上 下
699 / 729
連載

見えぬ敵

しおりを挟む
 レオポルト対ダズウェルという大きな戦いが終わった頃、古城の西側にある小さな森の中で静かな激戦が繰り広げられていた。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・くっ」

 額から流れる汗。荒れた呼吸。
 暗い森の中で大木を背に弓を構えながら、リオネは周囲を警戒する。
 全身に刺さるような殺気を感じながら、自分の相手がどこにいるのかを眼球の動きだけで探った。
 しかし、物音どころか気配すら感じ取れない。

「一体どこに・・・・・・」

 この場にいるだけで心臓が破裂しそうなほど拍動する。緩和する瞬間などなく、一瞬でも気を抜けば、自分は命を落とすだろうとリオネは確信していた。
 それほど緊張しているというのに、まだリオネは敵の姿すら視認していない。
 そんなリオネに自分が戦いの中にいるのだと突きつけてくるのは、様々な方向から放たれてくる矢。
 息を整えているタイミングで、リオネの右耳が風の悲鳴を捉える。
 無理やり異物を捩じ込まれ、引き裂かれる風。その音を捉えたリオネは即座に地面を蹴り、大木から一気に離れる。

「くっ!」

 その刹那、大木から鈍い音が鳴った。
 足を止めずにリオネが振り返ると、水分を含んだ大木に突き刺さった矢が勢いを殺せず左右に細かく揺れている。
 矢の向きから、敵の方向はわかるものの夜と森が完全な闇を作り出しており、姿は見えない。
 リオネの敵はミミー。若いながら弓の名手と呼ばれている女傭兵だ。
 彼女を探して古城に踏み込もうとしたリオネは、突如として一本の矢に襲われたのである。
 その時からミミーの姿は見えなかった。そして、そのまま矢を回避し続け、森の中へと誘導されたリオネ。
 今の今まで、一度もミミーの姿を確認できていない。

「このままじゃあ、私が体力を消耗して狩られるだけね・・・・・・」

 冒険者として弓を扱ってきたリオネにはわかる。
 今、自分はただの獲物だ。狩人が確実に獲物を仕留めるように移動しながら、自分を追い詰めている。
 まだ役目を果たしていない自分の弓を握りながら、リオネは再びミミーの気配を探った。
 だが、どれだけ集中しても居場所がわからない。
 
「ダメ・・・・・・居場所はわからない・・・・・・矢の方向を考えれば、ミミーを絶え間なく移動しているはず。どうすれば・・・・・・」

 そんな状況ながらリオネが矢を回避できているのは、彼女の保有スキル『風読み』のおかげだった。
 周囲の風を読み、矢を視認する前に回避できているため大きなダメージを受けずに済んでいる。
 しかし、常に集中しなくてはならず体力の消費は著しい。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界召喚された俺は余分な子でした

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:674pt お気に入り:1,749

冒険者ギルドの受付でチート持ち主人公の噛ませ犬にされた男の一生

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:51

あやかし鬼嫁婚姻譚

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:1,226

異世界でショッピングモールを経営しよう

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,012pt お気に入り:1,831

憧れの召喚士になれました!! ~でも、なんか違うような~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:721

転生したら、なんか頼られるんですが

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:418pt お気に入り:7,167

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。