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なんと、王冠を被っているその人の髪は、正しくボクと全く同じ、白髪に黒のぶちがついていたのである。


えぇ?もしかしてこのロマノフ王国のお妃様、ボクのことをこの王様と間違えてるの?困ったなぁ。

王様も、見てないで止めてよ。あなたのお妃様がご乱心ですよ。

「良かった……。パミール。生きていたのね。妾の子。まさかまた生きて会えるなんて。」

ボクはパミールではない。思いっきり羊違いである。どうしようか……。

「こらこら。パミールが困っているじゃないか。離してやりなさい。
まずは事情を話さなくては。」

こちらもボクをパミールとやらと間違えている。事情を話さなければならないのはボクの方である。
確かにボクの髪は王様の髪にそっくりだけど、これはただの過労の影響であって、ボクは遠い大陸のやっと食うにも困らない程度の貧乏教会で育てられた孤児だ。
盛大な羊違いである。


王妃様の前で全裸でいる訳にもいかず、ボクはとりあえず豪華な服をお借りする事にした。おぉ…なんとなめらかな肌触り。カシミアかな。さすが草食獣人の国だ。

以前のボクのカサカサの手だったら、伝線させてしまわないか心配だったが、ここのところライランド様のところでナディーが丁寧に保湿してくれていて助かった。


「落ち着いて聞いてくれ。」

いや。大丈夫。
ボクはひどく落ち着いているから、まずはそちらが落ち着いてくれ。


こちらの王様が大興奮しながら言うには、ボクはお二人が大陸に外遊に行かれた際に誘拐に遭った、ロマノフ王国の王子様らしい。
なぜなら、この黒ぶちがロマノフ王家の成人にしか現れない神聖なぶちだからだ。

お二人は一生懸命ボクの事を探していたのだが、なにせ幼少期の事だから、まだぶちもなく、普通の羊獣人と全く見分けがつかず、手がかりすら見つからず、もう30年以上も泣き暮らしていたところだったらしい。

そこへ、”前線”帰りの使者が、偶然野原で寝ているボクを見つけて、その黒ぶちを見て王子様に違いないと早とちり確信し、ボクをここまで連れてきてしまったらしい。


あちゃーー。それはつまり、ライランド様もジャコブも知らないうちにボクはまた姿を消してしまったということで……。

それを聞いてまず一番最初に思ったのは、ボクはもう二度と羊の姿になって牧草地には紛れ込まないという誓いだ。

どうやらボクは羊になると寝ているうちに攫われる運命にあるらしい。ボクの羊形態が可愛すぎるせいかな。

でも、今頃真っ青になっているであろうた
ジャコブの顔を想像するだけで申し訳ない。きっともうライランド様の耳にも届いているだろう。
心配してくれているといいな。

んん?心配?あれ?

何はともかく、早くライランド様のところに戻らなければ、今夜のお勤めに間に合わない。

喜んでいるお二人には悪いが、ボクは、お二人の子供ではないと、正直に話す事にした。

「大変喜んでいらっしゃるところ、誠に申し訳ないのですが、私は大陸の孤児院出身のただの孤児でして、この黒ブチも、ボクが商会で365連勤している途中に出てきたいわば10銅貨ハゲの様なものなのです。決して成人の証や聖痕などではありません。
それに今の私には重要な仕事があるので、ライランド様の元に戻らせて頂けませんでしょうか。」

王妃様は、孤児院と365連勤という所で、おいたわしや~と泣き崩れている。

対する王様は、ライランド様の名前の方に反応した。
「ライランドとは、あの肉食獣人の王子の事かね。パミールは今はあの王子の元で働いていたのか。それは良かった。孤児から王子付きとなるとは、なんと立派な。さすがワシの子じゃ。
して、どんな仕事をしているのじゃ?」

だからボクはパミールじゃないんだってばと心の中で思いながら、答える。

「今は、ライランド様専用の従軍娼夫をしています。」

ピキッ。

あ。マズった。王様の顔がみるみるとまっ赤になっていく。
王妃様は声を上げて泣き出した。

「なんだとーーー!!!!!
あの好色ジジイの子にしては、少しは話がわかる若者だと思っていたのに、うちの大事な一人息子を、娼夫にしているだとーーー!!!!

開戦じゃ!!今度こそ開戦じゃ!!
今すぐ本物の弾入りの大砲を持って来い!!もう戦争ごっこは終わりじゃ!!
憎き肉食獣人たちめ、一匹残らず始末してやる!!!」

ヤバイ。本物の戦争の火種になってしまった。

「ワシ自ら出陣じゃ!!!
パミールよ、もう安心して良いぞ。
パパが、その不届き者を必ず仕留めてやるからな。待っておれ。」

「いや!だからこの黒ブチはただの過労で、本当の本当にボクはあなたの息子じゃないんですってば!」

「そんな事はない!この黒ブチ聖痕が出現する羊は、世界中探しても、このロマノフ王室だけなのじゃ!
これは、神から祝福されている正当な王家の証、この証がある限り、そなたは絶対にワシの息子で、間違いはないのだ!」

ダメだ……。全く話が通じない。
大体、アナタ ツノ4つありますよね?
ボクは2本だし、どう見たって同じ種族じゃないでしょ。

とりあえず、本物の戦争だけは回避しなくては。

ライランド様の兵士達は、ロマノフ人に危害を加える事を禁止されている。
つまり、全く反撃が出来ない状態で、一方的にやられてしまうかもしれないのだ。

いくらボクとは種族が違う肉食獣人でも、それではさすがに可哀想だ。ボクは、手持ちのカードをフルで切る事にした。

羊形態になる時に、肉食獣人に襲われない様にと念の為、ライランド様の王族の証を身につけておいて良かった。今からつく大嘘の、それらしい根拠になってくれる。

「待って下さい!先程のは言葉の絢でしてね。
ボクはライランド様と恋仲なのです!

見て下さい!この王家の紋章の刺繍を!
この中には、ライランド様がボクに贈ってくれた婚約指輪が入っておりまして、今回の戦争が終わったら、国に戻って結婚式を挙げる手筈になっているのです!」


「……。
ほう。それは、本当か?
もしや、あの不届き者を庇い立てしようとしている訳ではあるまいな?」

「本当の本当です!
もう、ライランド様の父王様の承諾も貰っているのです。

嘘だと思うなら、書状をしたためて、ライランド様に聞いてみて下さい!」
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