

「…それは?」
「"リン"だ」

そう答えられても一時蒼矢は眉を寄せていたが、頭の中の靄が薄くなっていき、少しずつ目が見開いていく。

「…立羽 鱗タテハ リン…!?」

表情を固まらせる蒼矢へ、影斗は黙って頷いた。
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