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黄昏の古時計

黄昏の古時計1

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瀾を今井に託したあの日、きのとは屋敷に泊まることなく学園の寮に戻った。

あれから数日間、乙が寮の部屋を出る事はなかった。
あくる日、学園に行くと乙の取り巻き達は乙に駆け寄ってくる。

「乙様!!どうなさったんですか?
しばらくお休みなさっていたとか。
お体のお加減でも優れなかったのですか?」
「ご心配しておりましたわ。
言ってくだされば、わたくし達お伺い致しましたのに…」

さすがはお嬢様学院。
言葉遣いは丁寧だがやっている事は、その辺の女子高生と大差ない。
いつもと何ら変わらない取り巻きにうざったく思ったが、顔色を変えることなく乙は答えた。

「…別に。私用があっただけだ。
急いでいるんでな、悪いが失礼する」

何食わぬ顔をして取り巻き達を通り抜けて学園内に消えていった。

教室に入り席に着くと、きのとを見つけた同級生の木田 きだ神流かんなが話かけてきた。

「よぅ、随分と長く休んでたんだな。サボりか?」
「……私用だ」
「なぁ、そんなことよりさ、知ってるか?
別クラスに編入生が入ったらしいぜ」
「…そうか」
「何でも猫系フェイスの小悪魔系で同学年らしい」
「…ふーん」

窓の外を見ながら乙は気のない返事を返すと神流は面白くなさそうに言葉を発した。

「何だよ、乙。どんな子か気にならないのか?」
「…別に」
「冷たい奴だなぁ、なぁ!!後で見に行かないか?」
「行きたきゃ一人で行けば良いだろ?」
「付き合ってくれたって良いだろう?
ほら、私一人で歩くとファンの子に囲まれちゃうしさ。
王子様は1人より2人の方がお姫様も喜ぶだろ?
今度、飯おごるからさ」

乙はため息を付くと渋々、神流の要望に了解した。



昼休みになると神流__かんな__#ときのとは、既に学院中の噂になっていた編入生を見物するため廊下を歩いていた。

2人の王子的な存在が肩を並べて歩く姿は壮観で、廊下には女生徒のため息にも似た騒めきすら起っていた。
笑顔でファンサービスを怠らない神流に対し、乙はまわりに応えることなくクールに歩いている。
乙は神流に対し呆れながらも口を開く。

「よく、そんなに無駄に愛想を振りまけるな」
「何言ってんだよ、ファンは大切にしなくちゃね♪
乙もたまには、私を見習って笑顔の一つでも見せてやったらどうだ?」
「…嫌だ」
「まぁ、乙の場合は、そのムスッとした顔が人気なんだろうけど。
『クールで素敵❤』的な」
「……」

二人が歩く先は自然と道が開けられていく。
そして目を潤ませた少女達の視線が降り注いでは、二人の姿を追っていった。

噂の編入生の教室の近くまでくると丁度、クラスメイトと楽しそうに出てきた。
神流が思わず嬉しそうに口を開く。

「おい、あの子じゃないか?確かに可愛いな、…あれ?」

同意を求めようと神流が横を見ると乙はおらず、振り返ると既に来た方向に歩いていた。

「お、おい、乙!!見ていかないのかよ!!」

神流の声に振り返る事なく手をヒラヒラと振ると、そのまま立ち去っていった。
わけも解らず神流は息をついた。

「…なんだよ」
「あら、神流さん///」
「やぁ」

此方に気が付いた編入生と一緒にいた女生徒が、神流に話掛けてきた。

「どうなさったんですか?」
「編入生が入ったって聞いてね」
「ああ。此方の方ですわ」

女生徒が編入生を紹介する。
編入生はにっこりと笑顔を見せた。
クラスメイトが神流に口を開く。

「お一人ですの?」
「いや…、さっきまで乙が一緒に居たんだけど、君達に挨拶する前に急に戻っちゃってさ」
「まぁ、残念ですわね」

神流は編入生に目を向け、

「そう言えば、君の名前…」

編入生はまた、にっこりと笑顔を返した。

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