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トリプルゲーム
トリプルゲーム5
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「野中、踊らないか?」
「え?」
唐突に放たれた乙の言葉は、瀾に困惑を誘った。
瀾は、少し俯くと口を開く。
「あの…でも、私…」
「俺が相手じゃ、迷惑か?」
「そんな事…!!」
「輝李が来るまでの間でいい…」
「でも、私…ダンスなんて…」
「この間は踊れただろ?
大丈夫、踊れるよ」
優しく微笑む乙の眼差しに、瀾はその手をとらずには居られなかった。
曲の節目が来ると、ダンスホールで踊る二人の姿は、やはり視線を集めた。
他生徒からは無名に近い瀾が、乙とパートナーを組み踊る姿に小さなざわめきすら起こっている。
「…あの、先輩…」
「気にするな、俺を見て…」
「は、はい…」
ダンスを躍りながら、瀾の脳裏には不思議な感覚が走った。
先日ではない夜の…何処かで見たような瞳。
二人の体が離れ、クルリと瀾の体が回った時だった。
綺麗にダンスの波に乗り、スルリと体を預けると目の前には、大きな瞳に中性的な顔、栗色の髪の王子がいる。
「え…」
瀾は目の前の人物に驚き、後ろを振り向くと、そこには先程まで手を取り合っていたクールな瞳と目が合う。
目の前に居たのは他でもない輝李だった。
「クス、捕まえた。
今度は僕と踊ろう♪」
スッポリと腕の中に入ったプリンセスにニッコリと微笑むと輝李は乙と目を合わせた。
表情を変えずとも解る。
それは友好的な眼差しではなかった。
乙もトンビに油揚げを拐われたようなタイミングにお互いのプライドに火を付けたらしい。
ダンスが再開されると、瀾は輝李のエスコートに華麗に舞う。
相手を気遣うものは変わらなくとも乙のスマートさとは少し違う、優しいエスコート。
ダンスの最中にパートナーを拐われる事はブライドの高い乙にとって、この上ない屈辱だった。
さすがは乙の双子の妹だ。
姉の性格を知りつくし、冷静な乙を確実に逆撫でする方法を知っている。
瀾と躍りながらも時折見せる輝李の挑発的な視線は、宿命のカウントダウンだった。
瀾が華麗に踊る中、またクルリと回ると彼女は再び驚く事になる。
「え…」
「野中、お帰り…♪」
そう、瀾のパートナーは再び乙に変わっていたからだ。
後ろを見ると、今度は輝李と目が合う。
腰に片腕を置き、目を細め乙に不機嫌そうに視線を投げている。
乙を見上げると、輝李に向けるその視線も明らかに威嚇的だった。
いくら鈍感な瀾とはいえ、輝李と乙の互いの間に火花が散るのが見えるようだった。
瀾のダンスのパートナーは、その後も交互に目まぐるしく変わっていく。
乙…輝李…乙…再び輝李と。
それは慌ただしく余裕のないものではなく、スムーズに隙のない入れ替わり。
それはまるで一人と踊っているような、双子だからこそできる二対一体の動きだった。
勿論、このバトルに周りが注目しないわけがない。
三人の踊るスペースは広く空き、パーティー全員の視線を集めた。
やがて曲が終わると瀾の背中には、乙と輝李の腕がプリンセスを支え、二人の眼差しが向けられた。
それはまるで絵に描いたような夢のような光景だった。
ホールには拍手と歓声すら上がっていた。
「こりゃ…嵐が来そうだな」
遠くから見ていた神流がポツリと呟く。
そのまた少し遠い距離で、一人の少女がホールを出ていく姿を神流は、チラリと視界に入れた。
「…本当の嵐はこれからかもな…
嵐だけで済めば良いけど…」
神流は心配そうに目を伏せ、溜め息ついたのだった。
「え?」
唐突に放たれた乙の言葉は、瀾に困惑を誘った。
瀾は、少し俯くと口を開く。
「あの…でも、私…」
「俺が相手じゃ、迷惑か?」
「そんな事…!!」
「輝李が来るまでの間でいい…」
「でも、私…ダンスなんて…」
「この間は踊れただろ?
大丈夫、踊れるよ」
優しく微笑む乙の眼差しに、瀾はその手をとらずには居られなかった。
曲の節目が来ると、ダンスホールで踊る二人の姿は、やはり視線を集めた。
他生徒からは無名に近い瀾が、乙とパートナーを組み踊る姿に小さなざわめきすら起こっている。
「…あの、先輩…」
「気にするな、俺を見て…」
「は、はい…」
ダンスを躍りながら、瀾の脳裏には不思議な感覚が走った。
先日ではない夜の…何処かで見たような瞳。
二人の体が離れ、クルリと瀾の体が回った時だった。
綺麗にダンスの波に乗り、スルリと体を預けると目の前には、大きな瞳に中性的な顔、栗色の髪の王子がいる。
「え…」
瀾は目の前の人物に驚き、後ろを振り向くと、そこには先程まで手を取り合っていたクールな瞳と目が合う。
目の前に居たのは他でもない輝李だった。
「クス、捕まえた。
今度は僕と踊ろう♪」
スッポリと腕の中に入ったプリンセスにニッコリと微笑むと輝李は乙と目を合わせた。
表情を変えずとも解る。
それは友好的な眼差しではなかった。
乙もトンビに油揚げを拐われたようなタイミングにお互いのプライドに火を付けたらしい。
ダンスが再開されると、瀾は輝李のエスコートに華麗に舞う。
相手を気遣うものは変わらなくとも乙のスマートさとは少し違う、優しいエスコート。
ダンスの最中にパートナーを拐われる事はブライドの高い乙にとって、この上ない屈辱だった。
さすがは乙の双子の妹だ。
姉の性格を知りつくし、冷静な乙を確実に逆撫でする方法を知っている。
瀾と躍りながらも時折見せる輝李の挑発的な視線は、宿命のカウントダウンだった。
瀾が華麗に踊る中、またクルリと回ると彼女は再び驚く事になる。
「え…」
「野中、お帰り…♪」
そう、瀾のパートナーは再び乙に変わっていたからだ。
後ろを見ると、今度は輝李と目が合う。
腰に片腕を置き、目を細め乙に不機嫌そうに視線を投げている。
乙を見上げると、輝李に向けるその視線も明らかに威嚇的だった。
いくら鈍感な瀾とはいえ、輝李と乙の互いの間に火花が散るのが見えるようだった。
瀾のダンスのパートナーは、その後も交互に目まぐるしく変わっていく。
乙…輝李…乙…再び輝李と。
それは慌ただしく余裕のないものではなく、スムーズに隙のない入れ替わり。
それはまるで一人と踊っているような、双子だからこそできる二対一体の動きだった。
勿論、このバトルに周りが注目しないわけがない。
三人の踊るスペースは広く空き、パーティー全員の視線を集めた。
やがて曲が終わると瀾の背中には、乙と輝李の腕がプリンセスを支え、二人の眼差しが向けられた。
それはまるで絵に描いたような夢のような光景だった。
ホールには拍手と歓声すら上がっていた。
「こりゃ…嵐が来そうだな」
遠くから見ていた神流がポツリと呟く。
そのまた少し遠い距離で、一人の少女がホールを出ていく姿を神流は、チラリと視界に入れた。
「…本当の嵐はこれからかもな…
嵐だけで済めば良いけど…」
神流は心配そうに目を伏せ、溜め息ついたのだった。
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