上 下
347 / 568

ダークブレット日本支部崩壊7

しおりを挟む
 その手はとても細く小さく感じた。

『何も出来なかった……』

 そんな思いだけが、エリエの心を締め付ける。
 アジトに行って星を取り戻す為に必死に戦った。だが、結果。絶体絶命の状況で二度も星に救われた挙句に、お礼を言おうにも今の星には記憶がない。

 楽しかった日々の出来事の全てを、この一時の事件で全て奪われてしまったのだ。

 その責任をエリエが感じるのは無理もない……。

 まだエミルはその事実を知らないからか、星を抱きしめながらとても嬉しそうに微笑み掛けている。それが失意の中にいるエリエの心の傷を更に深く抉っていた。


               * * *


 その頃、デイビッド達は目の前で音を立てて崩れる城を遠巻きに眺め、その場にいた全員が呆然としていた。

 敵の兵士達もこれまでの生活していた拠点がなくなったことで、そこら中から不安の声が上がっている。
 瞬く間に灰になっていく城を見て、メルディウスは呆然としながら大きくため息を漏らしていた。

「――どうすんだよ。これ……」

 その言葉に答えるように、隣に立っていたバロンが腰に手を当て他人事の様に呟く。

「とりあえず。これはもう住めないだろ……」
「そうだね。なら街に戻ろうか、ここにはもう用事はないからね」
「――って、うおっ! デュラン。脅かすなよ!」

 突然なんの脈絡もなく隣に現れた白いマントを羽織った男に、メルディウスが大きく仰け反る。

「俺は今、ディーノと名乗っている。呼ぶならディーノで頼むよ」

 大げさに身を反らせるメルディウスに、デュランが呆れ顔でため息を漏らす。

 それを聞いて、メルディウスが顔を真っ赤にして叫ぶ。

「ばか野郎が! ゲーム内ではパーティー以外に名前が表示されないからって、お前は偽名を使い過ぎんだよ! ってか、俺達以外にパーティーなんて組んだことねぇーだろお前!!」

 デュランは激昂するメルディウスを余所に。

「僕に仲間は必要ないからね」

 っとさらっと答える。

 だが、それは今の状況下では火に油を注ぐようなものだ――その言葉に、更に激怒するメルディウスを無視して、デュランは歩いていった。

 どうしても掴み所のない彼に、メルディウスは悔しそうに歯を噛み締めた。

 その横に立っていたバロンが、そんなメルディウスの脇腹を小突く。

「いでっ! なっ、なにしやがるバロン!」
「ふん。バカじゃないのか? それで俺様達はどうするんだ? こんだけの数の人間を連れて移動するのは結構な手間だぜ……」

 行き場を失ったダークブレットの兵士達を見渡すと我に戻り、状況をもう一度整理するようにメルディウスは唸る。

 この状況では、ダークブレットの者達の受け入れ先が重大な問題である。
 数十人くらいならまだしも、地を覆い尽くすほどの人集りに、これだけの量になるとさすがにもう一つ街を作った方が早いレベルだ。

 だが、そのまま捨て置くわけにもいかない問題でもある。今はリーダーをデュランが討ち取ったことと、生活の拠点であった城がなくなったことで敵は意気消沈している。

 ずっとこのまま大人しくしててくれればいいのだが、そうもいかないだろう。自然分裂を起こせば、相当数が生活資金と寝床を求めてまた犯罪に手を染めかねない。

 メルディウスとバロンは腕組みしながら立ち尽くしていると、ちょうど小虎と話をしていたフィリスが手を振りながら戻ってきた。

「お兄ちゃ~ん!」

 さすがに実の妹には甘いのか、駆けて来る妹の姿に眉を吊り上げ険しい表情を浮かべていたバロンの表情が和らぐ。

「おう。どうした、我が妹よ」
「もう! その妹ってのやめてよね! 私にはちゃんと考えた名前があるのよ!?」

 頬を膨らませて、不満を口にするフィリスに、困り顔でバロンが頭を掻いている。

 すると、今度は小虎と紅蓮がやってきて、その隣で顎に手を当てて唸っているメルディウスに紅蓮が声を掛けた。

「メルディウス。マスターから伝言です」
「――んっ? なんだ? 紅蓮。ジジイがなんだって?」
「はい。『一段落着いたら始まりの街に戻ってこい』だ、そうです」

 無表情のまま紅蓮がそう伝えると、メルディウスの顔を見上げる。

 メルディウスは不機嫌そうに眉を寄せながら呟く。
 
「けっ、あのジジイ。大事な時に居ねぇーくせに、命令してきやがるとはいい度胸じゃねぇーか」

 不服そうに顔を引き攣らせながら口元に笑みを浮かべて遠くを見つめるメルディウスに、紅蓮が難しい顔をして言った。

「メルディウス。私もマスターの意見に賛成です。このままここに留まっていても何にもなりません」
「……くっ、分かった。とりあえず。あのバカにも伝えてくる!」

 紅蓮がマスターの肩を持つような発言をしたことで、更に不機嫌になりながらもメルディウスはデュランの方へと向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

処理中です...