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第五章 ワン・モア・チャンス
11 素っ裸かのスプーン
しおりを挟む大樹は、康太の申し出に一瞬面食らったようだったが、すぐにいつもの温和な顔つきに戻って、
「康太、いきなりどうしたんだ?」
貫通式をお願いします、とは流石に云えなかったので、康太は咄嗟に思いついた理由を口にした。「実は……その、ホームシックで、ひとりだと寝られそうになくて……」
「そういうことか——」大樹はこう云うと壁側にさっと退き、康太のためにスペースを空けると、タオルケットをめくった。「——ほら、来いよ」
「し、失礼します……」
康太は、吸い込まれるようにベッドに上がった。右隣りでは大樹がすでに巨軀の左側を下にし、左肘をついて、康太を見ている。その姿は、康太を待ち構えているようでもあり、ようすをうかがっているようでもあった。
大樹が、くすっ、と笑った。「マイナス・ワンなんか気にしなくてもいいって云っただろ?」
「あ……でも……一応……」康太はヘッドボードに背中を預けて、腰の位置までタオルケットを寄せあげた。「……一応一緒に寝るんで……同じ空間だし……」
「律儀なんだな、おまえって」
康太は、首から下げていた犬笛を両手で弄りながら、さっき確認したコンドームのことを考えた。
——ふたつか……。そういや森先輩、あの日、みっつ使ってたっけ……。
康太は、貫通式の夜に大樹が勝利に見せた使用済みのコンドームを思い出した。みっつとも夥しい量の精液で満たされていた。しかしそれでも足りないと大樹は勝利に云って、ふたつ余計に受け取ったのだった。
——貫通式が始まったら、ぼくが森先輩にコンドームを着けてあげたほうがいいのかな……。
康太は、その光景を思い描いてみた。これから大樹の大きくなったものを目にすることになる。それに手で触れることになるのだ。不意に風呂場で武志に云われたひと言が蘇った。グランドスラム達成——男子寮の三大バズーカ砲のうち、すでに武志のものにも勝利のものにも触っている。残すは大樹のバズーカ砲だけだ。
——森先輩、ただでさえ大きいのに……。
康太は、そろりそろりと横になった。そして仰向けになると、胸の位置までタオルケットを引き上げ、胸の上で両手を組んで目を固く閉じた。
大樹がヘッドボードに手を伸ばす気配がした。「ところで、枕は一緒に使うのか?」
「あ……」
目を開けるとナイトライトが消されたところだった。
暗がりのすぐ隣りに大樹の顔がある。康太は起きあがろうとした。
そこへ大樹の太い腕が首の下にすっと差し込まれた。「腕枕してやるよ。寝ろ」
「は、はい……」
康太は遠慮がちに返事すると、大樹に背を向け、両脚を曲げて丸まった。
——これでいいんだよな。あとは森先輩にまかせて……。
大樹がタオルケットをずり上げて康太の肩に掛けた。「期待の新人が肩を冷やすといけないからな」
「あ、ありがとうございます」返事はしてみるものの、その声は掠れている。
「それにあとで今井に文句云われたら、たまったもんじゃない」大樹は、その太い右腕を康太の胸と腰のあいだに納め、同時に康太の両脚に自分の両脚を曲げて添えた。どちらも極々自然な流れだった。「これで寝られるだろう?」
「は、はい……」
康太は右手で犬笛を握りしめた。
——どうやってお願いしよう……。
——今日はやめておこうかな……。
——もしあのガウンのまま寝ていたら……。
康太はふとこう思った。
風呂上がりに寛いでいるとき、ガウンの紐など無きに等しかった。合わせ目は自然に展かれ、隠すべき裸かが剥きだしになっていた。着ていても着ていなくても同じことだった。だから普段から腰に小さい布切れ一枚だけ巻いている大樹は、きっと邪魔だとばかりにベッドの上でガウンを脱いでしまっていただろう。そして自分もガウンを脱いで寝ることになる。
康太はさらに想像を進めていった。
大樹は水の匂いがする。水のなかを自由自在に泳ぎながらボールを運び、飛びあがって相手のゴール目掛けてそれを投げいれる。そのとき水飛沫が大きく立ち、たくましい裸身の周りで陽の光を浴びてキラキラと輝く。ゴールを狙う鋭い目つき、高く振りあげられた太い腕、そして水面から現れる雄々しく毛深い胸板……。
その大樹に後ろから抱かれている。ふたりとも素っ裸かだ。からだの左側を下にし、大樹の上腕二頭筋を枕にして、重なりあうスプーンのようにぴたりとくっ付いている。
——そうだ! 二人羽織りのとき……。
大樹の豊饒の体毛を背中に感じる。その感触は背中から腰を経て、尻にまで達している。そして尻の谷間には——大樹のあの立派なバズーカ砲が当たっている。動いてはいけない。大樹の武器はすでに硬く熱くなっていて、いつでも撃ちはなつことができる。少しでも動けば尻の谷間に深く潜りこんで、尻の中心に狙いを定めるだろう。
——あっ! 当たっている……!
ここで康太は現実に戻った。
尻の谷間に、紛れもない大樹の隆起を感じる。しかし大樹は凝っとしている。どうやら今ここで貫通式をすぐにでも始めようという気はなさそうだ。
ならばホームシックを口実に、一緒に寝ることを習慣にして、その機会を待つのが良いだろうか。今ここで自分から誘うのではなく。
わからない、わからない。正解が見つからない。
あれこれ考えているうちに、大樹の体温がじんわりと康太に伝わり、緊張をほぐしていった。康太は穏やかな気持ちになって、考えるのをやめた。
康太は大きく欠伸をした。
「森先輩……おやすみなさい」
「ああ、いつでも一緒に寝てやるからな」大樹が康太の耳許で囁いた。「……それからおまえ……」康太の欠伸が大樹に伝染した。「……夢精すんなよ……」
康太は、大樹のこのひと言で、眠気がふっ飛んでしまった。
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