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奪われた思考

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 考えている間にも、ミミーの攻撃は続いた。
 スキル『風読み』が矢を探知するたびに、リオネは心臓を鷲掴みにされたかのような緊迫感を覚える。

「まさか背後から!」

 リオネが声を出して驚くのも無理はない。
 先ほどとは正反対の方向から飛来する矢を感じ取ったのだ。
 だが、驚いて足を止めている暇など与えられない。そのままそこにいれば数秒後には矢に貫かれているだろう。リオネは即座に体の方向を変え、近くにあった大木の陰に避難した。
 その直後、先ほどまで立っていた場所を矢が通過し、森の闇に溶けていく。

「はぁ、はぁ・・・・・・私の直線移動よりも速く、反対側に移動した? まさか、そんな・・・・・・」

 ミミーはリオネから視認できない一定の距離を保っているはずだ。そんなミミーが正反対から矢を放ってきたということは、リオネを中心とした半径を途轍もない速度で移動したことになる。
 冒険者としてそれなりに経験を積み、レベルを上げてきたリオネの身体能力は決して低くはない。スキルを発動していない倉野など片手で捻りあげられるだろうし、一緒に走れば倉野の心が折れること請け合いだ。
 そんな彼女の何倍もの速度で移動するミミー。それがどれほど異常なことか、リオネの反応を見ればわかる。

「本当に移動しているのなら弓も身体能力も・・・・・・私じゃあ敵わない」

 そう呟きながら、心拍を落ち着かせるリオネ。それは弱音などではなく、分析だ。
 彼女は冷静に戦力差を分析し、勝ち筋を模索している。
 しかし、一つずつ可能性を思い浮かべるたびに、目の前の現実が希望を否定した。
 四方八方から飛来する矢を回避しながら、何ができるのかと自問。時間をかければかけるほど不利になると自答。
 もう何本の矢を回避しただろうか。思い返すこともできないほどの矢を回避したリオネは、先ほどよりも荒れた呼吸と向き合う。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・このままじゃあ防戦一方どころか回避しか・・・・・・打開するには、私から攻めるしかない。でも、相手の場所がわからなければどうしようもない・・・・・・」

 そう考えるのが何度目かも覚えていない。思考の途中に矢を回避し、もう一度考え始めることを繰り返していた。
 リオネの体が酸素不足を訴える。肺が強く痛み、思考力が奪われていった。それによって上手く考えがまとまらない。

「ふぅ、ふぅ・・・・・・」

 なんとか呼吸を整えようとするリオネだったが、肺が勝手に酸素を吐き出す。
 その瞬間、リオネの意識は呼吸に持っていかれ、スキル『風読み』が疎かになった。追い詰められ、体力と集中力を奪われ、作り出された隙。偶然ではなく積み上げられた隙だ。
 リオネは背後で薄い何かが破られる音に気づき、慌てて振り返る。
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