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本編

第4話_少年の志-3

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蒼矢ソウヤ君は、出会った頃から僕の憧れで…美容系に興味を持ち始めてからずっと、いつか顔を触らせて欲しいなって思い続けてたんですけど…"この間"のことがあってから、それが抑えられなくなっちゃって」
「この間?」
「1か月前くらいに、蒼矢君が何日かいなくなってしまった時です。…いつもと違う蒼矢君の一面を見て…、インスピレーションが湧いてきちゃったというか…」
「!?」

…蒼矢が[侵略者]に操られてた時か!?
…意識無い時に、苡月イツキにも何かしでかしちまったとは聞いたけど…蒼矢の奴、これで落とし前つけたってことか…?

どうにかしてリアクションを最小限に留めたレツは、すっきりした一重を見開かせながら、恐るおそる蒼矢を覗う。
苡月のいる前だからか、比較的平静を装っている風に見えたが、彼の表情は明らかに固くなっていた。

頬に両手を当てながら嬉し恥かし想いを口にする苡月と、身体をぴくりとも動かさず能面のような顔貌を晒す蒼矢を見比べ、彼の内で一体どんな感情が渦巻いているのかと、烈は人知れず冷や汗をかいていた。

「――あ、お湯湧いたみたいです。僕コーヒー淹れますね」

一切他意が無い苡月は、満足気な笑みを浮かべながら腰を上げ、キッチンへと離れていく。
烈は苡月へ聞こえないくらいの声量で、蒼矢へひそりと声をかけた。

「そういうことだったんだな」
「……何が?」
「苡月がお前んちに来た理由だよ。お前からの条件・・だったんだろ?」
「…そうだよ。…誰にも見られたくなかったのに」
「悪かったって」

烈とふたりになった途端、再び不機嫌になる蒼矢の顔を、烈は宥めるように覗き見る。

「安心しろよ、一瞬だったし覚えてねぇからさ」
「嘘つけ。新種の生物見つけたみたいな顔してたくせに」
「そんなこと思ってねぇって! ちょっとびっくりしただけだって…機嫌治してくれよ、蒼矢」
「機嫌悪くなんてなってない」
「いや、お前そりゃ明らかに…」
「ああいう顔されるだろうから…だから自宅ここでって頼んだのに、なんで来るんだよ。俺は、烈に――」
「…ごめんなさい」

いつの間にか声が大きくなっていたふたりの会話中に苡月が戻り、コーヒーセットを載せたトレーを持ったまま立ち尽くしていた。
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