25 / 37
第1章 楽園は希望を駆逐する
第3話 崖っぷちの平穏(3日目) その8
しおりを挟む
[エントランスホール]に辿り着く一同。
そこでは既に異常事態が起きていた。
「――そこをどけッ!」
「――どかないッ」
言い争う2名の<再現子>――花盛清華と南北雪花がいた。
花盛清華は小型のバズーカ砲をその肩に乗せ、[エントランスホール]の入り口のドアに砲口を向けている。
南北雪花はその花盛清華とドアの間に立ち塞がり、バズーカ砲を向けられても全く引かずに、ドアを背に両手を拡げて壁となっていた。
「――どけってッ!」と、花盛清華。
「――どかないッ!」と、南北雪花。
どけ、どかない、の応酬を2人が交わしている。
「おい、お前ら、何やってるんだッ!?」「ユキッ!」「なにコレ? どーいう状況? どーいう状況??」「どう見ても穏やかじゃないね……ッ!」
美ヶ島秋比呂と峰隅進、風間太郎、矢那蔵連蔵が焦った声を出す。
「……間に合ったッ! まだ“むい”はいないなッ!?」
和泉忍が周囲を見回す。
「いないとしてもいつ来るか分からないし、早くあの2人を止めないといけないわね。ヤツらも“待ち構えてる”し」
白縫音羽が“外の景色”を目で促す。
ガラス張りの[エントランスホール]を外から囲むように、武装集団が陣形を組んでいた。
花盛清華がバズーカ砲で[エントランスホール]を破壊したら、すぐに“粛清”する準備を整えていた。
「さっきの爆音と衝撃は、あのバズーカ砲ってことか……」と、狗神新月。
「なるほど。持ち前の『予知』で花盛の暴走を視たわけか……それで南北は誰よりも早くここに駆け付けられた」
空狐が[エントランスホール]に仕掛けられた監視カメラと動体検知センサーをチラリと見遣る。
仕掛けた効果が早速得られたのは上々だが、”本来の目的”とは異なる成果であり、少々もどかしさを感じる。
「ちょ、そんな危険物、どこに隠し持っていたのよッ!? ユキに何かあったら――!」
「落ち着け、峰隅ッ!」
動揺のあまり飛び掛からん勢いの峰隅進を美ヶ島秋比呂が抑える。
「ど、どうするの!? これ、どうすればいいの!?」
織田流水があたふたと周りの<再現子>を見る。
片やバズーカ砲という凶器を構えており、もう片方はその凶器を向けられている状況だ。止め方を間違えれば大惨事になる。
「こういうケースは、2組に分かれるのがセオリーだ。対象の注意を引く陽動組と、対象の武装解除をさせる捕獲組と――」
時時雨香澄はこんな事態なのに冷静だ。周囲の<再現子>を見て、”1名”に目を向ける。
「我々で何とか注意を引くから、狗神……任せてもいいか?」
白羽の矢が立った狗神新月は、冷静に答える。
「問題ない。武装解除にリクエストは?」
「――無傷だ」
「了解」
時時雨香澄は狗神新月との会話を終えると、今度は織田流水に話しかける。
「流水。お前に花盛への陽動はできるか?」
「え? え~と……」
織田流水が困る素振りを見て、和泉忍が口を挟む。
「<外交官>の本質は“情報戦”だ。今回はどちらかというと、機動隊とか警察官といった治安維持部隊が力を発揮する場だろう」
「なら――僕らがやってみよう」
矢那蔵連蔵と、他の<再現子>たちが名乗り出る。
矢那蔵連蔵が花盛清華に呼びかける。
「花盛さんッ。バズーカ砲を下ろすんだッ! そのままだと南北さんに当たるよッ!」
「だったら、コイツをさっさとどけろッ!」
風間太郎も怒鳴る花盛清華に反論する。
「わ、分かった……け、けどよぉ、どうしてこんなことをするんだよッ!?」
「だって……もう、こんなことしても無駄だろッ!? ”従順”にしていても、何も変わらないじゃんかッ!? もう3日目だぞッ! こうやって生きていて、何の意味があるんだよッ!?」
「う~む、焦燥感とストレスが原因のようだな。まあ、外の空気も吸えず、武装集団に囲まれた上でまともな生活を送れる異常さ。思いの外、“心”に負荷が掛かっていたようだ」
空狐が冷静に分析する。
加えて、花盛清華は元より“反発派”だった。我慢の限界だったということだろう。しかし、多数決で決めた以上、そんな身勝手は認められない。
花盛清華は駆け付けた面々を見て――、
「……臼潮は?」
――と、質問する。
「[食堂]にいるから安心しろッ! 全員無事だッ!」と、葉高山蝶夏が答える。
「“まだ”、ね」と、白縫音羽が口を挟む。
「…………」
無言になった花盛清華は冷や汗をかいている。
どうやら今回の彼女の暴走は、臼潮薫子の暴走に触発されたようだ。
「そうだよッ、このままだと折角全員無事なのに怪我人が出るッ! どうか落ち着いて、武器を下げてくれないかッ?」
矢那蔵連蔵が黙る花盛清華に声を掛ける。
「…………ッ」
花盛清華が逡巡する。
狗神新月が、その”一瞬の隙”を突いた。
――パンッ!
「「――あッ!?」」
銃声に条件反射で咄嗟に身を屈める面々。しかし、狗神新月が発砲したのだと分かった。彼女の手に持つ拳銃から硝煙の匂いが立っていたからだ。
「――ッ!?」
花盛清華が足を取られたように、ひっくり返って尻餅をつく。
その弾みでバズーカ砲が彼女から遠い位置にポーンッと吹っ飛んでいった。
それもその筈、なんと狗神新月が花盛清華の左の義足を打ち抜いたのだ。
時時雨香澄の注文で、“無傷”で止めるという約束を果たすために、花盛清華の全身のうち、唯一“生身でない”義足を狙ったのだ。(その義足は花盛清華が改造していたため、頑強に作られている。)
「でかしたッ!!」
和泉忍は歓喜の声を上げる。
狗神新月の跳弾は誰にも当たることはなく、花盛清華も狙撃された反動で派手にすっ転んだが、外傷は見られない。
「かくほーーーッッッ!!!」
峰隅進がすかさずバズーカ砲を盗んだ――もとい、拾ったのを見た葉高山蝶夏が叫び、花盛清華に飛び掛かる。
花盛清華は<俳人>、加えて≪機械技師≫志望者だ。いずれも文化系と技術系のTHE・インテリである。身体能力は平凡であり、男性に押さえつけられたらひとたまりもなく、これで一件落着するかと思われた。
だが――、
「――あびゃりびゃrbyあびばびゃりっ――!?」
――葉高山蝶夏が気を付けをするように急に直立し、痙攣し出した。
「な、なんだッ!? 今度は何が起こったんだよッ!?」
風間太郎が葉高山蝶夏の異常な反応に思わず目を覆う。
葉高山蝶夏が仰向けに倒れる。まるで死んだ昆虫のようだ。
「お、おいッ!? 何があったッ! どうした、葉たk――ウッ!?」
美ヶ島秋比呂が駆け寄り葉高山蝶夏を看ると、「む、むごい」と口を覆う。
「ブクブクブクブク.。o○」
葉高山蝶夏は口から泡を吹いていた。
「ちょ、ちょっとッ!? ソイツ、大丈夫なのッ!?」
峰隅進が心配そうに言うと、同じく看た白縫音羽が答える。
「う~ん……うん。これは、軽傷ね」
「軽傷ッ!? 泡吹いてるのにッ!?」
「おい、ここにはお前しかいないんだ……くだらぬ冗談ではないんだよな?」
織田流水と時時雨香澄が白縫音羽に真実を問う。ここには~というのは、メディカル三姉妹のうち、この場にいるのが白縫音羽だけという意味だ。
白縫音羽は快活に笑う。
「あははっ、大丈夫。ただ“感電”しただけよ。安静にしておけば直に目を覚ますわ」
「感電ってことは――」
矢那蔵連蔵が花盛清華を見る。
「…………ッ」
彼女の手にはスタンガンが握りしめられていた。
「アイツ、全身凶器かよッ」
美ヶ島秋比呂が舌打ちをする。
「……今所持している凶器はそのスタンガンだけだよ!」
南北雪花が告げる。
「あっ『透視』か。マジ便利だな、それ……つーか、言えよッ!」と、風間太郎がポンッと手を打ち、かと思えばツッコミを入れる。
「本人の目の前でその所持している凶器を当てたら、警戒心を抱かせちまうだろ? 死にゃしねーなら、しかたねぇわ」と、空狐が風間太郎を落ち着かせる。
「…………ッ」
花盛清華は仲間たちの動向を警戒しつつ、自信の左の義足の具合を確かめる。
「もう投降してくれないかッ? こんなことをしても無意味だよッ?」
矢那蔵連蔵が語り掛ける。
「無意味って、何が? オレ様たちの”従順”もなんの意味があったってんだッ? この2日間で何か進展したのかよッ! 現状維持はその実、後退で、進歩にも解決にも何にもならないぞッ! 前進する意思を捨てた人間の命運は、”終わり”だけだ」
「今、政府が交渉しているはずだッ。もう少しの辛抱だよッ」
「辛抱って、いつまでだよッ!? これ以上辛抱しても、これ以上日数が経つと、オレ様の計画が――ッ」
そこまで言った花盛清華は、しまった、と自省する表情を見せる。
そして、そんな彼女の二度目の”一瞬の隙”を、狗神新月は見逃さなかった。
――パンッ!
「――うっ!?」
花盛清華が手に持っていたスタンガンの先を、拳銃で打ち抜き、吹き飛ばし無力化した。
「……ぐっ、うっ……ッ」
花盛清華は手を抑える。直接当たっていないとはいえ、拳銃で武器を吹き飛ばされる衝撃を受けたのだ。まったくの無事ではあるまい。
「――悪いが、多少横着した。許せ」
「――構わん。許容範囲内だ」
狗神新月と時時雨香澄が熟練のコンビのような会話をする。“無傷”の範疇を擦り合わせたようだ。
「とりあえず、移動しようぜ。ここは空気が重いからな」
「もう抵抗する術はあるまい。おとなしくしろよ」
空狐と和泉忍が、花盛清華を両脇から抱え、担ぐ。花盛清華は手を擦るだけでもう暴れることはなかった。
「……ごめんね。本当は説得したかったけど」
矢那蔵連蔵が目を伏せる。
憂鬱な足取りで移動する面々。この後に待ち構えている、”悲劇”が頭を押さえつけていた。
先の一件は、美ヶ島秋比呂が”むい”に掴みかかったことの罰で、大浜新右衛門が――。
今回は、臼潮薫子の外部への連絡に、花盛清華の脱出未遂。
――2件。
どういう審判が下されるのか、不安が彼らを襲った。
[エントランスホール]から立ち去る時――、
パシャッ。
――白縫音羽がいつの間にか葉高山蝶夏から拝借していたカメラで、[エントランスホール]全体を何枚か写真におさめていた。
「……音羽ちゃん、どうしたの?」
「ああ、いえ、何でもないわ。行きましょう」
白縫音羽が織田流水に微笑み、彼からの追求を拒んだ。
<再現子>たち全員が[エントランスホール]から立ち去るまで、外にいる武装集団は陣形を崩さなかった。
そこでは既に異常事態が起きていた。
「――そこをどけッ!」
「――どかないッ」
言い争う2名の<再現子>――花盛清華と南北雪花がいた。
花盛清華は小型のバズーカ砲をその肩に乗せ、[エントランスホール]の入り口のドアに砲口を向けている。
南北雪花はその花盛清華とドアの間に立ち塞がり、バズーカ砲を向けられても全く引かずに、ドアを背に両手を拡げて壁となっていた。
「――どけってッ!」と、花盛清華。
「――どかないッ!」と、南北雪花。
どけ、どかない、の応酬を2人が交わしている。
「おい、お前ら、何やってるんだッ!?」「ユキッ!」「なにコレ? どーいう状況? どーいう状況??」「どう見ても穏やかじゃないね……ッ!」
美ヶ島秋比呂と峰隅進、風間太郎、矢那蔵連蔵が焦った声を出す。
「……間に合ったッ! まだ“むい”はいないなッ!?」
和泉忍が周囲を見回す。
「いないとしてもいつ来るか分からないし、早くあの2人を止めないといけないわね。ヤツらも“待ち構えてる”し」
白縫音羽が“外の景色”を目で促す。
ガラス張りの[エントランスホール]を外から囲むように、武装集団が陣形を組んでいた。
花盛清華がバズーカ砲で[エントランスホール]を破壊したら、すぐに“粛清”する準備を整えていた。
「さっきの爆音と衝撃は、あのバズーカ砲ってことか……」と、狗神新月。
「なるほど。持ち前の『予知』で花盛の暴走を視たわけか……それで南北は誰よりも早くここに駆け付けられた」
空狐が[エントランスホール]に仕掛けられた監視カメラと動体検知センサーをチラリと見遣る。
仕掛けた効果が早速得られたのは上々だが、”本来の目的”とは異なる成果であり、少々もどかしさを感じる。
「ちょ、そんな危険物、どこに隠し持っていたのよッ!? ユキに何かあったら――!」
「落ち着け、峰隅ッ!」
動揺のあまり飛び掛からん勢いの峰隅進を美ヶ島秋比呂が抑える。
「ど、どうするの!? これ、どうすればいいの!?」
織田流水があたふたと周りの<再現子>を見る。
片やバズーカ砲という凶器を構えており、もう片方はその凶器を向けられている状況だ。止め方を間違えれば大惨事になる。
「こういうケースは、2組に分かれるのがセオリーだ。対象の注意を引く陽動組と、対象の武装解除をさせる捕獲組と――」
時時雨香澄はこんな事態なのに冷静だ。周囲の<再現子>を見て、”1名”に目を向ける。
「我々で何とか注意を引くから、狗神……任せてもいいか?」
白羽の矢が立った狗神新月は、冷静に答える。
「問題ない。武装解除にリクエストは?」
「――無傷だ」
「了解」
時時雨香澄は狗神新月との会話を終えると、今度は織田流水に話しかける。
「流水。お前に花盛への陽動はできるか?」
「え? え~と……」
織田流水が困る素振りを見て、和泉忍が口を挟む。
「<外交官>の本質は“情報戦”だ。今回はどちらかというと、機動隊とか警察官といった治安維持部隊が力を発揮する場だろう」
「なら――僕らがやってみよう」
矢那蔵連蔵と、他の<再現子>たちが名乗り出る。
矢那蔵連蔵が花盛清華に呼びかける。
「花盛さんッ。バズーカ砲を下ろすんだッ! そのままだと南北さんに当たるよッ!」
「だったら、コイツをさっさとどけろッ!」
風間太郎も怒鳴る花盛清華に反論する。
「わ、分かった……け、けどよぉ、どうしてこんなことをするんだよッ!?」
「だって……もう、こんなことしても無駄だろッ!? ”従順”にしていても、何も変わらないじゃんかッ!? もう3日目だぞッ! こうやって生きていて、何の意味があるんだよッ!?」
「う~む、焦燥感とストレスが原因のようだな。まあ、外の空気も吸えず、武装集団に囲まれた上でまともな生活を送れる異常さ。思いの外、“心”に負荷が掛かっていたようだ」
空狐が冷静に分析する。
加えて、花盛清華は元より“反発派”だった。我慢の限界だったということだろう。しかし、多数決で決めた以上、そんな身勝手は認められない。
花盛清華は駆け付けた面々を見て――、
「……臼潮は?」
――と、質問する。
「[食堂]にいるから安心しろッ! 全員無事だッ!」と、葉高山蝶夏が答える。
「“まだ”、ね」と、白縫音羽が口を挟む。
「…………」
無言になった花盛清華は冷や汗をかいている。
どうやら今回の彼女の暴走は、臼潮薫子の暴走に触発されたようだ。
「そうだよッ、このままだと折角全員無事なのに怪我人が出るッ! どうか落ち着いて、武器を下げてくれないかッ?」
矢那蔵連蔵が黙る花盛清華に声を掛ける。
「…………ッ」
花盛清華が逡巡する。
狗神新月が、その”一瞬の隙”を突いた。
――パンッ!
「「――あッ!?」」
銃声に条件反射で咄嗟に身を屈める面々。しかし、狗神新月が発砲したのだと分かった。彼女の手に持つ拳銃から硝煙の匂いが立っていたからだ。
「――ッ!?」
花盛清華が足を取られたように、ひっくり返って尻餅をつく。
その弾みでバズーカ砲が彼女から遠い位置にポーンッと吹っ飛んでいった。
それもその筈、なんと狗神新月が花盛清華の左の義足を打ち抜いたのだ。
時時雨香澄の注文で、“無傷”で止めるという約束を果たすために、花盛清華の全身のうち、唯一“生身でない”義足を狙ったのだ。(その義足は花盛清華が改造していたため、頑強に作られている。)
「でかしたッ!!」
和泉忍は歓喜の声を上げる。
狗神新月の跳弾は誰にも当たることはなく、花盛清華も狙撃された反動で派手にすっ転んだが、外傷は見られない。
「かくほーーーッッッ!!!」
峰隅進がすかさずバズーカ砲を盗んだ――もとい、拾ったのを見た葉高山蝶夏が叫び、花盛清華に飛び掛かる。
花盛清華は<俳人>、加えて≪機械技師≫志望者だ。いずれも文化系と技術系のTHE・インテリである。身体能力は平凡であり、男性に押さえつけられたらひとたまりもなく、これで一件落着するかと思われた。
だが――、
「――あびゃりびゃrbyあびばびゃりっ――!?」
――葉高山蝶夏が気を付けをするように急に直立し、痙攣し出した。
「な、なんだッ!? 今度は何が起こったんだよッ!?」
風間太郎が葉高山蝶夏の異常な反応に思わず目を覆う。
葉高山蝶夏が仰向けに倒れる。まるで死んだ昆虫のようだ。
「お、おいッ!? 何があったッ! どうした、葉たk――ウッ!?」
美ヶ島秋比呂が駆け寄り葉高山蝶夏を看ると、「む、むごい」と口を覆う。
「ブクブクブクブク.。o○」
葉高山蝶夏は口から泡を吹いていた。
「ちょ、ちょっとッ!? ソイツ、大丈夫なのッ!?」
峰隅進が心配そうに言うと、同じく看た白縫音羽が答える。
「う~ん……うん。これは、軽傷ね」
「軽傷ッ!? 泡吹いてるのにッ!?」
「おい、ここにはお前しかいないんだ……くだらぬ冗談ではないんだよな?」
織田流水と時時雨香澄が白縫音羽に真実を問う。ここには~というのは、メディカル三姉妹のうち、この場にいるのが白縫音羽だけという意味だ。
白縫音羽は快活に笑う。
「あははっ、大丈夫。ただ“感電”しただけよ。安静にしておけば直に目を覚ますわ」
「感電ってことは――」
矢那蔵連蔵が花盛清華を見る。
「…………ッ」
彼女の手にはスタンガンが握りしめられていた。
「アイツ、全身凶器かよッ」
美ヶ島秋比呂が舌打ちをする。
「……今所持している凶器はそのスタンガンだけだよ!」
南北雪花が告げる。
「あっ『透視』か。マジ便利だな、それ……つーか、言えよッ!」と、風間太郎がポンッと手を打ち、かと思えばツッコミを入れる。
「本人の目の前でその所持している凶器を当てたら、警戒心を抱かせちまうだろ? 死にゃしねーなら、しかたねぇわ」と、空狐が風間太郎を落ち着かせる。
「…………ッ」
花盛清華は仲間たちの動向を警戒しつつ、自信の左の義足の具合を確かめる。
「もう投降してくれないかッ? こんなことをしても無意味だよッ?」
矢那蔵連蔵が語り掛ける。
「無意味って、何が? オレ様たちの”従順”もなんの意味があったってんだッ? この2日間で何か進展したのかよッ! 現状維持はその実、後退で、進歩にも解決にも何にもならないぞッ! 前進する意思を捨てた人間の命運は、”終わり”だけだ」
「今、政府が交渉しているはずだッ。もう少しの辛抱だよッ」
「辛抱って、いつまでだよッ!? これ以上辛抱しても、これ以上日数が経つと、オレ様の計画が――ッ」
そこまで言った花盛清華は、しまった、と自省する表情を見せる。
そして、そんな彼女の二度目の”一瞬の隙”を、狗神新月は見逃さなかった。
――パンッ!
「――うっ!?」
花盛清華が手に持っていたスタンガンの先を、拳銃で打ち抜き、吹き飛ばし無力化した。
「……ぐっ、うっ……ッ」
花盛清華は手を抑える。直接当たっていないとはいえ、拳銃で武器を吹き飛ばされる衝撃を受けたのだ。まったくの無事ではあるまい。
「――悪いが、多少横着した。許せ」
「――構わん。許容範囲内だ」
狗神新月と時時雨香澄が熟練のコンビのような会話をする。“無傷”の範疇を擦り合わせたようだ。
「とりあえず、移動しようぜ。ここは空気が重いからな」
「もう抵抗する術はあるまい。おとなしくしろよ」
空狐と和泉忍が、花盛清華を両脇から抱え、担ぐ。花盛清華は手を擦るだけでもう暴れることはなかった。
「……ごめんね。本当は説得したかったけど」
矢那蔵連蔵が目を伏せる。
憂鬱な足取りで移動する面々。この後に待ち構えている、”悲劇”が頭を押さえつけていた。
先の一件は、美ヶ島秋比呂が”むい”に掴みかかったことの罰で、大浜新右衛門が――。
今回は、臼潮薫子の外部への連絡に、花盛清華の脱出未遂。
――2件。
どういう審判が下されるのか、不安が彼らを襲った。
[エントランスホール]から立ち去る時――、
パシャッ。
――白縫音羽がいつの間にか葉高山蝶夏から拝借していたカメラで、[エントランスホール]全体を何枚か写真におさめていた。
「……音羽ちゃん、どうしたの?」
「ああ、いえ、何でもないわ。行きましょう」
白縫音羽が織田流水に微笑み、彼からの追求を拒んだ。
<再現子>たち全員が[エントランスホール]から立ち去るまで、外にいる武装集団は陣形を崩さなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる