【R18】アールグレイの昼下がり ー双子の姉・乙編ー

REFRAIN

REFRAIN6

その夜、乙は昼間居た甲板添いの廊下にたたずんみ、シャンパンを飲んでいた。

船は海の真ん中に留まっている。
今頃、瀾はどうして居るだろうか…。
小さなため息が静かな水面に溶けていく。

そんな時…小さな足音が向こう側から近付いていた。

｢…あ…｣
｢ｯ!!!｣

少女の小さな声に廊下に目を向けると、そこには今さっきまで頭を掠めていた瀾が居た。

｢野中…｣

この間の輝李の言葉が響いた。
フッと瀾から視線をそらすと、瀾はその気まずい雰囲気に少し話にくそうに口を開く。

｢…せ、先輩も…来ていたん…ですね…｣
｢…ああ…｣


瀾の声は、か細く不安とぎこちなさが肌に伝わってくる。

｢…こんな時間にどうしたんだ？
１人で…来たわけじゃないんだろ…
…輝李が一緒じゃないのか…｣
｢…はい…一緒には来ました…｣

急にうつむく瀾に乙の胸はチクリと痛んだ。
去年までは、あんなに笑顔で話せていたと言うのに…
今の二人は…

瀾から目を反らす乙と、ぎこちない雰囲気に恐縮して俯く瀾。

この間、寮の廊下で見た時とは違う。
しっかりと光の通った瀾の瞳は、あの時とは別人であることを物語る。

｢…部屋に戻らないのか？
俺と話していても楽しくはないだろう。
…こんな時間に徘徊していても風邪をひくだけだ。
早く戻ったほうが良い…｣

瀾と目を合わせる事も出来ず、こんな冷たい事しか言えない自分を乙は悔やんだ。
そんな乙に瀾は俯きながら小さく口を開く。


｢あの…私…お部屋には戻れなくて…｣
｢……｣
｢輝李さんのお部屋、鍵が締まっていて…
部屋には居るとは思うんですけど…｣

瀾の言葉は乙に深いため息を誘う。

『あいつ…』


｢…すみません…｣

瀾のか細い声に乙は、黙ってシャンパングラスを差し出した。

｢…飲んでみるか？｣
｢…でも私、未成年だし…お酒なんて…｣
｢俺も未成年だ。
…身体が冷えるだろ…
誰も見てはいないし、少しずつ口に含めばいい。
それに今回のパーティーでも振る舞われる物だから大丈夫だ…｣


乙が飲んでいたのは、cafe･do･parisというフルーツシャンパンだった。
ルビー色の鮮やかなチェリーの香りが漂う、以前、瀾と一緒に飲んだものだった。

その度に乙の胸は良い知れぬ痛みと罪悪感でいっぱいになる。


｢綺麗な色ですね…｣
｢ああ…｣