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陰陽の鏡
陰陽の鏡1
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ダンスが終わり、輝李と乙が瀾を起こしスッと一定距離に離れると、乙は瀾にクールに優しく微笑む。
「…ありがとう、楽しかった」
そう伝えると瀾の手を取り、その甲にキスを贈った。
瀾はと言えば、途端に顔を赤く染めて恥ずかしそうに口を開く。
「あ、あの…」
「ちょっと!!」
瀾の声を遮るが如く、輝李の声が乙にとんだ。
二人の姉妹の間には、言い知れぬ威嚇感が走った。
最初に口を開いたのはやはり輝李だった。
「仮にも〔僕の目の前〕で、よくそんな事が出来るね!」
「ダンスの礼を伝えただけだ。
それとも…こんな事が許せなくなるほど、お前には〔余裕がない〕のか?」
「……ッ!!瀾ちゃん!!行くよ!!」
挑発的な乙の言葉にキッとキツイ視線を剥き出しにすると瀾の手を取り、強引に引っ張ってテラスへ出ていった。
瀾は手を引かれながらも心配そうに乙に振り向くと、乙は微笑みながらウインクして見送ったのだった。
パーティーが終わり、乙が部屋へ戻りバスルームの用意をしていると部屋のドアにノックが聞こえた。
乙がドアを開けると、そこに立っていたのは瀾だった。
「おかえり。今日は輝李の所に行くんだと思っていたんだが…」
乙の言葉に瀾は遠慮がちに答える。
「えっ…と、明日から本格的にお勉強を見ていただかなくてはいけないので…」
「クス…健気なんだな
そんな所にいつまでも立っていないで中に入れよ♪」
「あ…はい!!」
乙の笑顔に瀾も精一杯の笑顔で答え部屋に入った。
ソファーに座っている瀾にアプリコットティーを持ってくると優しく口を開いた。
「疲れただろう?
今、バスルームの用意をしているから準備ができたら入ってくるといい」
「あ、はい!!」
いまだに緊張気味な瀾にクスリと微笑むと紅茶を口にした瀾が思わず口を開く。
「…美味しい」
「そうか、良かった。
野中の口に合いそうなものを選んだんだが、気に入ってもらえたみたいだな♪」
「はい、ありがとうございます」
それは以前、瀾が好んで乙と飲んでいたものだった。
「腹減ってないか?」
「え?」
唐突な乙の問いに瀾は小首を傾げたが、やがてその腹部から空腹の鳴き声が聞こえると瀾は顔を赤くした。
乙は、クスリと微笑み…
「やっぱりな、パーティーで何も食べてなかったんだろ?」
「あ、いえ…、な、何で解ったんですか?」
その言葉に乙は微かに目を伏せてフッと口を開いた。
「…何となくだ」
その笑顔は何処と無く哀愁があった気がしたが、乙はすぐにいつものクールなりにも優しい表情に変わっていた。
「もう食堂もやっていないし、軽いもので良ければ作るけど、野中どうする?」
「あ、はい、戴きます!!」
しばらくすると乙はハムエッグとサンドイッチを持ってきた。
「こんなものしか出せなくて悪いな…」
「いえ、ありがとうございます」
笑顔で答え、瀾がサンドイッチを口にすると思わず口をついた。
「美味しい…」
「そうか、良かった」
口に広がるサンドイッチは、瀾の脳裏を微かに擽った。
「…ぁ…」
「どうした?」
不意に口をついた瀾に乙が口を開くと瀾はポツリとおぼろげに開く。
「…何処かで…この味を食べた事があるような…
ウッ!!」
途端に頭痛が走る。
「野中!!」
頭痛に頭を押さえる瀾に乙は、思わず駆け寄る。
心配そうに覗き混むと瀾に声をかけた。
「野中、大丈夫か?
今、薬を持ってくるから」
「いえ…大丈夫です
たまに有るんです…
でもすぐ治まりますから」
弱々しい瀾の笑顔は、乙の胸を締め付け、その痛みは鈍く突き刺すようだった。
「…そうか…なら良いんだが」
乙が見せる悲し気な顔は、瀾に疑問を誘った。
「…先輩は優しいんですね。
どうしてそんなに私を心配してくださるんですか?」
「……ッ、それは…」
時にその無垢な問いは残酷なものだった。
握りつぶされるような胸の痛みと真実を語る事すら許されない罪悪感と共に乙は、目を伏せる。
そして…やっと、こう言葉を出したのだ。
「…輝李の大切な子だからだよ」
それだけいうと寂しく微笑み、その空気を変えた。
「バスルーム見てくるよ
そろそろ湯がたまったかもしれないから」
笑顔でその場を離れ、バスルームに向かうと壁に寄りかかり胸を掴んだ。
「…瀾…」
その顔は、胸に刺さる棘と鎖で束縛され裂けてしまいそうな痛みの辛さに押し潰されるのを必死で耐えている悲しさと暗澹の表情だったのだ…。
「…ありがとう、楽しかった」
そう伝えると瀾の手を取り、その甲にキスを贈った。
瀾はと言えば、途端に顔を赤く染めて恥ずかしそうに口を開く。
「あ、あの…」
「ちょっと!!」
瀾の声を遮るが如く、輝李の声が乙にとんだ。
二人の姉妹の間には、言い知れぬ威嚇感が走った。
最初に口を開いたのはやはり輝李だった。
「仮にも〔僕の目の前〕で、よくそんな事が出来るね!」
「ダンスの礼を伝えただけだ。
それとも…こんな事が許せなくなるほど、お前には〔余裕がない〕のか?」
「……ッ!!瀾ちゃん!!行くよ!!」
挑発的な乙の言葉にキッとキツイ視線を剥き出しにすると瀾の手を取り、強引に引っ張ってテラスへ出ていった。
瀾は手を引かれながらも心配そうに乙に振り向くと、乙は微笑みながらウインクして見送ったのだった。
パーティーが終わり、乙が部屋へ戻りバスルームの用意をしていると部屋のドアにノックが聞こえた。
乙がドアを開けると、そこに立っていたのは瀾だった。
「おかえり。今日は輝李の所に行くんだと思っていたんだが…」
乙の言葉に瀾は遠慮がちに答える。
「えっ…と、明日から本格的にお勉強を見ていただかなくてはいけないので…」
「クス…健気なんだな
そんな所にいつまでも立っていないで中に入れよ♪」
「あ…はい!!」
乙の笑顔に瀾も精一杯の笑顔で答え部屋に入った。
ソファーに座っている瀾にアプリコットティーを持ってくると優しく口を開いた。
「疲れただろう?
今、バスルームの用意をしているから準備ができたら入ってくるといい」
「あ、はい!!」
いまだに緊張気味な瀾にクスリと微笑むと紅茶を口にした瀾が思わず口を開く。
「…美味しい」
「そうか、良かった。
野中の口に合いそうなものを選んだんだが、気に入ってもらえたみたいだな♪」
「はい、ありがとうございます」
それは以前、瀾が好んで乙と飲んでいたものだった。
「腹減ってないか?」
「え?」
唐突な乙の問いに瀾は小首を傾げたが、やがてその腹部から空腹の鳴き声が聞こえると瀾は顔を赤くした。
乙は、クスリと微笑み…
「やっぱりな、パーティーで何も食べてなかったんだろ?」
「あ、いえ…、な、何で解ったんですか?」
その言葉に乙は微かに目を伏せてフッと口を開いた。
「…何となくだ」
その笑顔は何処と無く哀愁があった気がしたが、乙はすぐにいつものクールなりにも優しい表情に変わっていた。
「もう食堂もやっていないし、軽いもので良ければ作るけど、野中どうする?」
「あ、はい、戴きます!!」
しばらくすると乙はハムエッグとサンドイッチを持ってきた。
「こんなものしか出せなくて悪いな…」
「いえ、ありがとうございます」
笑顔で答え、瀾がサンドイッチを口にすると思わず口をついた。
「美味しい…」
「そうか、良かった」
口に広がるサンドイッチは、瀾の脳裏を微かに擽った。
「…ぁ…」
「どうした?」
不意に口をついた瀾に乙が口を開くと瀾はポツリとおぼろげに開く。
「…何処かで…この味を食べた事があるような…
ウッ!!」
途端に頭痛が走る。
「野中!!」
頭痛に頭を押さえる瀾に乙は、思わず駆け寄る。
心配そうに覗き混むと瀾に声をかけた。
「野中、大丈夫か?
今、薬を持ってくるから」
「いえ…大丈夫です
たまに有るんです…
でもすぐ治まりますから」
弱々しい瀾の笑顔は、乙の胸を締め付け、その痛みは鈍く突き刺すようだった。
「…そうか…なら良いんだが」
乙が見せる悲し気な顔は、瀾に疑問を誘った。
「…先輩は優しいんですね。
どうしてそんなに私を心配してくださるんですか?」
「……ッ、それは…」
時にその無垢な問いは残酷なものだった。
握りつぶされるような胸の痛みと真実を語る事すら許されない罪悪感と共に乙は、目を伏せる。
そして…やっと、こう言葉を出したのだ。
「…輝李の大切な子だからだよ」
それだけいうと寂しく微笑み、その空気を変えた。
「バスルーム見てくるよ
そろそろ湯がたまったかもしれないから」
笑顔でその場を離れ、バスルームに向かうと壁に寄りかかり胸を掴んだ。
「…瀾…」
その顔は、胸に刺さる棘と鎖で束縛され裂けてしまいそうな痛みの辛さに押し潰されるのを必死で耐えている悲しさと暗澹の表情だったのだ…。
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