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四章

二百五十話 シアの思案Ⅰ

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「それで? 役目を終えたらさっさとこの街は後にするという話だったのに、どういう事情で心変わりしたんだ?」

 幸い、大した苦労もなく宿の大部屋を確保できたので皆集まって、今回の事の次第を確認することに。
 ちなみに、エレク達はこの街までの護衛兼、足役としての同行で、その代金代わりにシアが修行をつけるという話だった筈だがシアがまとめて部屋を取っていた。
 一応巻き込んでしまうことになるために、その間の面倒は見るという話のようだ。
 まぁ、本人たちはほっといてもついてくるつもりだったようだが。

「どうにも昔なじみの縁者がこの国の革命騒ぎに巻き込まれているらしいと知っての。何かと世話になった一族じゃがら、捨て置く気になれなくてのう」

「ま、向こうは儂が何者かなぞ知らんのじゃろうがな……」と、小さく漏らすのを偶然耳に入れてしまった。
 シアが眠りについたのは数百年前だ。つまりシアの世話になった昔なじみというのが普通の人間であれば、もう何代も世代交代しているはず。流石にそんな昔の先祖の知り合いを今の世代の人が知るはずもないと言うことだ。
 それが理解っていて、なお手を差し伸べたいというのだから、よほど縁の深い知人だったのか。

「そういえば師匠は昔はこの国に居たと言ってたッスね。話の流れからその知人とやらは貴人ですかね?」
「そうじゃな。まぁ、何分昔のことなので没落していなければの話じゃが」
「なるほど! 幼馴染の貴族の困難を救うためっすね! 貴族連中はいけ好かねぇが、師匠がそこまで助けようとするお人だ。きっと他のクズどもとは違うんでしょうね!」
「う……ん? お、おう。そうかもしれんの?」

 エレクが何か盛大に勘違いしたまま納得しているようだが、まぁそれも仕方ないよな。
 目の前の小娘が数百年前に生きていたなんて、普通は想像つかねぇし。

「ま、まぁそれでじゃ。どうもこの街での政争に勝利した革新派に捕らえられている可能性が高いようでな? まぁ生きているようなら助け出してやりたいと、そう思ったんじゃよ」

 というか、シアもシアで間違えを正すの面倒になって、そういう事にしてやがんな? 冷めた目を向けたら露骨に視線を逸らしやがった。
 でもまぁ、今の頃場に嘘がないなら、別に付き合っても良いと思っている。
 さっさとエリス達に合流したいって本音は確かにある。ただ、今がむしゃらに急いだ所で、アルヴァストが何処にあるのか、この国からどちらに向かって勧めばたどり着けるのかというのが全く解らないからな。
 早く帰りたいという思いがある一方で、今急ぐことに意味があるのかって冷めた考えもまたあるわけだ。
 それに、こういうイベントはゲーマーとしては見ておきたいっていう本音もある。
 本来なら帰還を優先して、イベント等はスルーする予定だったが、こういう言い訳を用意されてしまうと、どうしても気になってしまう。だからまぁ……

「まぁ、俺はシアの案内が無いと目的地も判らんしな。気がかり残して後々面倒になっても困るし、助け出すならさっさと助け出しちまおう」

 ……なんて、こちらも咄嗟に言い訳を用意できてしまう程度には乗り気だったりする。

「すまんの、先に進みたいのだと思うが、これから向かうはずだった場所の事にも少し関わる事でな」
「なら、余計に後顧の憂いは立つべきだろ。ただの個人的な事情だけじゃなく、俺の目的にも関わってくるんだろ?」
「どうじゃろうな。今の情報だけではまだなんとも言えん……が」
「なんとも言えない状況がもう、色々と確認する必要があると」

 そういうのは確かあるな。問題ないと言い切れないという、その事実がもう色々と大問題だなんて事は、ゲーム開発中にはいくらでもあったからな。
 シアにとって、今回耳に入れてしまった情報は、その類の事だったんだろう。

「それで、どうするんスか? 師匠の知人が捕まってるのは革新派って話だったっスよね? で、ついさっき保守派と思われる連中に喧嘩を売っちまったわけですけど……」
「あぁ、そこは気にせんで良い。さっきのは絡んできた保守派とやらを相手に手を結ぶつもりはないというアピールでしか無いからな。最初から今回の件に貴族の力を借りる気は無いからの」

 ま、シアの性格からすれば貴族から力を借りる姿とかまるで思い浮かばんわな。

「ここは王国であろう? 王を守れぬ保守派の貴族に価値なぞ見いだせんし、国政を任され王に近い貴族という立場にありながら、武官でもあるまいに政治ではなく武で国を掠め取ろうとする革新派とやらにもな。この国の貴族には等しく価値がないよ」
「貴族って武官じゃないのか? 自治の兵とか抱えてる印象なんだが」

 騎士とか貴族の施設軍とかってファンタジーのお約束みたいなもんだと思うんだが、実はちょっと違ったりする?

「確かに自領にはたくさんの兵を抱えているのは確かッス。ただこの国の貴族ってのは、自身の領地から兵を持ち出すことを国から禁止されてるんスよ。首都を守るのは王直属の騎士団で、貴族は自衛を覗いて実質軍事からは切り離されているんスよ」

 あぁ~反乱対策とかか。地方領主が力を持ちすぎて、反逆を防ぐためとかそんな作品もなんか見た記憶がある。
 ……といっても、結局反逆されてるんだから何の意味もなかったって事なんだが。

「……というわけじゃ。街人の話を聞く限り、以前の国の運営に不満を持っておるような声も少なかった。まぁ要するに革命と謳ってはいるが、実質はただの王位簒奪じゃな」
「そうっすね。特に俺達は何も困ってなかったし、貴族同士のイザコザなんて知ったこっちゃないってのが本音っス。生活に直撃する税はここ数十年は国によって決まった額が定められているし、俺達にとっては、直接生活を脅かすような侵略や飢饉なんかの大きな事に対策さえしてくれれば特に文句はないっスから」

 まぁ、それは現代でもそんな感じだったな。
 消費税増税とか、消費者の財布に直撃するニュースには過敏に反応するけど、自分たちに直接関わらないような内容だとどれだけ与党と野党のやり取りが激しかろうと、よほどセンセーショナルな内容でない限りニュースとかにはならなかったしな。
 現に俺だって選挙とかでは、『この政党なら何とかしてくれる!』という理由ではなく、『ここなら問題をあまり起こさなそう』って理由で消極的な選び方をしていた感じが強かった。
 かつて進歩を求めて大失敗した経験からか、我ながらかなり保守的な考え方になってしまっている自覚はあるが、やはり生活に求めるのは安定なんだよな。

「しかも、王座を狙った戦いは結構長く続いていたようじゃ。不意打ちによる暗殺でもされたのならまだしも、今落ち延びている保守派とやらは正面から反逆者に押し負けるような連中じゃぞ? そんな連中の力を借りようと思うか?」
「そりゃネェな」

 脳筋で野心を隠そうとしない馬鹿共と、そんな一部の馬鹿共に正面からボロ負けした主流派。
 どっちと関わってもデメリットしか見いだせん。

「なら、どうするつもりだ?」
「うん? どうするも何も、忍び込んで助け出すのが一番手っ取り早かろうよ」
「いや、それなら確かに貴族の助けなんぞ要らないだろうけど、いきなり過激な手段を……」
「別に正面から乗り込んで、力押しするよりはだいぶ穏当じゃろうが」

 すげぇこと言いやがる。
 ……が、コイツなら普通にやっとのけかねないくらい強いからなぁ。

「いや師匠、いくら何でもそれは……」

 ほら、巻き込まれると思ってエレク達が青い顔してるし。

「別に、儂一人で十分ではあるんじゃが、別行動だと何か会った時に儂が手を貸してやれんじゃろ?」
「まぁ、そうなんだよな。保守派の貴族共が何時喧嘩を売ってくるか判らん今、安全確保という意味だとみんな固まって無茶していたほうがまだ安全っていう……」

 冗談のような本当の話。
 エレク達が戦力としてこの国でもトップクラスだと言うことから考えると……だ。
 あの島での化け物との大立ち回りを見た限り、シア一人でも王城の守りを突破するのは容易い気がするんだから笑えない。

「それにの、お前たちに喧嘩を売って連中がいくらオツムが弱かろうとも、自分たちを倒した革新派を少数で撃退できると示されれば、迂闊に手を出すような真似を控えるのではないか?」
「……わかった、わかりましたよ! あの貴族共に冤罪ふっかけられたのは確かに俺らがナメられていたからだ。こうなったら俺達も腹くくって付き合いますよ!」
「うむ。その割り切りの良さは良いことじゃ」

 ほとんど退路が残されてない状況でそんな風に言われても素直に喜べんだろ、流石に……
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