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本編
第5話_初護衛任務-3
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ふたりは控室からの移動を決め、ソウヤが先行して部屋の扉を僅かな隙間程度に開け、周囲を目視する。
…近距離内に、赤外線センサー反応無し。
…及び、周波数の干渉無し。
背中にぴとりと張り付いたイツキ王子と共に部屋を出、まずは最も近い西側階段を目指す。
早足で移動しながら、王子は小さく呟いた。
「父上はご無事かな…」
「!」
「きっと今、王太子殿と会談してたはずなんだ。…ちゃんとどこかへ逃げていらっしゃるかな。不自由なお身体で困ってないかな…」
「殿下…」
まだほんの少年であるイツキ王子の口から出た言葉に、ソウヤは胸に振動を感じ、じわりと熱くなった。
「ご自分のことよりも、陛下の御身のご心配をなさるとは。…ご立派です」
「だって…父上にこれ以上何かがあったら、国が傾いてしまうかもしれないでしょう? 父上は国の象徴で、希望だから。僕はその息子でしかないから…」
感動し、目を細めて彼を見やったソウヤだったが、王子はそうぼそりと漏らす。
「…それはご謙遜です。国王陛下の血をひいておられますから、王子殿下も陛下と等しく、国にとって大切なお方です」
「そう、血が繋がってるってだけなんだ。…僕には他に秀でたものが何も無いんだ…」
「殿下、そのようなことは…、…」
何かを言いかけたソウヤだったが、先を続けることが出来なかった。
ソウヤはイツキ王子殿下のことはおろか、国王陛下の御身の経過や王家・王宮の現状などすら、今時点ではほとんど把握していなかった。
彼の背景や置かれている立場を知らないソウヤには、掛ける言葉が何ひとつ思い浮かばなかったのだった。
ソウヤが言葉を詰まらせ沈黙が降りた時、階段へ続く廊下の先で爆発音がし、視界前方に白煙がたち込める。
目と鼻の先だった西側階段が、崩落したがれきに塞がれ目視出来なくなり、経路が潰されたことを理解する。
「! どうしよう…」
「来た道を戻って東側階段へ参りましょう」
ふたりは急ぎ踵を返し、逆方向へと走る。
が、東側でもたて続けに爆音が響き、やはりがれきが崩落し塞がれる。
「…!!」
全ての避難経路を断たれたソウヤの目が、大きく瞳孔を開く。
傍らのイツキ王子を背に匿い、左右に広くセンサーを研ぎ澄ます。
白煙に塗れたがれきの奥から、数体の黒い武装兵が現れる。
まっすぐ銃口を向けるそれらは、両方向から少しずつふたりへと近付いていく。
『動くな。…ヤマト国王家の人間と見受けるが、相違無いな?』
「…っ!」
ソウヤの背に隠れる王子がびくりと身体を跳ね、一層ソウヤにしがみつく。
『抵抗しなければ、手荒には扱わん。大人しく投降せよ』
「…っ…テロリスト…!?」
「いえ、あれらは歩兵ロボットです。声を発しているのは人間ですが、恐らくこの場にはいないでしょう」
怯える王子へそう小さく答えると、ソウヤは視線を敵兵らへ向けたまま、迎賓館のセキュリティシステムへ再アクセスし、周囲の現況を今一度把握する。
…部屋に戻り、窓を破って脱出…いや、迎賓館外周のセキュリティ情報が得られてないまま外へ出るのは、あまりに危険。
…本当は地下シェルターへ逃げ込むのが最善だと思うけど…俺にはこの床を踏み抜く脚力は無いから、諦めるしかない。
…今いる直上には、恐らく王家側の人間しか動いてない…比較的安全なはず。
…なんとか敵の手をかいくぐって、上階に出るしかない。
…近距離内に、赤外線センサー反応無し。
…及び、周波数の干渉無し。
背中にぴとりと張り付いたイツキ王子と共に部屋を出、まずは最も近い西側階段を目指す。
早足で移動しながら、王子は小さく呟いた。
「父上はご無事かな…」
「!」
「きっと今、王太子殿と会談してたはずなんだ。…ちゃんとどこかへ逃げていらっしゃるかな。不自由なお身体で困ってないかな…」
「殿下…」
まだほんの少年であるイツキ王子の口から出た言葉に、ソウヤは胸に振動を感じ、じわりと熱くなった。
「ご自分のことよりも、陛下の御身のご心配をなさるとは。…ご立派です」
「だって…父上にこれ以上何かがあったら、国が傾いてしまうかもしれないでしょう? 父上は国の象徴で、希望だから。僕はその息子でしかないから…」
感動し、目を細めて彼を見やったソウヤだったが、王子はそうぼそりと漏らす。
「…それはご謙遜です。国王陛下の血をひいておられますから、王子殿下も陛下と等しく、国にとって大切なお方です」
「そう、血が繋がってるってだけなんだ。…僕には他に秀でたものが何も無いんだ…」
「殿下、そのようなことは…、…」
何かを言いかけたソウヤだったが、先を続けることが出来なかった。
ソウヤはイツキ王子殿下のことはおろか、国王陛下の御身の経過や王家・王宮の現状などすら、今時点ではほとんど把握していなかった。
彼の背景や置かれている立場を知らないソウヤには、掛ける言葉が何ひとつ思い浮かばなかったのだった。
ソウヤが言葉を詰まらせ沈黙が降りた時、階段へ続く廊下の先で爆発音がし、視界前方に白煙がたち込める。
目と鼻の先だった西側階段が、崩落したがれきに塞がれ目視出来なくなり、経路が潰されたことを理解する。
「! どうしよう…」
「来た道を戻って東側階段へ参りましょう」
ふたりは急ぎ踵を返し、逆方向へと走る。
が、東側でもたて続けに爆音が響き、やはりがれきが崩落し塞がれる。
「…!!」
全ての避難経路を断たれたソウヤの目が、大きく瞳孔を開く。
傍らのイツキ王子を背に匿い、左右に広くセンサーを研ぎ澄ます。
白煙に塗れたがれきの奥から、数体の黒い武装兵が現れる。
まっすぐ銃口を向けるそれらは、両方向から少しずつふたりへと近付いていく。
『動くな。…ヤマト国王家の人間と見受けるが、相違無いな?』
「…っ!」
ソウヤの背に隠れる王子がびくりと身体を跳ね、一層ソウヤにしがみつく。
『抵抗しなければ、手荒には扱わん。大人しく投降せよ』
「…っ…テロリスト…!?」
「いえ、あれらは歩兵ロボットです。声を発しているのは人間ですが、恐らくこの場にはいないでしょう」
怯える王子へそう小さく答えると、ソウヤは視線を敵兵らへ向けたまま、迎賓館のセキュリティシステムへ再アクセスし、周囲の現況を今一度把握する。
…部屋に戻り、窓を破って脱出…いや、迎賓館外周のセキュリティ情報が得られてないまま外へ出るのは、あまりに危険。
…本当は地下シェルターへ逃げ込むのが最善だと思うけど…俺にはこの床を踏み抜く脚力は無いから、諦めるしかない。
…今いる直上には、恐らく王家側の人間しか動いてない…比較的安全なはず。
…なんとか敵の手をかいくぐって、上階に出るしかない。
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