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第23章 幻の英雄
第577話 TENKOMORI
しおりを挟むすっ、と掲げるように前に突き出した左腕……そこに出現する、腕時計型のマジックアイテム『エンドカウンター』。
ウェスカーとの戦いで壊されたけど、きちんと修理して元に戻りました。
それが出現したことで、僕が何をしようとしているのかを悟ったバイラスは、身構えつつ、分身を出して突撃させることで妨害しようとしてくる。
が、それよりも早く、
「フォルムチェンジ……全部!! あと、ザ・デイドリーマー『オーヴァーロード』!!」
時計の文字盤の1から12までの数字が全部輝き、僕の体が一瞬光に包まれる。
と同時に、矢のような速さで何人もの僕が、しかもそれぞれ違う姿で飛び出してバイラスの分身を迎撃していく。
魔法や飛び道具で遠距離攻撃して来るのを、超高火力の『ネプチューンフォルム』と『ジェノサイドアームズ』の一斉掃射で消し飛ばす。
それでも物量的に落としきれないものは、『グランドフォルム』で盾を構えて防ぎ、性質の問題というか……霊的なやつで実体がないから撃ち落としも防げもしないものは、『ハーデス』の力で干渉して消し去る。
それと同時進行で、また空間そのものを作り替えようとしてくるが……それより先に、また別な僕が足踏み一つでそれを押しとどめる。
ズシン! という轟音と振動と共に、変化し始めていた空間が揺らいで……元に戻る。
「! これは……空間の変容がかき消され……いや、強制的に安定させられたのか!?」
「『ヤマト皇国』に、周辺の気候がどれだけ荒れても、そこだけは強制的に穏やかな気候になってる場所があってね……そこから思いついて新しく作ったフォルムだよ」
名付けて『アースフォルム』。
周囲の環境ないし空間を『変えさせない』『穏やかにする』能力に特化したフォルムである。
見た目とかに特に変化はないんだけど、発動しているだけで相手の空間干渉を無効化するので、自分に有利な環境を作ろうとしてくるような奴に対しては、その有利性を打ち消すことができる。
もっとも、空間をどうにかする系の攻撃を使ってくる敵なんてそうそういなかったし、いてもたいがいが力技でどうにかなっちゃうから今まで出番なかったんだけどね。
何気に今回が初のお目見えである。
そして、そのおかげで安定したこの空間全体に、『ドルイドフォルム』の能力で無数の植物の茨を伸ばし、バイラスの分身達を捕まえていく。
明らかに金属以上の強度で縛り上げ……というかそのまま絞め殺そうとしてくる茨に、ちっ、と舌打ちしながら、バイラスは炎熱系の魔法を使ってそれら全てを焼き払ってくる。
が、赤い津波のような炎がこっちに届くより早く、今度は『ダイバーフォルム』の僕が空間ごと全てを押し流す勢いの鉄砲水――しかもただの水じゃなく氷水――を吹き付けてまとめて消火し、むしろその氷水の奔流にバイラスを飲み込む。
そして、その氷水の中を泳いで接敵して、まごついている間に次々分身を仕留めていく。
何体かの分身がその中から逃れるように飛び出したかと思うと、感電を狙ってその水塊全体に超威力の電撃を放った。
当然そんなものは僕には効かない。よりにもよって電撃なんて特に僕には効かない。そのまま吸収して充電しちゃうし。
が、今回はあえてそうせずに……
「雷とか光には……『ゴールデンフォルム』!!」
直後、僕の両手に、手甲と一体化した、黄金色に輝く盾が1つずつ現れる。
両手だけじゃない。体中に、プロテクターみたいな黄金色の装甲が現れ、いかにも『防御重視』って感じの見た目になる。
水全体を伝って殺到して来る電撃を、全身の金色の装甲が受け止め……
次の瞬間、それらの装甲によって増幅された電撃が全方向にぶちまけられ、その先にいたバイラスの分身達を消し飛ばした。
『ゴールデンフォルム』は、電撃系や光系の攻撃を受けると、それを何倍にも増幅反射して反撃することができる。飛んでいく方向も自在に変えられるので、使い手の方向にそのまま帰っていくとか言うわけでもない。
正確には電撃や光以外も返せることは返せるんだけど、一番増幅率がいいのがその2つなのだ。
これも今まで出番がなかったので使ってこなかったんだけどね。せっかくだし実践初投入で今回使ってみたけど……うん、広範囲に一気に反撃できるから楽ではあるな。
攻撃吸収充電とどっちがいいかは、相手の数とかで決めてもいいかも。
思わぬ反撃を食らって動きが止まっているバイラス達の群れに……さらに追撃。
水の中にいる状態で『バーニングフォーム』に転換する。
『バーニング』の状態の僕は常に数千度の高熱をまとっており、しかもそれを全方位に向けて放つことができる。
膨大な熱量で周囲にある氷水を一気に沸騰・蒸発させて水蒸気爆発を引き起こし、さらに広範囲を噴き飛ばす。電撃の反射攻撃と合わせて、大半の分身が今ので消し飛んだ。
わずかに残ったバイラスのうちの1人めがけて……いや、というかそいつら全員に『オーヴァーロード』で分身した僕が襲い掛かる。
大半は僕が殴るなり蹴るなり斬るなりして倒したが……1人だけ、まるで他の奴らを盾にするようにして一目散に逃げ出した奴がいた。
それが気になった僕は、未公開フォルム最後の1つ、『ヒュッケバインフォルム』を発動。
僕のフォルムチェンジのいくつかには、作る際にモデルにした仲間ないし知り合いがいる。
例えば『ハーデス』はテラさんをイメージした不死者系のフォルムであり、『ドルイドフォルム』はネールちゃんをイメージしたそれだ。
そしてこの『ヒュッケバインフォルム』は……アルバをイメージしたそれである。『凶鳥』の名もそこから取った。
プロテクター調の黒色の装甲を全身に纏い、背中に金属質な漆黒の翼が生える。
もちろんこの翼は装甲の一部だけど、魔力を流すことで浮遊魔法や重力軽減の魔法なんかが重複発動するようになっているので、超が付くほど高速で移動することが可能だ。
どのくらい速いかって、音速とか軽く突破した速度が出る。しかもほぼノータイムでそこまで加速できるので、はた目から見ていたらほぼ消えているようにしか思えないくらいの速さで飛べる。
ぶっちゃけ短距離~中距離なら転移魔法より早い。転移魔法が発動して、転移し終わるより早くお目当ての場所に行ける。
ただ、殺人的どころじゃない加速具合なので、僕以外が使ったら確実に死ぬ。
動き出した瞬間に体がひき肉になる、あるいは空気摩擦で自然発火とかすると思う。
(まあ僕には縁のないことだけど)
音速突破の速さに乗せて叩き込んだ拳を、驚いたことにバイラスは防いでみせた。
しかし、空中を舞うように飛びながら2度、3度と拳を叩き込む中、さっきと同じようにバイラスの体の中で魔力と熱がうごめき始め……
それが自爆の前兆だと悟った僕は、とっさに超加速でバイラスの懐に飛び込み、自爆直前にその腹を貫手で貫く。
そしてその穴から、自爆のためにたまっていたエネルギーを強制排出させる。
……以前、母さんの『テスト』の時に、自爆しようとした僕を助けるために母さんがやったのを真似してやってみた。
あの時は、母さんの幻術に騙されてて、母さんを助けるため、命と引き換えに敵を倒すために、って感じ僕が暴走した結果だっけな……ちっ、嫌なこと思い出した。
『がはっ』と吐血して体勢を崩すバイラスだけど、次の瞬間にはその腹の大穴も塞がって回復していた。相変わらずバカげた再生能力……さすがは幻影存在。
……しかし、だ。
「自爆までして逃げようとしたってことは、やられても構わない分身とは違うってこと。さっき殴ったり、貫いた時の手ごたえも違ったし……さてはお前が本体だな?」
「…………っ!」
返答はなかったが、その沈黙がもう答えみたいなもんだ。
無言で出現させた分身を操って僕を足止めしようとしてくるが、僕も同時に『オーヴァーロード』で分身を出す。
それぞれ、『ワルプルギスのマント』『ゲオルギウスの双剣』『ウロボロスの大砲』で一気に分身達を消し飛ばし……た頃にはバイラスはまたすごい魔法を発動していた。
変身魔法だろうか? このわずかな時間で、なんとその身を巨大なドラゴンに変化させていた。
……というかコレ、あの『ジャバウォック』とかいう奴に似てるな。もしかしてそれをイメージした変身だろうか。
巨体に似合わない俊敏さで、その剛腕を僕めがけてたたきつけてくるが、これも超加速でひらりとかわし、反撃にがらあきの胴体に飛び回し蹴り。
しかし、でかくなったからか……頑丈さも随分と上がっているようだ。
あまり効いた手ごたえがなかった。
続けて何発……と言わず何十発か叩き込んで見るが、なかなか有効打になる様子がない。
むしろ、僕の攻撃に耐えてそのまま自分が牙や爪、あるいは炎のブレスで攻撃までしてくる。
半面、分身や魔法は使ってこなくなったけど……耐久力が爆上がりする代わりに、そういう小手先の技のいくつかが使えなくなるのかな?
ふむ……このままでも押し切れないことはないけど……せっかくの機会だ。
完全にネタで作ってあった『アレ』も使っちゃおう。無駄に頑丈だし、ちょうどいいサンドバッグだと思えばいい。
さて、僕のフォルムチェンジだが……この戦いで、というか今まで使ったものを並べてみよう。
水中を自由自在に泳いで水属性の攻撃を行う『ダイバーフォルム』。
金色の装甲で相手の攻撃を増幅反射する『ゴールデンフォルム』。
周囲の空間の変容を強制的に阻害して安定させる『アースフォルム』。
火炎の力をまとって敵を焼き滅ぼす『バーニングフォルム』。
草木やら自然の力を操作する『ドルイドフォルム』。
重装甲の鎧で不動の山をイメージした馬力と防御力を誇る『グランドフォルム』。
天空を自由自在に超高速で駆け巡る凶鳥『ヒュッケバインフォルム』。
超火力の絨毯爆撃で広範囲を薙ぎ払う殲滅形態『ネプチューンフォルム』。
霊や死の力をまとって命を刈り取る闇の刃を振るう『ハーデスフォルム』。
これら9つ……実は、草案を考えていた段階から、共通点というかイメージ的なものを持たせた上で考え出していたものなんだが……勘のいい人はもうわかったかもしれないね。
まあ……一部、若干無理やりなところはあるんだけどさ。自分でも意味合いがこじつけにしか見えなかったりとか。
……『アースフォルム』とか、特にね。僕らが生きてる『地球』は、環境が安定していて生存に適したそれだから、その状態から外れさせない、っていう意味で、『空間の矯正安定』を能力として決めて、それに『アース』……『地球』の名前を付けたり、とか。
あとは、『オルトヘイム号』をイメージしたことと、『ネプチューン』っていう名前で強引に『海の王』の名にこじつけさせたのもあるし……
……まあ、そういうのも含めて半ばノリと勢い、そして趣味で作ったものだからまあいいじゃんってことにして! ……ってかホントにほぼ趣味10割から始まったしなコレら全部。
じゃ、今並べた九つの真骨頂! というか集大成というかクライマックスというか!
腕時計の文字盤が再び全て輝き……大きさの異なる9つのひかりの球体が飛び出し、輝きを放ちながら、僕を中心としてその周りを回り始める。
その姿は、まるで……
「スイ! キン! チ! カ! モク! ド! テン! カイ! メイ! All In!」
もうお分かりだろう。僕が何をイメージしてこの9つのフォルムを作ったのか。
太陽に近い順に、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星……太陽系の9つの惑星をイメージしてのものだ。
……2006年に冥王星は惑星から外されて8つになったって? いいんだよ細かいことは!
そして、だ。
皆さま、特撮用語における『てんこもり』ってものをご存じだろうか。
簡単に言えば、今迄に登場した強化変身形態の力を、全部一度に使えるような、全部乗せ豪華版変身のことである。炎と水と風と土の力の変身形態があったとして、それら全部1つにまとめて纏っている、みたいな。
僕の場合も、9つのフォルムの力を、全部一気に纏うことで……集大成たる形態が完成する。
普通に強力ではあるが、どちらかと言えばネタ10割で構築された強化変身。その名も……
『Operation……Perfect!!』
「パーフェクトジョーカー!!」
次の瞬間、9つの光球は僕に殺到するように集結し……また僕の姿が変わる。
一言でいえば……その姿は、まさに全部乗せ。
重厚な黒と金色の鎧に全身を包まれ、背中からは漆黒の翼が生えている。
その上から陣羽織みたいにロングコートを着ていて……そのコートは、右半分が水色で冷気を、左半分がマグマのような紅蓮で熱気をまとっている。
闇の力をまとった漆黒と、新緑のような緑色の2色のマフラーをたなびかせ、体の各所に、刃や暗器、さらには銃火器なんかを含む兵装を大量に仕込んでいる。
率直に言って若干ゴテゴテしているというか、過積載に見えなくもないが……まあ、ロマン武装なんてこんなもんだろう。
ともあれ、変身完了……するのを待ってたわけじゃないだろうが、何も言わずに握りしめた拳に膨大な魔力を込めて強化し、振り下ろしてくるバイラス(ドラゴン)。
―――バシィィイィッ!!
『ぐ、がぁああぁっ!?』
が、僕はその攻撃を片手であっさりと受け止めた。
それどころか、触れた瞬間にカウンター能力が発動して、衝撃が増幅されて、逆にバイラスの方が大きく拳を跳ね飛ばされ、体勢を崩す。
『グランドフォルム』の防御力と『ゴールデンフォルム』の増幅反射の合わせ技だ。生半可な攻撃ではもう、クリーンヒットしようが傷一つつかない。手で止める必要すら実はなかった。
じゃ、今度はこっちが攻撃する番だ。
空中で羽ばたいて体制を整えようとしたところに……黒い翼を羽ばたかせて、一瞬でその距離をゼロにする。
バイラスがハッと気付いた時には、もうすでに僕はその懐に入っていて、拳を振りかぶっていた。
ついでに言えば、その拳は炎をまとってメラメラ燃えていて……
「そぉ――りゃぁあぁああぁ!!」
気合と共に繰り出した拳が、どてっぱらに吸い込まれ……命中すると同時に、間欠泉のような勢いで爆炎が吹き上がる。
生半可な炎や熱なんか全く効かないであろう、ドラゴン化したバイラスの鱗を盛大に焼き焦がし、その下にある肉体をも炙っていく。
しかもそれと同時に、右腕の各所から何十発、何百発もの小型のミサイルが飛び出し、殴り飛ばしたバイラスに命中してさらに炎に包んで追い打ちをかけていく。
最初の爆炎のダメージ……というか炎そのものが燃えていて、まだ消えていないうちに、無数のミサイルが飛来・炸裂していった。
まずは一発、みたいな感じで繰り出させてもらったけど、ミサイルの追撃を合わせると100発どころじゃないなこれは。
しかし、『バーニングフォルム』と『ネプチューンフォルム』の合わせ技……高火力2つを合わせただけあって見た目にもすさまじい威力だってのがわかるな。
かなりの広範囲を更地か火の海にできるであろう絨毯爆撃の火力が、1体の敵に集中してる。
間断なく響いている爆発音が、おそらくは上がっているんであろうバイラスの怒号やら悲鳴みたいなのをほとんどかき消してしまってて、聞こえてこないもの。
『―――ぁぁあぁあがぁああっ!!』
ようやく声が聞こえてきたと思ったら、直後にバイラスは体を再生させながらまた僕の方に突っ込んでくる。今度はその身に暴風と雷をまとっていて……そのまま突っ込んでくる気のようだ。
頭突きなのか噛みつきなのかはわかんないけど、ドラゴンの巨体だけあって威圧感は凄まじい。
が、残念ながら今の僕には、光るサンドバッグが突っ込んできているようにしか見えない。
こっちもまけじと、脚に電撃と暴風を収束させていき……真っ向から迎え撃つ。
繰り出したのは飛び後ろ回し蹴りだから、『真っ向』なのかなって言われたらちょっと微妙(横からの一撃だし)だが……まあいいだろう。
電撃と暴風を、同じく電撃と暴風で迎え撃ったわけだが、その結果……激突した瞬間に向こうが纏っていたそれらが完全に霧散……というか爆散し、バイラスの巨体は見事にきりもみ回転しながら吹き飛んでいった。全身に、僕が叩き込んだ暴風と電撃で切り傷や焦げ跡を負いながら。
そしてその飛んだ先に一瞬で回り込み、体勢を立て直すのを待たずに追撃。
今度は魔力を使って空間に何本もの太い茨を出現させ、それを網のように編んで、飛んでくるバイラスを捕まえる。
魚よろしく網に突っ込んで捕まったバイラスを、茨を操ってそのまま縛り上げ……腕力にものを言わせて振り回す。
ハンマー投げみたいにぶんぶんと回転しながら大きく振り回し……脱出しようともがくものの、見た目に反して超硬合金なんて目じゃないくらいに頑丈な茨はびくともしない。
十分に勢いがついたところで、開店する向きを縦向きに変え……思いっきりぶん投げて地面にたたきつける。
が、さすがに体が頑丈だからか、自重+僕が投げた勢いだけじゃさほど大きなダメージにはならなかったみたいで……雄たけびを上げながら起き上がるバイラス。
大きく息を吸い込んで、まだ空中にいる僕めがけて炎のブレスを吐き出してくる。
そこらのドラゴンの炎なんかとは比べ物にならない熱量と魔力量だ。
炎って言うよりも、超高熱のこもった破壊光線に近い。巨大な城壁すら跡形もなく蒸発させてしまえそうなくらいの威力になっているだろうと、発射される前から分かる。
そして、僕めがけて発射されたその光炎は……しかし、僕の眼前に突如として現れた――もちろん僕が作ったんだけどね?――鏡のようなバリアによって防がれる。
よく見ればわかるんだけど、分厚く、そして宝石のようにきれいな氷で作られているその鏡の盾は……直撃した破壊の光炎、その熱を全くこちらに通さない。完全にその破壊と、暴力的なまでの熱……その余波すらも、遮断してしまっている。
そして、さすがに永遠にそれを吐き続けられるわけじゃなかったらしい。光が弱まったところで、僕は素早く氷の盾を裏側から蹴っ飛ばし、光炎を押しのけてバイラスの顔面に激突させる。
それに怯んだ一瞬の隙に、地面に降りて、また新たに何本もの茨を出現させる。
しかし、生えてきたのはただの茨じゃなく……氷でできた茨である。
それらは即座にバイラスにまとわりついて、翼ごと縛り上げて身動きを封じ……同時に、その茨に何輪もの花が咲いていく。当然、それらも茨と同じで、氷でできた花だ。桜に似てる形の。
あっという間に満開になり、バイラスを覆い隠さんばかりに咲き誇っている氷の桜は、僕がぱちん、と指を鳴らすと一斉に散って花びらになって舞う。見た目だけならみやびで風流である。
氷の花びらは、1枚1枚が鋭い刃になっている上に、触れるだけで瞬間凍結から破壊まで持っていかれそうな超低温の刃なので、風流どころじゃないけどね。
同時に僕は、もう片方の手に風の魔力を込めて握り……何もない空間に、正拳突きの要領で拳を突き出すと、暴風が巻き起こって竜巻になり、バイラスを包み込む。
その竜巻に、無数の氷の花びらが巻き込まれ……絶対零度の桜吹雪となって襲い掛かる。
傷を増やしながら全身を氷漬けにされていくバイラスは、それでもどうにか動いて逃れようとするものの……急激に体温を奪われて抵抗する力も失っていく。
炎のブレスを吐いたり、体に魔力や雷をまとおうにも、それすら凍って砕けてしまう。
やがて全く動かなくなり、氷像になってしまったバイラス。
しかしまだ気配とかは感じるので、氷漬けになったその中できちんと意識は保っているんだろう……もう少しすれば氷を破壊して出てきそうだな。
じゃあ、いっそその前に、ぶっ壊しつつ大ダメージでも。
僕の全身の装甲が展開し、体中から無数のミサイルが発射される。さっき、殴ると同時に追撃で放ったのと同じ、小型のミサイルだ。
しかし、さっきとは違う点が2つ。
1つは、その数。さっきは殴った腕から発射したものだけだったけど、今回は全身からなので、その数倍から数十倍。5桁行くんじゃないかっていう、おかしい量のミサイルが発射されていた。あまりの量に、日の光がさえぎられて空が暗くなるレベルだ。
それが、1つの目標めがけて落ちていく。……結構な地獄絵図である。
そしてもう1つは……そのミサイルの1発1発が、おどろおどろしい闇をまとっている点だ。
しかもこれら、単純に闇属性の魔力が込められているだけじゃない。種明かしをしてしまうと……これら全てのミサイルが、『霊力』が込められ、霊的な存在になっている。
それにより……物理的な手段で止めることができない。
バイラスの全身を覆う氷は、分厚く頑丈で……徐々にひび割れつつあるものの、バイラスの巨体を抑え込んで動きを封じるだけの強度を誇っている。
そして、降り注ぐミサイルは……なんとその氷をすり抜けて、バイラスの肉体にクリーンヒットして爆発する。
しかも、一斉に降り注ぐことによって、ミサイル同士がぶつかったりもしているんだけど……それすら、互いが互いをすり抜けて、干渉しない。互いが互いを邪魔せず、暴発とか誘爆もしない。
ただ、バイラスに命中した時のみ爆発し、爆風も含めて一切相殺も妨害もされずに、バイラスだけがそのダメージを不足なく叩き込まれている。
名付けるなら、そう……ゴーストミサイル、ってところかな。
防御貫通、フレンドリーファイアなしで降り注いでくる理不尽極まりない爆撃にさらされ、一方的にダメージを受けるバイラス。
それでもどうにか、無数のミサイルの直撃で傷だらけになりながらも、ようやく氷の拘束を破って外に出てきた。
そして、魔力を込めた炎のブレスで空中のミサイルを迎撃。さすがにこれはすり抜けることはできず、全てのミサイルが消滅させられてしまった―――
―――かと思い込んだところで、地面の下をすり抜けて湧いて出てきたミサイルが500発くらいまた直撃した。
こんなこともあろうかと、地中を通るコースでいくらか撃っておいてよかった。
何発かが下から顎のあたりに激突したおかげで、ブレス吐いてる口が強引に半分くらい閉じられてしまい、半ば暴発したような形になって、口から煙を上げていた。
『グ……ガァァア……!?』
うっわぁ……牙とか内側から爆散して折れ飛んでるし……やっといてなんだけど、痛そう。
まあ、そこにさらに追撃するんだけど。
怯んだバイラスを三たび茨で拘束。
今度は普通の茨でもなければ氷の茨でもない、雷を固めて作った超高電圧の茨だ。動けなくなったのに加えて、感電させられるバイラス。
しかもコレ実はただの電撃じゃなく、『電磁力』を込めている。
具体的には磁石のN極と同じ磁力を持っている。
そして僕は、自身にS極の性質をまとって、なおかつ僕自身は重力魔法で重さを増し、空間系の魔法もいろいろ使って自分をこの位置に固定してやると……超強力な磁力に誘引されて、バイラスの巨体がこっちに飛んでくる。
それを殴る。
ただ単に思いっきり、力を込めて殴る。
すごい音がして、バイラス、吹き飛ぶ。
しかし、一瞬後にはまた磁力で戻ってくる。揺り返しで帰ってくるサンドバッグのように。
それをまた殴る。吹き飛ぶ。
戻ってくる。
殴る。
戻ってくる。
殴る。
戻ってくる。
殴る。
戻ってくる。殴る。
戻ってくる。殴る。
戻ってくる。殴る。
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
『っ……いい加減に、しろ!!』
そろそろ3桁行くんじゃないかなって数の拳を叩き込んだあたりで、さすがにキレたのか、それともこれ以上のダメージはまずいと思ったのか、咆哮ともにバイラスの全身から魔力が放出され……力技で雷の茨を吹き飛ばされた。
が、それと同時に、ドラゴンの巨体が灰になって散るように消え……ちょうどその頭があったあたりに、人の姿のバイラスが再びその姿を見せていた。ダメージが大きすぎて変身が解除されたのか、それとも自分からもとに戻ったのかはわからないけど。
その姿は率直に言ってボロボロで、体中あちこちに傷がついていた。
そして、それらの傷が再生する様子がない。
いや、少しずつ治ってはいるようだけど……回復が鈍いな。
幻影存在でも、無限に復活できるわけじゃないのか……それとも、『ザ・デイドリーマー』の使い手である僕の攻撃だからか……。
「ここで……ここで終わってなるものか……! 私は……私には、まだ……やらなければ、ならないことが……!」
歯を食いしばり、血を吐くような必死な声音だった。
石にかじりついてでも、何が何でも野望を果たさんと、そうしなければ死んでも死にきれないとでも言うような……そのためにどんな逆境だろうとも乗り越えて見せるとでもいうような、そんなすごみを感じる。
……が、残念ながらそんな時は来ない。
僕が、今ここで、終わらせるからだ。
その、はた迷惑なことこの上ない……おそらくは、その『聖女』さんの希望をなんか誤読曲解しまくって捻じ曲げてしまっているであろう、的外れ極まりない、その野望を。
満身創痍を絵にかいたようなボロボロさで、最早動く力も残っていなさそうに見えるバイラスだが、万が一があってもいけないので……最後もきちんと、全力で仕留めることにする。
僕の全身から放たれた虹色の光が、右足に収束して渦を巻く。
同時に、いつもの脚甲をひとまわり大きく、ゴツく、そして豪華にしたような見た目の脚甲が装着され、光はその周囲にまとわりついて渦を巻き始めた。
すぐにそれらは光だけではなく、様々な属性の力となって顕現する。
炎が燃え上がり、水と氷が舞い散って輝き、風が渦巻き、雷と黄金の光がほとばしり、闇があふれ出し……9つのフォルム全ての力が凝縮された必殺の一撃が練り上げられていく。
そして次の瞬間、
雷の速さで前に飛び出した僕は、バイラスが反応するどころか、攻撃に気づくよりもおそらくは早く……その体のど真ん中に、9つの力が込められた飛び蹴りを突き立てた。
「パーフェクト……ダークネスキック!!」
その瞬間に、バイラスを中心に光と闇が広がる。
黒い闇のはずなのにまばゆく輝いているその不思議なエネルギーは、空間を押しのけるように広がっていく一方で、中心にいるバイラスをとらえて離さず、
そこから湧きだすように、赤や青、黄色や緑、紫に白といった無数の光が星のようにあふれ出して飛び散っていく。
まるで宇宙誕生、あるいは放射状に広がる流星群のような光景の中で、膨大なエネルギーの奔流にさらされ、囚われ、逃げられないまま……何もできないままにバイラスの体は崩壊していった。
「――――、――――!」
その間際、何か言っていた気がしたけど……かき消されて、聞こえなかった。
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「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
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