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本編

第4話_少年の志-4

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蒼矢ソウヤ君が化粧や美容こういうことに興味が無いのはわかってました。それなのに…僕のわがままに付き合わせてしまって」
「! そんなことは――」
「…僕だけ浮かれてしまってました。ご迷惑をかけてしまい、すみませんでした」

トレーをテーブルに置き、苡月イツキは深々と頭を垂れる。
困り眉を一層下げ、沈痛な面持ちで懺悔する苡月へ、蒼矢は慌てて取り繕い始める。

「謝られるようなことをされたとは思ってないから。確かに興味が無い、のは認めるけど…迷惑だとは…少しも」
「…蒼矢君の顔を僕が好き勝手にキャンバスにしてしまったことを、本当に怒っていませんか…?」
「…っ!」

ちろりと見やってきた苡月の視線と言葉に一瞬たじろぐが、蒼矢は表情を戻し、頷いてみせる。

「…うん。されてる間、ずっと君の真剣な顔を見てたから。最初は正直戸惑いしか無かったけど…素直にすごいなって、感心してた」
「…!」
「大量の化粧道具も、参考書も、よく揃えたと思う。他を我慢しなければ、きっとこれだけの数は揃えられない」
「っいえ…100均のばかりで恥ずかしいです。蒼矢君相手に安物を使ってしまったことも、申し訳なく思ってます。そればかりか、結局イメージしてた通りに出来なかったし…」
「そんなこと気にしてない。苡月の努力は充分評価できるよ。…好きなことを仕事にしていけることが、一番幸せだと思う。もちろん失敗だってあるし、良いことばかりじゃないかもしれないけど、それだけ強い意思があれば、目指すものにきっとなれるよ。…応援する」
「…蒼矢君…」

隣に座り、優しく微笑む蒼矢を見上げていた苡月は、やがて小さくため息をつき、視線を落とした。

「…ありがとうございます。でも…きっと僕は間違ってました。自分の手で蒼矢君をもっと輝かせたいとか、なんて思い上がりだったんだろうって」
「…え?」
「蒼矢君は、そのままのお顔が一番綺麗です。…審美眼も腕も、これからもっと勉強して鍛え直します」

気後れしているような表情を浮かべる蒼矢を再び見上げ、苡月は頬を染めながら微笑った。

「そうだなー。俺もさっきの化粧した顔もあれはあれで良いと思ったけど、いつもの方がやっぱり安心するな。自然体が一番ってことだな!」
「…やっぱり覚えてるんじゃないか」
「!!」

つい正直に口を滑らせてしまい、蒼矢から睨まれたレツはみずからのうっかり発言を後悔し、頭を抱えた。
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