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第23話_嵐を乗り越えた先の光-3

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加療の成果か、陛下は銃撃を受けた片足を元通り動かせるようになっていた。
片目を隠していた布も外され、久方振りに顔が見えるようになった陛下は、部屋の中から自分をぽかんと見やるイツキ王子の姿を視界に収め、感極まったように目元を緩ませていた。
さっと跪くソウヤの目の前で、陛下はずんずんと中へ踏み入り、棒立ちの王子の前に座った。

「イツキ…すまなかった。私が王宮ここを留守にしていた間に起きたことは、大体把握している。…怖い思いをさせてしまったね」
「父上…」
「ひとりきりで心細く過ごしていただろうお前の元に駆けつけてやれず、本当にすまなかった。情けない父を許してくれ…」

息子の肩を引き寄せ、背中を撫でながら、陛下はその小さな身体を抱きしめた。
愛の抱擁に苦しげに息を漏らしながら、王子は父王へ問う。

「父上、お体はもう良いのですか?」
「! そうなんだ」

息子の問い掛けに陛下ははたと気付き、抱いていた身体を離して前に立つ。

「見てくれ。もうすっかり治ったんだよ…!」

陛下は両脚でしっかり地に立ち、両手を広げて王子へ完治をアピールしてみせた。
晴れやかな笑みを浮かべる顔には、黒茶の両眼がしっかり開き、喜びで宝石のように輝いていた。

「おめでとうございま…、 わぁっ…!」

祝いの言葉を述べようとした王子へ再び寄り、陛下は両手に抱き上げた。

「こうやってまた、お前を抱き上げられる日が戻って来るなんて…感無量だよ」
「っ父上、降ろして下さ…」
「あ、久し振りにおんぶか肩車でもしてみる? しようか? させて!」
「おっ、お許し下さいっ…恥ずかしいです!」

満面の笑みで息子を抱く父王と、大人しく受け入れながらも赤面する王子の仲睦まじい姿に、ソウヤは胸を熱くした。

…なんと微笑ましく、温かな光景だろう。
…イツキも恥ずかしがる必要なんて、欠片も無いのに…

王子と同じような経験をして"恥辱"と受け止めた己をさて置いて、ソウヤはヤマトの王宮に本来あるべき平和な姿を噛みしめていた。

親子の再会を見守っていたソウヤへ、国王陛下が目を向ける。

「『S-Y』…いや、ソウヤ。此度の件、本当にご苦労だった」

そしてイツキ王子を降ろして近付いていき、ソウヤの前に膝をつく。
陛下の所作に、ソウヤは慌てて恐縮した。

「陛下、そのような…」
「いや。君の件についても、仔細は入院中に聞いている。…苦境に立たされながらも、その身をもってイツキを守ってくれたね。心から礼を言うよ」
「…勿体無きお言葉です」

頭を深く垂れるソウヤの肩をさすり、ハヅキ国王は身を起こす。

「帰還の儀で改めて感謝の意を伝えよう。…向かおうか」

陛下はにこりと微笑むと、一同を引き連れて謁見の広間へ向かった。
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