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五章
三百十一話 やっぱり欲しいものは欲しい
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「で」
宿が取れたということで、イブリスからの念話で合流してみれば……
「何で連れ込み宿……?」
「ここが一番安くて個室を確保できたからですわね」
確かに安くて個室なら良いって言ったけど、ここは宿泊用というよりは『ご休憩用』だろう……。
いや、使ったこと無いから詳しくは知らんけどさ。
というか、さすが安宿なだけあって、お隣の部屋で行われている超近接戦の声がこっちまで筒抜けなんだが、こんな状況で寝るだけの図太さは流石にねぇぞ?
「あるじ様、私は波の精霊ですよ?」
そういってイブリスが指を鳴らした途端、騒音が嘘のように消えて、メチャクチャ静かになった。
「まぁ、そうだろうと思ったけど音も波として制御できるか」
「当然ですわね」
音波なんて言葉もあるくらい、音が空気中の振幅差で起こってるのは有名だしな。
まぁ、これだけ静かなら睡眠不足で悩まされるような事はないか。
「外からは勿論、内側からの声も外に漏れることはないので盗聴を気にする心配もありませんわ」
「それは助かるな」
「窓と扉も衝撃に対して補強しておきましたから、強引に破られる心配も……まぁ無いと思いますわ。鍵を破られるような真似をされると流石に対応できませんが」
「いや、十分だろ。ここまでセキュリティしっかりしてる宿なんてそうそう無いぞ」
というか、普通に錠前破りで扉を普通に開けられるとイブリスの能力じゃ止めることができないのか。まぁ、波とは関係なく普通に押し開けてるだけだし、そりゃそうか。
まぁ、チェーンロックなんて物はあるはず無いし、念の為というなら普通にミアリギスをつっかえ棒にしておけば良いか。
「それで、結局馬車の購入に考えが揺れていると?」
「流石、言わなくても事情は把握してるか」
「私達の仲ですから。」
まぁ、あたまン中丸見えなんだから、ちょっと前にあったことなんてわざわざ伝えなくても筒抜けだわな。
「で、買うんですの?」
「馬車での旅で心揺れてる時に、アレだけ売り込まれたら流石になぁ。それでも俺達だけなら買わない方に傾いたかもしれんが、折半での共同購入となると、結構現実的な値段になると思うんだわ。だから、この街の馬車と馬の値段次第では買っていいと思った」
「それだけ考えた上の決定なら良いのではないかと思いますわ。元々私としてはどちらでも良かったですし、主様がそう決めたのならそれで宜しいのではないかと」
「わかった。、じゃあ予定通り明日は馬車を売ってるところを探してみよう」
正直、自分でも意思が軽いかなと思うところもあるが、便利だと思い直したのに頑なにそれを認めずに居るのもまたなんか違うとは思うんだよなぁ。
そういう方便も、色々弁えた上で使わないと本気で優柔不断になりそうで良くないが。
「馬の件は理解しましたわ。それで、武器のほうなんですが」
「あぁ、まさかコイツが魔剣だったとはねぇ」
「正直驚きですわね。私でもそれと気づきませんでしたわ。魔剣を魔剣たらしめているものをその武器は備えておりませんもの」
「攻撃術式ってやつか」
「いえ、術式を刻むような量産品は魔剣だなどと言いませんわ。精々『モドキ』といったところでしょうか。元来魔剣と呼ばれるものはコアを備えた、ソレ単体で特定の機能を半永久的に発揮する武装のことを言います。あの魔具職人の言う物とは根本的に違うものですわ」
コア? 魔法的な動力を備えてるってことか。
わざわざ差別化するってことは、術式を刻むっていうモドキとコアというのは別物と言いたいんだろうけど、イマイチ違いが分からんな。
「あるじ様の知識的に言うと、魔剣は自動車、あの魔具職人のいう魔剣モドキは自転車で普通の剣は乳母車といった所ですわね」
「エンジン搭載のハイパワー武器って事か」
「刻まれた術式に力を流す事で無理やり効果を発動させるモドキと違い、元来の魔剣は外的な干渉なしに力を生み出すコアを中心として武器という『ガワ』が組まれている武装ですわ。武器の種類としては完全に別物と思って頂いて良いですわ」
まぁ自動車と自転車じゃ同じ乗り物でも全く別カテゴリだわな。人力とエンジンじゃパワーも比べ物にならない。
わざわざ俺の記憶からソレを選んで例に出すってことは、モドキと魔剣とではソレくらい隔絶した性能差があるってことか。
「あれ、でもミアリギスにはコアがないんだろう? なら魔剣じゃなくてモドキなんじゃないのか?」
「いえ、間違いなく魔剣の類ですわ。ただ、あの魔具職人の言うように機能が死んでいるようですわね。コアに火が入ってないのか、あるいはコア自体が脱落しているのか……流石に武器の知識は持ち合わせておりませんので、確かめようがないですが、構造は魔剣のソレです」
「もしかしてコレ、実は凄い武器だったりする?」
「うーん、何とも言えませんわね。コアの性能がわからないと何とも……ただ、どんな提出力のコアであってもそれに耐えうる魔剣の構造はその複雑さとは裏腹にモドキとは比較にならない強度を誇りますわ。その一点においてのみでもモドキとは比べ物にならない性能とは言えますわね。火を出したりといった派手な芸は出来ませんが」
ありゃ、魔剣だからとすごい性能だとは限らないのか。いやまぁイブリスの言う通り、不壊の特性は俺にとっては超絶有能だとは思っているんだけど。
「やっぱり、コイツは頑丈な普通の武器ってところに落ち着くのか」
「設計段階でどれだけ強力な武装であろうと、機能が発揮できていなければただの鈍器ですわ」
身も蓋もねぇな。
まぁ、その通りではあるんだがな。エンジンが動かないんじゃ如何にすごい車でも、ただの鉄塊だ。
「ま、素人整備でも壊す心配が一切ないってのが判っただけでも俺にとっては十分だったけどな。元々性能に不満はなかったし、金がかからないのが判ったのは素直に嬉しい誤算だった」
「確かに財布に優しく手間いらずというのは旅の身空ではありがたい話ですわね」
そりゃ、パッと思いつくような魔剣的な効果も実は付いていたとかだったらもっと嬉しくはあったけど、そういうのを期待して選んだ武器じゃねぇからな。
「あと、私からも一つ報告が」
「うん?」
「例の管理者を名乗る者から渡された『箱庭』ですが、概ね機能の把握が終わりましたわ」
宿をとった後何をしていたのかと思ったら、アイテムの機能を探っていたのか。
「確か避難所として使うアイテムだっけか」
「そういう意図で渡してきたのでしょうけど、このアイテムは中々に凄い代物ですわよ?」
「凄い……? 避難所が?」
避難所をどうすると凄いことになるんだろうか?
メチャクチャ豪華だったりとか?
「家を作ったりして楽しむ空間と言う話でしたが、ちょっとした都市くらいならすっぽり入りかねない程の広さがありますわ。元々個人で使うエリアでは無さそうですわね」
「……となると、個人用のハウジングエリアというよりも、ギルドだとかクラン向けの大人数用のインスタンスなのかも知れないな」
あるいは、一つのエリアに自由に家を建てることが出来る小さな土地がたくさんある、住宅街型のハウジングエリアなのかも知れない。
いずれにしろかなりの広範囲だ。街一つ分のハウジングエリアとか、3DベースのMMOでも中々聞かないぞ。
「土地の所有者はあるじ様に設定されているので、実質広大な土地をまるごともらった事になりますわ」
「それは、確かに美味しい話なのかも知れないが、突然土地をもらってもその運用方法がなぁ」
こぢんまりとした家を立てて、近くに畑を作るくらいしか思いつかん。
……あ、そういえばせっかく覚えた建築スキルでハイナに戻ったら本格的に家を立てようとか思ってたけど、暫くハイなに戻る予定はなくなったし、どうせなら箱庭の中で自作の家を作るのも悪くないな。
「あるじ様が起動させた後、取り残された発動体を私が回収することで何時でも自由に出入りできて、他社に邪魔されない休息エリアを手に入れたんですわよ? つまり箱庭に家を立ててしまえば野宿の必要がなくなりますわよ?」
「そりゃ、確かにすげぇな。絶対安全圏の確保か」
何時で何処でも安全な家に帰れるってのは確かにデカイな。
一度死んだら終わりのハードコア仕様……のつもりでプレイしてるこっちとしては、リスクを減らせるアイテムは攻撃力高い武器よりも遥かに有り難い。
「しかも発動の方法は、発動者の転送ではなく、発動体を起動させると短時間だけ門のように箱庭の入り口が開く方式でした」
「うん? スタンダードというか、別になにか特別感は感じないんだが」
「門タイプということは当人だけでなく、門の中に持ち込めるということですわよ? 例えば馬車のような物だとかも」
「それは今まさにピンポイントで欲しい機能だな……」
狙ってるんじゃないかってくらいにタイムリーだ。
「このアイテムの使用上、入り口として使った場所にしか出られないという制約があるので、逃げ込む為に使用した場合このアイテムの仕様を把握している相手から出待ちを仕掛けられる可能性もあります。が、発動体は私が回収するので本来の使い方よりは足が付きにくいですし、出待ちに関しては私の力で探ることも出来ますから対策はできますし、中では自給自足も可能ですから兵糧攻めの心配もありませんわ」
「それでも、封じ込められる危険だけは付きまとうのか」
「そこもあまり危険視する必要はないかと。出口を固めるにも相応の人員と資材や費用はかかりますもの。出待ちするという事はこのアイテムの中がどういう場所なのかは相手側も把握しているでしょうし、封じ込め続けるのは現実的ではないと理解しているでしょう。まぁ、監視くらいはされるでしょうけど」
なるほど、コストに見合わんと。
まぁそうなると監視は当然だろうし、脱出の邪魔はされにくいとなると確かにエスケープゾーンとしてはかなり有用だ。
「それに、どうやら拡張の余地もあるようですから、拠点としてはかなり有望ですわ。かなりの一品ですわよこのアイテム」
イブリスにここまで言わせるとは、本当に高性能なんだろうな。
さすが管理者所有のアイテムってことか。所謂アーティファクトだとかそういって激レアアイテムなんだろうな。
「……とまぁ、今日の成果確認と明日の行動指針はこんなものですわね」
おかしいな。ただ武器を整備するだけのはずが、随分といろいろあった一日になったな……
宿が取れたということで、イブリスからの念話で合流してみれば……
「何で連れ込み宿……?」
「ここが一番安くて個室を確保できたからですわね」
確かに安くて個室なら良いって言ったけど、ここは宿泊用というよりは『ご休憩用』だろう……。
いや、使ったこと無いから詳しくは知らんけどさ。
というか、さすが安宿なだけあって、お隣の部屋で行われている超近接戦の声がこっちまで筒抜けなんだが、こんな状況で寝るだけの図太さは流石にねぇぞ?
「あるじ様、私は波の精霊ですよ?」
そういってイブリスが指を鳴らした途端、騒音が嘘のように消えて、メチャクチャ静かになった。
「まぁ、そうだろうと思ったけど音も波として制御できるか」
「当然ですわね」
音波なんて言葉もあるくらい、音が空気中の振幅差で起こってるのは有名だしな。
まぁ、これだけ静かなら睡眠不足で悩まされるような事はないか。
「外からは勿論、内側からの声も外に漏れることはないので盗聴を気にする心配もありませんわ」
「それは助かるな」
「窓と扉も衝撃に対して補強しておきましたから、強引に破られる心配も……まぁ無いと思いますわ。鍵を破られるような真似をされると流石に対応できませんが」
「いや、十分だろ。ここまでセキュリティしっかりしてる宿なんてそうそう無いぞ」
というか、普通に錠前破りで扉を普通に開けられるとイブリスの能力じゃ止めることができないのか。まぁ、波とは関係なく普通に押し開けてるだけだし、そりゃそうか。
まぁ、チェーンロックなんて物はあるはず無いし、念の為というなら普通にミアリギスをつっかえ棒にしておけば良いか。
「それで、結局馬車の購入に考えが揺れていると?」
「流石、言わなくても事情は把握してるか」
「私達の仲ですから。」
まぁ、あたまン中丸見えなんだから、ちょっと前にあったことなんてわざわざ伝えなくても筒抜けだわな。
「で、買うんですの?」
「馬車での旅で心揺れてる時に、アレだけ売り込まれたら流石になぁ。それでも俺達だけなら買わない方に傾いたかもしれんが、折半での共同購入となると、結構現実的な値段になると思うんだわ。だから、この街の馬車と馬の値段次第では買っていいと思った」
「それだけ考えた上の決定なら良いのではないかと思いますわ。元々私としてはどちらでも良かったですし、主様がそう決めたのならそれで宜しいのではないかと」
「わかった。、じゃあ予定通り明日は馬車を売ってるところを探してみよう」
正直、自分でも意思が軽いかなと思うところもあるが、便利だと思い直したのに頑なにそれを認めずに居るのもまたなんか違うとは思うんだよなぁ。
そういう方便も、色々弁えた上で使わないと本気で優柔不断になりそうで良くないが。
「馬の件は理解しましたわ。それで、武器のほうなんですが」
「あぁ、まさかコイツが魔剣だったとはねぇ」
「正直驚きですわね。私でもそれと気づきませんでしたわ。魔剣を魔剣たらしめているものをその武器は備えておりませんもの」
「攻撃術式ってやつか」
「いえ、術式を刻むような量産品は魔剣だなどと言いませんわ。精々『モドキ』といったところでしょうか。元来魔剣と呼ばれるものはコアを備えた、ソレ単体で特定の機能を半永久的に発揮する武装のことを言います。あの魔具職人の言う物とは根本的に違うものですわ」
コア? 魔法的な動力を備えてるってことか。
わざわざ差別化するってことは、術式を刻むっていうモドキとコアというのは別物と言いたいんだろうけど、イマイチ違いが分からんな。
「あるじ様の知識的に言うと、魔剣は自動車、あの魔具職人のいう魔剣モドキは自転車で普通の剣は乳母車といった所ですわね」
「エンジン搭載のハイパワー武器って事か」
「刻まれた術式に力を流す事で無理やり効果を発動させるモドキと違い、元来の魔剣は外的な干渉なしに力を生み出すコアを中心として武器という『ガワ』が組まれている武装ですわ。武器の種類としては完全に別物と思って頂いて良いですわ」
まぁ自動車と自転車じゃ同じ乗り物でも全く別カテゴリだわな。人力とエンジンじゃパワーも比べ物にならない。
わざわざ俺の記憶からソレを選んで例に出すってことは、モドキと魔剣とではソレくらい隔絶した性能差があるってことか。
「あれ、でもミアリギスにはコアがないんだろう? なら魔剣じゃなくてモドキなんじゃないのか?」
「いえ、間違いなく魔剣の類ですわ。ただ、あの魔具職人の言うように機能が死んでいるようですわね。コアに火が入ってないのか、あるいはコア自体が脱落しているのか……流石に武器の知識は持ち合わせておりませんので、確かめようがないですが、構造は魔剣のソレです」
「もしかしてコレ、実は凄い武器だったりする?」
「うーん、何とも言えませんわね。コアの性能がわからないと何とも……ただ、どんな提出力のコアであってもそれに耐えうる魔剣の構造はその複雑さとは裏腹にモドキとは比較にならない強度を誇りますわ。その一点においてのみでもモドキとは比べ物にならない性能とは言えますわね。火を出したりといった派手な芸は出来ませんが」
ありゃ、魔剣だからとすごい性能だとは限らないのか。いやまぁイブリスの言う通り、不壊の特性は俺にとっては超絶有能だとは思っているんだけど。
「やっぱり、コイツは頑丈な普通の武器ってところに落ち着くのか」
「設計段階でどれだけ強力な武装であろうと、機能が発揮できていなければただの鈍器ですわ」
身も蓋もねぇな。
まぁ、その通りではあるんだがな。エンジンが動かないんじゃ如何にすごい車でも、ただの鉄塊だ。
「ま、素人整備でも壊す心配が一切ないってのが判っただけでも俺にとっては十分だったけどな。元々性能に不満はなかったし、金がかからないのが判ったのは素直に嬉しい誤算だった」
「確かに財布に優しく手間いらずというのは旅の身空ではありがたい話ですわね」
そりゃ、パッと思いつくような魔剣的な効果も実は付いていたとかだったらもっと嬉しくはあったけど、そういうのを期待して選んだ武器じゃねぇからな。
「あと、私からも一つ報告が」
「うん?」
「例の管理者を名乗る者から渡された『箱庭』ですが、概ね機能の把握が終わりましたわ」
宿をとった後何をしていたのかと思ったら、アイテムの機能を探っていたのか。
「確か避難所として使うアイテムだっけか」
「そういう意図で渡してきたのでしょうけど、このアイテムは中々に凄い代物ですわよ?」
「凄い……? 避難所が?」
避難所をどうすると凄いことになるんだろうか?
メチャクチャ豪華だったりとか?
「家を作ったりして楽しむ空間と言う話でしたが、ちょっとした都市くらいならすっぽり入りかねない程の広さがありますわ。元々個人で使うエリアでは無さそうですわね」
「……となると、個人用のハウジングエリアというよりも、ギルドだとかクラン向けの大人数用のインスタンスなのかも知れないな」
あるいは、一つのエリアに自由に家を建てることが出来る小さな土地がたくさんある、住宅街型のハウジングエリアなのかも知れない。
いずれにしろかなりの広範囲だ。街一つ分のハウジングエリアとか、3DベースのMMOでも中々聞かないぞ。
「土地の所有者はあるじ様に設定されているので、実質広大な土地をまるごともらった事になりますわ」
「それは、確かに美味しい話なのかも知れないが、突然土地をもらってもその運用方法がなぁ」
こぢんまりとした家を立てて、近くに畑を作るくらいしか思いつかん。
……あ、そういえばせっかく覚えた建築スキルでハイナに戻ったら本格的に家を立てようとか思ってたけど、暫くハイなに戻る予定はなくなったし、どうせなら箱庭の中で自作の家を作るのも悪くないな。
「あるじ様が起動させた後、取り残された発動体を私が回収することで何時でも自由に出入りできて、他社に邪魔されない休息エリアを手に入れたんですわよ? つまり箱庭に家を立ててしまえば野宿の必要がなくなりますわよ?」
「そりゃ、確かにすげぇな。絶対安全圏の確保か」
何時で何処でも安全な家に帰れるってのは確かにデカイな。
一度死んだら終わりのハードコア仕様……のつもりでプレイしてるこっちとしては、リスクを減らせるアイテムは攻撃力高い武器よりも遥かに有り難い。
「しかも発動の方法は、発動者の転送ではなく、発動体を起動させると短時間だけ門のように箱庭の入り口が開く方式でした」
「うん? スタンダードというか、別になにか特別感は感じないんだが」
「門タイプということは当人だけでなく、門の中に持ち込めるということですわよ? 例えば馬車のような物だとかも」
「それは今まさにピンポイントで欲しい機能だな……」
狙ってるんじゃないかってくらいにタイムリーだ。
「このアイテムの使用上、入り口として使った場所にしか出られないという制約があるので、逃げ込む為に使用した場合このアイテムの仕様を把握している相手から出待ちを仕掛けられる可能性もあります。が、発動体は私が回収するので本来の使い方よりは足が付きにくいですし、出待ちに関しては私の力で探ることも出来ますから対策はできますし、中では自給自足も可能ですから兵糧攻めの心配もありませんわ」
「それでも、封じ込められる危険だけは付きまとうのか」
「そこもあまり危険視する必要はないかと。出口を固めるにも相応の人員と資材や費用はかかりますもの。出待ちするという事はこのアイテムの中がどういう場所なのかは相手側も把握しているでしょうし、封じ込め続けるのは現実的ではないと理解しているでしょう。まぁ、監視くらいはされるでしょうけど」
なるほど、コストに見合わんと。
まぁそうなると監視は当然だろうし、脱出の邪魔はされにくいとなると確かにエスケープゾーンとしてはかなり有用だ。
「それに、どうやら拡張の余地もあるようですから、拠点としてはかなり有望ですわ。かなりの一品ですわよこのアイテム」
イブリスにここまで言わせるとは、本当に高性能なんだろうな。
さすが管理者所有のアイテムってことか。所謂アーティファクトだとかそういって激レアアイテムなんだろうな。
「……とまぁ、今日の成果確認と明日の行動指針はこんなものですわね」
おかしいな。ただ武器を整備するだけのはずが、随分といろいろあった一日になったな……
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