36 / 103
本編
第8話_不穏な波-1
しおりを挟む
数日後、朝の花房酒店ではいつも通りの開店準備が始まっていた。
開店時間直前に表へ出てきた烈が、半開けにしていたシャッターを全開し、出入り口に暖簾を吊るす。
そんな決まり決まったモーニングルーティーンをこなしていると、よくよく見知ったシルエットが視界の端に入り、近付いてくる足音に振り向く。
「…蒼矢!」
周囲までよく通る声掛けに、俯きながら歩を進めていた蒼矢は一瞬遅れて気が付き、酒屋の方へ顔を上げた。
その場へ立ち止まった彼へ、烈は前掛けを揺らしながらゆったり駆け寄っていく。
「おはよう。今日は大学一限目からか?」
「! …ああ」
「だろ? 当たりっ」
蒼矢の大学の時間割を把握しているのか、言い当ててみせた烈は嬉しそうに笑う。
「最近風邪流行ってるみたいだから、用心しろよ? お前、大体薄着だからな」
「…うん」
「…あ、仕入れまでにまだ時間あるから、送ってこうか?」
後方のバイクへ親指を向け、ニカッと笑いかけながら誘う烈へ、蒼矢は少し顔を伏せながら、首を横に振る。
「…いや、いい」
「? 遠慮しなくていいんだぞ?」
「そういうんじゃない。…途中、駅の構内で買い物したいから」
「…! …そっか。じゃあ、気を付けて行ってこいよ」
「ああ」
ちらりと目を合わせて薄く笑みを見せ、すぐに視線を外し、蒼矢は烈を通り過ぎて駅へと歩いていった。
烈は小さくなっていく後ろ姿を見送りながら、頭に手をやる。
「…」
蒼矢の仕草や面差しから、漠然と覇気の無さを感じ取ったものの、その先を深く考えられないまま烈の思考は止まり、眉を寄せながらその場で息をついた。
開店時間直前に表へ出てきた烈が、半開けにしていたシャッターを全開し、出入り口に暖簾を吊るす。
そんな決まり決まったモーニングルーティーンをこなしていると、よくよく見知ったシルエットが視界の端に入り、近付いてくる足音に振り向く。
「…蒼矢!」
周囲までよく通る声掛けに、俯きながら歩を進めていた蒼矢は一瞬遅れて気が付き、酒屋の方へ顔を上げた。
その場へ立ち止まった彼へ、烈は前掛けを揺らしながらゆったり駆け寄っていく。
「おはよう。今日は大学一限目からか?」
「! …ああ」
「だろ? 当たりっ」
蒼矢の大学の時間割を把握しているのか、言い当ててみせた烈は嬉しそうに笑う。
「最近風邪流行ってるみたいだから、用心しろよ? お前、大体薄着だからな」
「…うん」
「…あ、仕入れまでにまだ時間あるから、送ってこうか?」
後方のバイクへ親指を向け、ニカッと笑いかけながら誘う烈へ、蒼矢は少し顔を伏せながら、首を横に振る。
「…いや、いい」
「? 遠慮しなくていいんだぞ?」
「そういうんじゃない。…途中、駅の構内で買い物したいから」
「…! …そっか。じゃあ、気を付けて行ってこいよ」
「ああ」
ちらりと目を合わせて薄く笑みを見せ、すぐに視線を外し、蒼矢は烈を通り過ぎて駅へと歩いていった。
烈は小さくなっていく後ろ姿を見送りながら、頭に手をやる。
「…」
蒼矢の仕草や面差しから、漠然と覇気の無さを感じ取ったものの、その先を深く考えられないまま烈の思考は止まり、眉を寄せながらその場で息をついた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる