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五章

三百十二話 馬車を買おうⅠ

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「お、オイオイ、相方ってお前……」
「あら貴方、なかなか面白い眼を持ってますわね」

 翌日、待ち合わせ場所で合流した途端ランドがイブリスを見て引いていた。
 何でだ?

「アンタ、もしかしてイブリスのことを知っているのか?」
「いや、完全に初対面だ。噂に聞いたこともねぇな。そもそも人と同じサイズの精霊なんて昔話でしか聞いたことねぇ」

 まぁ、そうだよな。そもそもイブリスが居たのは別の大陸の、しかも孤島だったから、面識なんて有るはずがない。

「だとしたら何をそんな引きつってるんだ?」
「何でってそりゃお前、こんなとんでもない精霊を連れてるとか……」
「彼は少々特殊な目を持っているようですわね。それで私の力を見抜いてしまったのでしょう」
「あ~……なるほど」

 特殊な眼……相手のレベルとかを見抜くことが出来るとかか? 異世界転生者の主人公が大抵手に入れるお馴染みの鑑定とかかね?
 まだ自己紹介もしてないのに、ヒトとして振る舞っているイブリスをひと目で精霊だと見抜いたってことはハッタリじゃないな。
 イブリスが普段隠してる実力まで見抜いてたとしたら、あの反応も頷ける。
 ぶっちゃけ俺とは比較にならんくらいレベルが高いだろうからな。

「そもそも、どうやってそんな強力な精霊と契約まで持っていったんだ? こう言っちゃ悪いがお前さん、どう見ても実力に釣り合いが取れてるように見えねぇぞ?」
「本人前にして随分はっきりと言うじゃねぇか……いやまぁ、釣り合いが取れてないのは事実だが」

 負けたと言っていたが、あのシアの全盛期と渡り合うほどの実力だとすれば、秘めている力は凄まじいもののはずだ。時折見せるその力の片鱗だけでも、どう考えても俺よりも遥かに強い。
 なのに未だにイブリスが俺の何に惹かれたのか、誓約した俺自身が未だにはっきりとは理解できていないからな。
 どうやってと聞かれても正直答えようがない。

「そこは、別に実力で選んだわけではありませんもの。精霊が人を選ぶ理由は千差万別。私は主として選ぶ相手に強さを求めている訳ではないと言うだけの話ですわ」
「そうなのか? 精霊との契約は必ず『試し』があるって聞いてるが」
「ええ、そうですわね。己が力を貸す相手を見定めるのは大事ですもの。そもそも、強さを求めて精霊契約を行うようなヒトが私を強さで従えられると思いますの?」

 そう言われてみると確かにそうだな。
 イブリスを力で従えようとするならイブリスを超える力が必要になる……だなんて条件だと、色々破綻してしまう。一時期ネトゲでネタで言われていた『○○の討伐条件は〇〇の素材を使った装備が必須』みたいな、条件満たすの無理ゲーの香りがする。

「あー……確かに、アンタに勝てるようなやつがそうそう居るとは思えなねぇな」
「でしょうね。私、中々に長い時を生きてますが、直接出会った中でという条件付きですが、一対一で私が明確に勝てないと感じたのは、それこそ指折り数えられる程度ですもの」
「……むしろ、それだけアンタよりも強い奴が居るということに驚きを禁じえないんだがな。一体どんな化け物なんだ?」
「内2人は人間ですわよ?」
「マジかよ……!?」

 多分その中のひとりはシアなんだろうなぁ。人間じゃないっぽいけど。
 俺たちをこっちに飛ばしたあの男も、その中のひとりに入ってるんだろうか?

「大体、別に敵対するわけでもないのですし、そんな事気にする必要はないでしょう?」
「いや、まぁ、ソレは確かにそうなのかもしれんが……」
「無駄なことに時間を使っていられるほど我々は暇ではありませんので。さっさと馬と馬車を買い付けたほうが良いのではなくて?」
「わ、わかった」

 なんか、早くも格付けが済んだような気がするな……まぁ、イブリスって言葉遣いは丁寧だけど、何気に柔らかさはまったくないし結構威圧感あるからな……その上で実力を正しくう把握できちまうと強気には出られないわなぁ。

「それで、こちらを巻き込むと言うことは購入する店等の目処はもう立っていると思って宜しくて?」
「あぁ、そこはな。俺だって購入予定の物の値段も調べずに折半なんて話は持ちかけやしねぇよ」
「そりゃそうか。話を持ちかけておいていざ購入って段階で言い出しっぺが金が足りないとか、流石に間抜けすぎるしな」
「傭兵なんてメンツを看板に飯を食ってる稼業だ。自分の株を落とすような真似はそうそうしねぇさ。こっちだ。店は街の大門のすぐ傍にあるからよ」

 そういって先導するランドの跡を大人しくついていく。
 ヤクザ映画とかでもそうだが、武闘派の連中はメンツってのをとにかく重要視しがちに感じる。特に同業相手にはかなり敏感になっているイメージが有るし実際そうなんだろうな。
 仕事の完遂率とか、実力評価に直結する部分は特に。
 そういう意味では金に関わる内容では多少信頼できるか。この傭兵がイブリスの力を見抜いて尚、俺たちをハメようとしているのではない限り。

「まぁ、初対面の俺を警戒するのは仕方ねぇ。というよりもそうでないと困る。俺がどれだけ警戒した所で、同行者が簡単に騙されるようなやつでは俺も安心できねぇからな」
「騙されたとしても私としては大して問題はありませんけど。先にこちらを害してくるような輩であれば全てを奪い去ってもあるじ様の良心は痛まないでしょうから、私としては良いカモですわ」
「実際、アンタならそうかもしれんな……」
「いや、俺も流石に野盗や盗賊に情けをかけるほどの優しさは持ち合わせてないぞ……」

 奪おうとするんだから、奪われるリスクくらいは負ってもらう。小銭程度なら衛兵に突き出す程度で済ますかもしれんが、武器を抜いたのならそれは命の奪い合いだ。死んでも文句は受け付ける気はない。
 たとえNPCのAIが人間と同等の思考をするのであっても、そこで容赦する気は一切ない。というか中に本物の人が入っていようがそこは譲る気はないしな。死にたくねぇし。

「そもそも、何でそれだけの精霊と契約しておいて、二人旅なんだ? たとえアンタが運営に注力したとしても、その力を示せば人なんてすぐに集まるだろうに」
「旅の金策に傭兵登録したほうが便利だからってだけで、別に傭兵団を運営する気なんて特に無いからな。武者修行の旅をするって約束してる仲間も待ってるだろうし、さっさと帰りたいだけなんだよ」
「なるほどねぇ。それだけの戦力を抱えてるのに勿体ねぇ」
「別に傭兵以外でもいろいろ役に立つだろ。イブリスの力なら」
「そりゃ、それだけの能力だから、やろうと思えば何でも出来るんだろうが」

 何でもは言い過ぎだと思うが、実際イブリスは力も知識も豊富なんだよなぁ。
 小さな会社とかなら余裕で経営できるんじゃなかろうか。

「所で、アンタのその眼では能力ってのはどういう風に見えてるんだ?」
「漠然とだが、相手の纏う空気というか、そういうのが色で見分けられるんだ。自分よりも弱い相手は無色、同じくらいなら白く靄がかったり、自分よりも強そうな相手は黄色がかって……といった感じでな」
「なる程、色で見分けるのか……というかあっさりバラしたな。良いのか? そういうのは秘密にしておいたほうが良いんじゃ?」
「そっちの姉さんにはとっくにバレてるし、見えるということがバレてる以上、どう見えるかってのは大した問題じゃないからな。知られても対策の取りようもないし」

 確かに。相手の強さが色で見えますとか言われても、対策方法なんてまるで思いつかん。
 しかし数値でパラメータが見えたりするわけじゃあないのか。 正確に相手の力量を見分けられるとしたらかなりの強スキルだと思ったんだが、そこまで便利なわけじゃないらしい。

「で、俺とイブリスはアンタからはどう見えてるんだ?」
「そうだな……まぁ、隠すことでもないし言っちまうが、お前は無色だな」

 無色……と言うことは、ランドの戦闘力は俺よりも高いという事か。口数は多いし、チャラそうな印象の割に立ち居振る舞いから中々にやりそうだとは思ったが、思っていた以上の腕前らしい。

「で、そっちの姉さんだが……呆れるほど真っ赤だな。ここまでヤバそうな色の奴は今まで見たこともない。戦場で出会った界隈で名の通った傭兵でもこんな物騒な色はしていなかった。それを無色のお前が従えてるんだ。驚きもするさ」

 数値化されてるわけではなくても、ひと目見て解るほど明らかにヤバい色で見えていたから、イブリスの強さを正しく理解できていたのか。
 以前やったゲームにはモンスターとかの名前がレベル差で色が変わったりするのがあったが、それに近いイメージで見えてるんかな? たしかそのゲームでも自分よりもレベルが高すぎるモンスターやボスの名前は真っ赤だった気がする。まぁランドが見えてるのは空気って言ってたし、ネームプレートが見えてるわけでもないだろうから実際にはオーラ的なものが見えてるのかもしれんが、まぁ強さの見分け方はそんな感じでしてるんだろう。
 で、そんな真っ赤な精霊を、なぜか無色の、しかも実力を隠してるわけでもない駆け出し傭兵が連れていると。そりゃ気にもなるか。

「……っと、着いたぞ。ここがその店だ」

 話している間に目的の店についていたらしい。
 なる程、確かに大門の直ぐ傍だ。傍というか隣だが。
 馬車のような交通手段の売り場所としては確かにここが適切か。
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