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黄昏の古時計

黄昏の古時計2

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きのとが廊下を歩き、学院のキャンパスへと出ようとした時だった。
ポフンと後ろから抱き止められる。

「お姉様!!やっと捕まえた!!」
「……」

ちらりと見ると、あの乙の携帯を奪い取った女生徒の早希さきという少女だった。

乙の取り巻きにも物怖じせず、絶えず乙の後を追い掛けては、子猫のようにまとわりついてくる。
早希は、少しプゥと膨れると、乙に不貞腐れながら上目遣いを送る。

「お姉様、歩くの早いですぅ!!
私の声にも気付かずスタスタ歩いていくんだもん。
シカトされてるのかと思いましたぁ!!」
「……。何か用か?」
「お昼一緒に食べましょ」
「…いらない」
「駄目ですぅ!!久し振りにお姉様に会ったのにぃ!!」
「はぁ…」
「……何か…あったんですか…?」

早希は急に静かに乙に聞いた。

「え…?何でそう思うんだ」
「お姉様…さっきから何だか少し怖い顔してらっしゃいます。
だから何か嫌な事があったのかなって…」

早希さきは少し寂しそうに笑った。
気持ちを切り替えたのか、きのとの手を取るとグイグイと引っ張って歩いていく。

「お、おい!!」
「お腹が空いてると元気出ませんよ!!」

ベンチに座ると、お弁当を広げサンドイッチを乙に手渡した。

「はい、お姉様」
「……」

乙は渋々サンドイッチを受け取ると口に運ぶ。
乙が食べるのを確認すると、自分もサンドイッチを食べ始めた。
しばらく沈黙が続いたが、ふいに乙が静かに口を開く。

「早希は何で毎日毎日、懲りもせずに俺の後をまとわりついてくるんだ…?」
「……。それは…私、お姉様の事が好きだから…」
「学院の中の俺しか知らないのに、何で好きになれるんだよ…」
「……」

冷たく放った乙の言葉に早希は思わず俯いた。
─―泣いた。
乙は横目でちらりと早希を見るとそう思いながらに空を仰いだ。
すると、早希の口から静かに言葉が放たれた。

「…お姉様は覚えてらっしゃらないかもしれないけど、私、お姉様に助けていただいたことがあるんです…」
「助けた?俺が?」
「…はい…」



──それは、きのとが編入したその日だった。
買い物に街に出ると・・・

「あの…困ります!!」
「別に良いじゃん。ちょっとくらい協力してくれたってさ。
君の学院、可愛い子沢山いるって聞くしさ。
ちょっとお友達紹介してほしいだけだしさ」
「……」
「あれ?俯いちゃった。
もしかしてお友達居ないのかなぁ?ははは…」

そこには数人の男子学生に囲まれた少女がいた。
眼鏡をかけた内気そうな子だった。

「おい、昼間っからナンパか?
それにしちゃあ、随分品のない誘い方だな」
「!!」

乙の言葉に一斉にこっちを向く。
男子学生の一人が乙に食って掛かった。

「何だ、お前!!」
「女性の誘い方もろくに出来ないとは、名家の集まる名門と言われてもお前達の学校は金だけの馬鹿しか居ないらしいな?」
「何だと!!」
「下品だって言ってるんだよ。
その大事な名前に傷が付くぞ?お坊ちゃま」
「この野郎!!」

男子学生はカッとなり殴りかかって来たが、乙はスルリと避けると相手の力を利用して投げ飛ばした。
すると、一人の仲間が口を開く。

「思い出した!!こいつ、月影つきかげ きのとだぜ!!」
「何だって!!あの大財閥の月影!!
でも、奴は海外に行ってたんじゃないのかよ!!」
「ちっ!!これは相手が悪い!!
行こうぜ!!」

男子学生達はそそくさと、その場を立ち去った。
乙は、少女に手を差し伸べる。

「大丈夫か?」
「は、はい…」
「送ってやるよ。また同じ目にあわないとも限らないだろ」
「で、でも…」
「安心しろ。とって喰ったりしないよ。
俺もアンタと同じ学院だ。
方向も一緒だろ?乗ってけよ」
「は、はい…」

少女をバイクの後ろに乗せると、自分のヘルメットを被せ走りだした。
寮の東棟の入り口まで送り、少女をおろす。

「あの…ありがとうございました…」
「今度からは気を付けろよ。
言いたい事はもっとハッキリ言わなきゃ、相手には伝わらない」
「はい…」

少女がシュンと俯く。

「…それと、眼鏡は外したほうが可愛いぞ」
「!!!」
「じゃあな」

それだけ言うとその場を後にした。

「…月影つきかげきのと…///」

立ち去る乙を少女は、いつまでも見つめていた…───
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