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四章

二百四十九話 首都アレスタンティアⅣ

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「さすが師匠、なかなかにエグいっすね」
「人聞きの悪い事を言うでない、先に仕掛けてきたのは向こう側じゃ。儂は暴力を使わずに平和的に会話で騒ぎを収めたにすぎんじゃろ」
「平和的に、ねぇ」

 野次馬たちに糾弾され、次第に言葉だけではなく物まで飛び交い始めた辺りでついに兵士達は逃げるように去っていった。
 ……まぁ、そのまま逃がすほどシアは甘くない。ちゃっかりエレクの仲間のスカウトに追跡するように指示を出していた。

「それで、お主は先程の兵士共、どう思う?」
「俺っすか? そうっすね……」

 話を向けられたエレクは少しだけ考え込む素振りを見せたが、さして悩まずに答えを出した。

「保守派の手先っすかねぇ?」
「やはりそう思うか。この国に長く居るお前もそう思うということは、まぁ間違いはなさそうじゃな」
「革新派というには言動が支離滅裂すぎるっすからね」
「まぁ、そうよなぁ」

 もし本当にあの連中が革新派とやらであれば、シアが城へ行くと言った所でその流れに乗ればよかったんだ。捉えに来たと言うくせに、こちらが城へ向かおうとするとそれを拒もうとするのは自分たちは怪しいと言っているようなものだ。

「大方、革新派に押された保守派の貴族共が、この国で名の知れているお前たちを味方に引き入れるために同行していた儂らを狙った……といった所じゃろうな」
「アホなのか?」

 おっと、うっかり本音が口から。
 いやでも、そう思っても仕方ないだろ。

「仲間に引き入れたい奴に対して初手で脅迫とか、まともな考えとは思えんのだが……そもそもエレク達はこの国でも名の知れたチームなんだろ? それを相手に脅迫を迫るとか、反撃されたらどうするのかとか考えないのか?」

 権力を盾に、とかそんな話じゃあない。でっち上げの罪状で関係者を連れ去ってからの脅迫とか、どう立ち回っても敵対するしか無いと思うんだが……
 この世界では、現実に比べても義理だとかメンツだとかをかなり重視しているように感じる。そんなメンツを重要視するような相手であれば、今回みたいな手口では場合によっては『テロリストには屈しない』的な対応取る可能性もかなり高いと思う。特に名の知れたトップチームであればな。
 でも、そんな事はメンツで出来ているような貴族なら理解っても良いようなもんなんだが……

「貴族は確かに俺ら平民よりも教育やらなんやら受けるかも知れませんけどね、教育を受けたやつが皆お利口になるとは限らねーんッスよ」
「大抵はピンはねとか着服とか下らないことに知恵使うようになるのよねぇ」
「まぁ、本当に領民のために知識を使う領主というのも居るようですが、そんな領主の事を大抵は『間抜けな領主』と蔑むような噂として伝わってくる辺り、この国の腐りっぷりが解るってものですな」

 エレク達が口々に言う。
 確かに、勉強すれば皆賢くなるとは限らないか。俺も数式やら英語やら化学式やら、学生時代に勉強した内容なんて興味が残ってないような奴は殆ど覚えてねぇ。
 そう考えると、貴族のくせに……って考え方はちょっとやめた方がいいか。
 貴族でも平民でも阿呆は阿呆というくらいに考えとこう。
 義務教育として全国民が一定の教養を学べるこの国でも、馬鹿や不良なんて一定量居る。政治家だって汚職だのスキャンダルだので毎年のようにニュースになっているしな。
 リアルもファンタジーも教養と人格は結びつかねぇわな。うん。

「革新派だろうが保守派だろうが、大抵の貴族なんてのは上から見下ろすばかりで、現場の事なんて何も知らないんスよ。反撃されて被害が出たとしても、そこらにいくらでもいる兵士が少し減る程度にしか思ってない。もっと言うと、相手が同じ貴族でなければ、その事で相手がどう考えるのかすら考慮しようとしない」
「あぁ……」

 何時の世も現場の人材は軽視されるんだな。社畜時代を思い出しちまった……

「もちろん、全ての貴族がそうだとは言いませんぜ? ヴォックスの言った『間抜けな領主』として話に出た西部を治める大貴族やその取り巻き貴族なんかは善政で知られてるし、実際昔は広大な荒れ地だったと言われてはいるが、今じゃ一大穀倉地帯だ。無理な税の取り立てもなく、暮らしやすいと結構な話題っす」
「まぁ、そりゃそうだろうなぁ。全ての貴族が愚かなら国なんて立ち行かんだろうし。馬鹿な奴程声がでかいせいで、悪いところだけよく目立つって事だな」
「そういう事っス。自身の利益よりも領全体を良くしよう……なんてのはごく少数ですけど、大多数の貴族は自領が駄目になれば自分達も破滅するなんて理解りきってるんで、税は取り立てお色に手を染めようが、領民が逃げ出さない程度には統治するもんなんス」

 まぁ、そうじゃなきゃ国が国の形を保てねぇわな。地方領主が全部阿呆ならあっという間に領民が別の領地……どころか最悪他国に流出して国力を削る羽目になる。

「ただ、根底には貴族至上主義者ッて言うんすかね? 連中にとって貴族でない奴は自領を維持するための部品というか、人間じゃないと本気で思ってるんスよ」

 出鱈目な考え方……だとは思うが、割と昔から物語に出てくる悪役貴族って何故かそういう奴多いよな。
 つまり、大衆にとっての悪役の貴族の見え方としてはそれがオーソドックスだったって事なんだろうな。
 だからといって、ゲームと言ってもこんなリアルな世界の中でそんな貴族とは関わり合いにはなりたくなかった。そういうのはもうアルヴァストでお腹いっぱいなんだっていう。
 というか、何で世界をこんなリリアルに作り込んでるのに、悪役NPCだけは物語におけるステレオタイプなどクズが揃ってるんだろうか。
 いやまぁ、現実でも『こんなの今どき漫画でも見ねぇ』って言いたくなるようなクズは確かに居るけどさ。

「それで、そのお貴族様はシアの口先で撃退されたわけだが、このあと連中はどう動くと思う?」
「まぁ面子を潰されただの何だの勝手なこと言って、色々こちらにちょっかい出してくるんじゃないっすかね」
「……デスヨネー」

 ステレオタイプのクズ貴族なら当然そう動くのが王道だよな、やっぱり。

「メンツがどうこう言う前に、こっちからしてみれば、勝手に目をつけられて脅迫されそうになった挙げ句、問いただしたら逆ギレされたとか……言葉を選んで言うけど、面倒クセェって言葉しか出てこねぇぞ」
「貴族に限らず権力者なんてそんなもんっす。他人の迷惑なんて顧みないからのし上がれてるんスよ」

 やりたい放題、自重しないからデカイ結果でのし上がるか。言われてみればたしかにそうなのかも知れないな。
 いや、まっとうにのし上がるやつも居るんだろうけどさ。

「というか、シアは何であんなに煽ってたんだ? この国のイザコザなんぞに巻き込まれたくなかったんじゃなかったのか? あんなに煽ったら間違いなく目をつけられるだろうに」
「少々思うところがあっての。エレクの時と違って今回は短気とかそういうのではなく、わざと煽らせてもらった」

 あぁエレクの時のアレ、俺にけしかけるためじゃなくて本気で苛ついてたのな。後ろで当のエレクが青い顔してんぞ。

「その思うことってなんだよ。こんだけガッツリ巻き込んどいて、内緒とか流石に言わんよな?」
「わかっとるわい。理由は話してやる。じゃがその前にまずは腰を落ち着けられる宿探しが先じゃ」

 確かにこんな流れになっちまった以上は宿が必要か。

 本来ならこの街はこの先の為の買い出しをしたら、すぐに出ていく予定だったが、何を考えてか、シアはこの街でなにかしようとしている。北に目的があるにも関わらずだ。
 本当にこの街で何かをするべきか悩みどころだが、シアは既に貴族相手に喧嘩うっちまった。こうなっちまった以上はこちらが何を言おうがちょっかい掛けられるのは避けられんだろう。
 というかシアがやる気な以上、付き合わざるを得ないんだよなぁ。そもそもなぜ北を目指しているのか、というかシアが何を目指しているのかが理解っていないから、シアを置いていくという選択肢はあまり取りたくねぇんだよな。明らかにこっちを巻き込んでくるムーブを見せた以上、聞き出そうとして素直に教えるとは思えんし、力づくとか論外だしな。
 シアの目的地なんぞ知ったことか、と一人旅という選択肢は確かにあるが、土地勘のある奴からわざわざ別れるデメリットと、メリットの方がどう考えても釣り合わない。
 そもそも、ナビゲーターとしてだけじゃなく、仲間として純粋にその強さだけでも十分価値がある。なんせ俺より遥かに強い。RPGで、ぶっ壊れレベルの強キャラがゲーム序盤でスポット参戦するっていうのは結構良くある話だけど、シアの立ち位置は俺にとってまさにそれだ。以前のパーティで言うところのハティの立ち位置に近い。
 ハティと違って自己主張はかなり激しいがな。

「まぁ、やっちまったもんはしょうがない。まずは泊まれる宿を探そう。当然、宿代はシア持ちでな」
「わかっとる。今回ばかりは儂のワガママになるからの」

 珍しいな、シアが素直に自分のワガママだとか認めるなんて。
 ……それだけ、どうしてもこの街で何かしたい理由があるってことか。この街に入るまでは通り過ぎるつもりだった筈だから、多分今さっきの揉め事の中に見過ごせない何かがあったという事なんだろうけど……
 ウン百年単位で眠りについていたシアが貴族関連で気になるような事って一体何なんだ?
 訳の判らない事態に巻き込まれなきゃ良いんだが……
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