魔王自ら勇者を育成してやろう!

フオツグ

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第二部 冒険者になってやろう!

第三十九話 抱き締めてやろう

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「これより、フラットリー様復活の儀を執り行います」

 復活の儀……?
 そう疑問に思う間もなく、信者達が祭壇に立つボースハイトを取り囲んだ。
 信者達は胸の前で指を組み、ぶつぶつと何かを唱え始める。
 フラットリー教の教えでは、魔法を使う際に詠唱を行う。
 しかし、一体何の魔法を……?

「空が……」

 コレールが空を見上げてそう呟く。
 我が輩も空を見上げた。
 先程まで青色が見えていた空に灰色の雲がかかっている。
 風が吹き、辺りの空気が震え始めた。
 これは……天候を操る魔法?
 天候を操って、こいつらは何がしたいんだ?
 信者達の目的がわからない。
 フラットリー復活の儀とか言っていたが……。
 生命を復活させるのはタブーではないのか?

 灰色の雲から稲妻が落ちていく。
 稲妻が向かっていく先には、ボースハイトがいた。

「ボース!」

 コレールとグロルはボースハイトの名を叫ぶ。
 我が輩は声より先に、ボースハイトへ防御魔法をかけていた。
 ボースハイトに雷が直撃する。
 眩い光と、轟音。
 人間達は、あまりの光と音に目を瞑る者、叫び声を上げる者、その場に蹲る者、と様々いた。

 光が消え、ボースハイトの姿が見える。
 ボースハイトは強風で髪と服をはためかせ、その場に立ち尽くしていた。
 雷が落ちた名残りで、足下にはバチバチと電撃が走っている。

「ボース……生きてる……?」

 コレールが不安そうに呟く。

「雷が落ちる直前、防御魔法をかけてやった。間違いなく生きている」

 しかし、なんだ?
 この言い知れぬ不安感は……。

「ボース! 無事か!?」

 コレールとグロルが人をかき分けて、ようやく祭壇へと辿り着く。
 ボースハイトは振り乱した髪の隙間から、左右の色の違う双眸を覗かせる。
 そして、ゆっくりと口を開いた。

「君達は誰だい?」
「……は?」

 グロルはぽかんと口を開ける。
 ボースハイトはじっとグロルの顔を見る。

「ふむ。思念を読ませて貰ったよ。ボース……ボースハイト、というのは前の僕の呼び名だったのか。君達は前の僕の友人だね? 前の僕と親しくしてくれてありがとう」
「お、お前、さっきから、何言って……」
「ああ、すまない。自己紹介が遅れてしまったね」

 ボースハイトは振り乱した髪を魔法で整える。
 意地の悪さなど垣間見せないほど、優しい微笑みをグロルに向ける。

「僕はフラットリー。千年の時を経て、人間達を救うために復活した」

 ボースハイト──いや、フラットリーがそう言い終えると、信者達が歓喜の声を上げた。
 コレールとグロルはただ呆然と、フラットリーを見つめるしかなかった。

「千年……復活……。そうか。そういうことか……」

 全てに合点がいった。
 フラットリーは千年前に死んでいる。
 死んだ人間が復活するのは今の人間の常識的にはタブーだ。
 しかし、〝転生〟だったなら?
 復活しても、嫌悪感がないだろう。
 フラットリーは千年の時を経て、転生したのだ。
 フラットリーの遺骨からフラットリーを復活させても動かなかったのは、転生する未来が決まっていたから。
 フラットリーの魂は既に、ボースハイトの中にあったのだ。
 過去に行使された魔法……。
 我が輩が止める隙もなかった。

 全て理解して、尚、我が輩は納得出来なかった。
 ボースハイトの身体にフラットリーの魂が移動してきていたとしたら、それは……つまり……。

「は、ははっ。冗談キツいって、ボース」

 グロルは顔を引き攣らせて笑う。

「ここでそんなこと言ったら引き返しづらくなるぜ」
「冗談ではないよ。……ふむ。信じられないのなら証明してあげよう。……コレール」

 急に話を振られたコレールは肩を飛び上がらせる。

「えっ!? あ、お、俺!?」
「ああ、君だよ、コレール。君は《浮遊》魔法を上達させたいんだね。思念を読ませて貰ったよ」
「そ、それは……」
「さあ、力を与えようね」

 フラットリーはコレールに手を翳した。
 コレールは身体を強ばらせて、何をされるのかと身構える。

「コレールに力を与えたよ。《浮遊》してみなさい」

 コレールに皆の視線が集まる。
 コレールは緊張しながらも、ゆっくりと宙へと浮かび上がる。
 いつもなら頭が下になってしまうのだが、今回はちゃんと、頭が上になり、安定して浮いている。

「あ、安定してる……。どうして……」
「ふふ。猫に肉を与えたら一日で食べてしまうが、狩りの仕方を教えれば、一生食べていける。だから、僕は人間達に力を与えるんだよ」

 フラットリーは民衆の歓声を受けながら、グロルに身体を向ける。
 服の宝飾がシャラシャラと鳴っている。

「どうかな? 僕がフラットリーだと認めてくれるかい?」

 グロルが苦い顔をした。
 グロルはまだフラットリーのことを認められないようだ。
 かくいう、我が輩も。
 目の前にいる男をフラットリーだと認めてしまったら、それはつまり……。

「お前がフラットリーなら、ボースは何処に行ったんだ?」

 グロルはそう尋ねる。
 すると、フラットリーは困ったように眉を下げた。

「残念ながら、僕がこの身体に転生した際、前の僕の人格は消えてしまったよ。もう元に戻ることはない」
「え……」

 フラットリーは人間達に様々な嘘を教えた、大嘘つきだ。
 だが、今言ったことは事実だ。
 ボースハイトの気配も、魔力も、思考も、何もかも、別人のようになってしまっている。
 まるで、されたように……。

「でも、良かったのではないかな。前の僕と君は不仲だったようだから。君の嫌いなボースハイトは、もう二度と君の前には現れない」

 グロルは下を向き、足早に祭壇を後にした。

「フラットリー様、万歳! フラットリー様、万歳!」

 フラットリーの復活を喜ぶ声が絶えない。
 空は未だに暗雲が立ちこめている。

 □

 出店のある通りには誰もいなかった。
 ほぼ全ての人間が、祭壇に集まっているのだろう。
 フラットリーが復活する奇跡的瞬間に立ち会うために。
 グロルは民衆の声が聞こえなくなったところで足を止めた。

「グロル……」

 何と声をかけよう。
 そう思っていると、グロルが口を開いた。

「俺……本当はもう怒ってなかったんだ……」

 我が輩は開いた口を閉じる。
 グロルの声はか細く、震えていた。

「俺が悪いってのもわかってた。でも、言い方ってもんがあるだろ? どうせ直ぐ、いつも通りに軽口を言い合えるんだから、絶対、俺から謝ってやるもんかって……」

 雨がザッと降ってきた。
 雨の音に負けないよう、グロルは声を張る。
 すると、声の震えがはっきりと我が輩の耳に届いた。

「いなくなっちまうなら、意地なんて張んなきゃ良かったあ……」

 グロルは天を仰いで、子供のように、声を上げて泣く。
 頬を伝うのは雨なのか涙なのか、見分けがつかなかった。
 遠目に、コレールとバレットがそれを見ている。
 我が輩も見ているだけだ。
 今までのように。

 ……本当に?
 それで良いのか?
 目にかけていた人間を、フラットリーなんぞに奪われて、我が輩はただ、指をくわえて見てるだけ?

「……ふざけるな」

 我が輩はグロルを抱き締める。
 抱き締めて初めてわかった。
 グロルは細くて小さくて、力を入れたら直ぐに死んでしまいそうな身体をしていた。

「任せておけ」

 腕の中で泣きじゃくるグロルに言う。

「我が輩がボースと仲直りさせてやろう」

 我が輩は魔王。
 何もかもを壊してきた【剿滅そうめつの魔王】である。
 気に入らない筋書き全て、壊してみせようではないか。
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