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本編

第5話_埋め得ない隔たり-7

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「――ありがとう、助かった」
「いやいや。そろそろお前来る頃かなと思ってたから」

ランチトレーを手に席に着く蒼矢ソウヤを、食べ終わってコーヒーを飲んでいた川崎カワサキたちが迎える。
ふたりは蒼矢と同学部の学友で、大学入学当初から付き合いがある。
学部の人数が少なく、取る講座も似たり寄ったりになるため学部全体的に仲が良いが、川崎と沖本オキモトは中でもとりわけ一緒に行動することが多く、親密な関係を築いている。

「この後の講座、資料の用意がかったるかったよなぁ」
「俺、昨日図書館で論文かき集めたぜ。時間溶けた」
「まじで? えらー。川崎、たまに本気出すからなぁ…俺結構諦めてる。…髙城タカシロ、お前は勿論バッチリだよな?」
「…うん、まぁ」
「後生だから、助けてくれ! コーヒー一杯奢るから」
「沖本…対価が合ってないぞ」
「仕方ねぇだろ、金も無いんだ、俺は!」
「開き直ってるし…」

沖本の見返りが安過ぎる懇願に突っ込む川崎だったが、蒼矢は昼食を口に運びながら頷いた。

「…いいよ」
「えっ、マジ?」
「ああ。後でコピー渡す」
「……」

あまりにあっさりした了承に、ふたりは視線を見合わせた。
いつも最終的には助けてくれるものの、不条理な頼みごとには大体渋る蒼矢が軽く応じたことに、揃って違和感を抱いた。

そしてそれ以外に、彼らは最近の蒼矢の周囲・・に対しても、違和感を感じているところだった。

「髙城、最近何かあった?」
「…特には。なんで?」
「! いや、何もなきゃそれでいいよ。あ…そういや最近エイト先輩見かけない気がするんだけど…、お前何か知ってる?」
「あぁ。もう卒研の時期だから、大学の方に集中するって」
「…そっか、なるほど…ね」

一瞬なにか含んでいるようにも思えたが、"確信部分"には無反応に返され、ふたりはそれ以上追求出来ずに閉口してしまった。

食べ終わった蒼矢がトレーを返却しに席を立っている隙を狙って、ふたりは密かに顔を寄せる。

「何かしらあるみたいには思えるけど…先輩の件じゃないみたいだな。…先輩、髙城に結局何も仕掛けてないのかな?」
「さぁ…でも、卒研だけを理由に"あれ"以来ぱったり髙城に会いに来なくなったのは、ちょっと無理ある気がするけどな。あのエイト先輩だぜ?」
「うーん…」
「お前、先輩の連絡先知ってるんだろ? 直接聞いてみろよ」
「無理だって、絶対地雷踏むだろ…! それこそあの人に人間扱いされてないような目で見られるようになったら、俺生きていけない」

悶々と実りのない話題をささやき合う2人の元に、蒼矢が戻って来る。

「――お待たせ。…そろそろ移動しようか」
「! おぅ」

蒼矢のどことなく浮かない空気の真意を知ることができないまま、3人は次の講義の教室へ向かった。
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