上 下
346 / 586

ダークブレット日本支部崩壊6

しおりを挟む
 エミルとイシェルは現実世界でも仲がいい同士。まさかそれが互いに敵意を持って向かい合うことになるなど、イシェルには想像もしていなかったことだろう……。

「……なんでなん? なんでそんな女守るんよ。エミル!!」
「…………」

 だが、その返答に答えることもなく、エミルは無言のまま剣を抜くとイシェルに襲い掛かった。
 エミルの攻撃は吸い込まれるように神楽鈴に当たると、小さくチリンと鈴が音を立てる。

 微かに掠めただけなのだが、イシェルには攻撃によるダメージよりも、精神的なダメージの方が大きいのだろう。
 何と言っても、今まで互いを尊重し合い喧嘩すらしたことのなかったエミルが、自分に対して剣を向けたのだ――いや、それどころか彼女は自分に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 口をあんぐりと開け信じられないという表情のまま、神楽鈴を握り締めるイシェルの耳元に、エミルの震えた声が飛び込んできた。

「イシェ……ご、ごめんなさい。でも、今は……今はこうするしかないのよ。分かってちょうだい……」
「そんなの信じられん! 信じたくない! なあ、エミルも本当は……」

 そこまで言葉を口にして、イシェルは口を閉ざす。
 それもそのはずだ。次に顔を上げてエミルの顔を見たイシェルの瞳に飛び込んできたのは、彼女の涙で潤む澄んだ青い瞳だった。

 彼女の心の奥に秘めた思いを、イシェルは彼女のその瞳から、言わなくても『止む終えない』事情があると感じ取ることができた。

 それが分かって少し安心したのか、イシェルは大きく息を吐き出して武器を手放し両手を上げた。

 距離を取って二撃目に入ろうとしていたエミルはそんな彼女の突然の行動に驚きながら、ただただ呆気にとられて目を丸くさせている。

「――うちの完敗やね……あんたの好きにしたらええ……」

 イシェルはそう吐き捨てるように呟き、したり顔で勝ち誇った様な視線を向けているライラを見つめた。
 まあ、今の状況下ではイシェルがどんなにライラと戦いたいと思っていても、前を遮ってくるエミルとの戦闘は避けられない。

 武器を持っていても戦えないのだから、その存在には何の意味もない。
 それよりも武器を捨てて戦闘の意志を放棄したと思わせた方が、エミルの思惑通りに事を運びやすいだろうという彼女なりの配慮だったのだろう。 

 ライラは不敵な笑みを浮かべながら2人に歩み寄ると、ゆっくりとエミルの体を後ろから抱きしめる。

「……あっ。おっ、お姉様……なにを……」

 いたずらな笑みを浮かべながら、エミルの首筋に指を滑り込ませると、エミルの顔を自分の方へと引き寄せて思わせぶりに呟いた。

「ふぅ~ん。別に貴女には用事はない……でも、可哀想だから……今夜、エミルと一緒に可愛がってあげましょうか?」

 ライラのその発言に、イシェルの肩がピクピクと小刻みに揺れ始める。それは明らかに戦意を喪失したイシェルへの追い打ちとも言える行動だった……。

 怒りで震えるイシェルに、エミルは驚きながら慌ててライラの方を向く。

「お姉様! それはいけません!! ……んっ」

 エミルはライラの首に腕を回すと、強引に引き寄せ唇を重ねた。それをまじまじと見せつけられ、イシェルはあまりのことに怒りを通り越して、もはや言葉を失う。

 そのやり取りを無言のまま見ていたエリエも思わず顔を赤らめ、その行動を食い入る様に見つめている。それを余所に、2人はしばらく抱き合いながら濃厚なキスをするとゆっくりと顔を離した。

 ライラは熱を帯びて潤んだ瞳を向けるエミルの頬を優しく撫でると、猫撫で声でささやく。

「――可愛いわね、エミル。そう。貴女は私と2人きりがいいのね~」
「……はい」

 頬を赤らめたエミルが潤んだ瞳でライラの顔を上目遣いで見ると、ライラが静かに頷く。
 
「分かったわ。貴女も私を他の子に取られたくないってことね……本当はその子に私達の仲の良さを見せつけてやろうと思ったんだけど、可愛い妹分の心を尊重してあ・げ・る♪」

 ライラはそう呟いてエミルの頬に軽くキスをすると、心ここにあらずという感じに放心状態のイシェルを横目で見る。その後、エリエを呼び寄せると、4人はテレポートでサラザ達の居る場所へと戻った。

 テレポートすると、エミルは眠ったままの星を見て慌てた様子で駆け寄ってその手で抱き寄せる。

「ああ、星ちゃん。良かった。良かったわ。本当に良かった……」

 瞳に涙を浮かべながら何度も「良かった」と口にするエミルを見ていたエリエは、少し複雑な気持ちになる。

(……やっぱり。私なんかより、エミル姉が一番気にしてたんだ……それなのに私は、自暴自棄になって自分だけ焦って……本当に子供みたい……)

 そう心の中で呟き、エリエは自分の手を見つめる。
 結局戻ってきたのは星の体だけ、心は記憶と共にこの騒動の元凶にして、このゲームをデスゲームという名の牢獄へと変えた首謀者の狼の覆面を被った男の企みによって消されてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...