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「僕も知らなかったんっすけどね。国王様は大の草食獣人好きで、よく草食獣人の使用人を雇っては無理矢理手籠にするのが趣味だったらしいっす。」
随分と嫌な趣味だ。あの日国王様が来ただけで、ライランド様の侍従達が必死に止めようとしていた理由がようやくわかった。
普通、国王が見に来るくらいであんなに大騒ぎしないもんな。あの好色国王め、前科しかなかった訳か。
「で、ある日手籠にしようとした羊獣人のツノにお腹を突かれて、血まみれになっているところを、当時幼かったライランド殿下が偶然見てしまったそうなんすよ。」
国王は自業自得だが、幼きライランド様は可哀想だ。
「それで、ライランド殿下もツノが付いている草食獣人が怖いらしいっす。
言われてみれば確かに、船上の羊にも何度誘っても一度も近づこうとしてなかったんすよね。ただ興味がないだけかと思ってたんすけど。
あんなでも一応は父親だから、ご自分の父親を血まみれにしたツノを、親子揃って憎んでるってことらしいっすよ。だから、他の部位よりツノで良いらしいっす。
ツノは、頭を押さえつけるか、死んでないとなかなか綺麗には切り落とせないから、殺したツノ付きの数の証明になるってコトらしいっすよ。」
なるほど。だからボクにツノがついてる時はあんなに冷たかったのに、ツノが無くなった途端優しくなったのか。
ボクでいうところの、狼なんて怖い!爪とキバがある狼とは、絶対に同じ船に乗りたくない!っていうのと同じだったんだなぁ。
草食獣人としては凄く良くわかる感情だ。
そして、連れてきた兵士たちは、ロマノフ王国との戦闘ではなく、王様の命令でロマノフ島に近づく怪しい船が無いか見張らせる任務につかされるらしい。
なるほど。それであの三箇条なのか。
よっ良かった……。
ライランド様、これっぽっちも侵略していなかった……。
むしろ、今のこの共犯関係に持ち込めた外交手腕、恐るべしである。
もし王太子になったら、きっと将来は良い王様になれただろうに。普通の豹柄一家に黒く生まれてしまったばっかりに。可哀想に。
ロマノフ王国は、寒さに強いヤギ系や牛系草食獣人が各種入り乱れて生活している国だが、王族はなんと珍しい種類の羊獣人らしい。
パワフルな牛獣人を差し置いて、羊が王族だなんて凄いじゃないかと、それを知った時は興奮したものだ。
だから、ボクがいた大陸からは海を挟んで遠い国なれど、ボクはそれなりに親近感を覚えていた。
ライランド様がボクの同胞を沢山殺していなくて、本当に良かった。
ふぅ~~。安心したら、なんだかお腹が空いてきた。
でも、さっき昼食を食べたばかりで、まだ夕食まではだいぶ時間がある。ボクは前線がどんなところか心配過ぎて、ろくに食事が喉を通らなかったのだ。
天幕の外には、侵略戦争真っ最中の前線らしからぬ、のどかな風景が広がっていた。乳牛が、ハムハムと草を喰んでいる。
そこに生い茂る青々とした牧草を見て、ふと、草食獣人の国の牧草はどんな味がするのだろうかとボクは興味を持った。
きっと、あの綺麗な山から供給されるミネラルたっぷりの雪解け水で、大陸のものより美味しいに違いない。
草食獣人のお尻に見惚れているジャコブの隙をついて、ボクはまたまた羊形態となって、裏手にある牧草地に草を食べに行くことにした。
はぁ~~。なぜだかこのロマノフ王国の自然は、懐かしい感じがして好きだなぁ。
雪帽子を被っている屹り立った山に、起伏のある草原。のどかだ。
これこそ草食獣人の故郷!楽園!ここに居るだけで癒される。
ずっと部屋にこもって本を読んでいるだけだから、自分では平気だと思っていたけど、肉食獣人達に囲まれて暮らす生活は、思いの外ストレスになっていたのかもしれない。
着いてきて良かった。しばらくのんびりと草を食んで、ポカポカの太陽の下でお昼寝しちゃおうっと。
うとうと。うとうと。
目を開けるとそこは、豪華絢爛な部屋のベッドで、ボクはフカフカの布団に包まれて寝ていた。
ここ、どこーーーーー!!!!
「王子様、お目覚めですか。」
目の前には、超絶美麗な草食獣人の美女たち。
対するボクは、羊形態から獣人姿に戻ったばかりで、ライランド様の王家の証しか身につけていない。つまり全裸と言って差し支えない。
美女達は、お召し替えをと豪華絢爛な服を勧めてくるが、そんな高そうな服は着られない。
どうやら随分と勘違いされている様だが、この王家の紋章はライランド様のもので、ボクは王子様ではないのである。
大体、肉食獣人の国の王子様が、草食獣人な訳ないじゃないか。
あ。いや。草食獣人を手籠にするのが好きな、あの王様ならあり得るのか?いやでも居たとしても、認知しなさそうだよな。
とか考えている間に、使用人が呼びに行ったらしい、いかにも王様!王妃様!という服装の、頭に王冠を被った二人組がものすごいスピードで部屋に入ってきた。
と、ボクは綺麗な王妃様に急に抱きすくめられて、全く身動きが取れない。
ちょっちょっと待ってくれ。
イマ、ボク、全裸。
不敬、不倫、ゼッタイ、ダメ。
これ、一体どういう状況?
ちょっと王様、あなたの奥さんが、目の前で浮気してますよ!
ちょっとどうにかしてくださいよと視線で助けを求めようとして、王様の髪の毛に目が留まった。
@@@@
※現実世界でも、黒豹は黒豹という豹の一種ではなく、普通の豹柄の豹から突然変異で生まれる黒い個体の事を指すらしいです。もし知識が無かったら、黒豹を産んだ豹柄お母さん達はびっくりでしょうね。
随分と嫌な趣味だ。あの日国王様が来ただけで、ライランド様の侍従達が必死に止めようとしていた理由がようやくわかった。
普通、国王が見に来るくらいであんなに大騒ぎしないもんな。あの好色国王め、前科しかなかった訳か。
「で、ある日手籠にしようとした羊獣人のツノにお腹を突かれて、血まみれになっているところを、当時幼かったライランド殿下が偶然見てしまったそうなんすよ。」
国王は自業自得だが、幼きライランド様は可哀想だ。
「それで、ライランド殿下もツノが付いている草食獣人が怖いらしいっす。
言われてみれば確かに、船上の羊にも何度誘っても一度も近づこうとしてなかったんすよね。ただ興味がないだけかと思ってたんすけど。
あんなでも一応は父親だから、ご自分の父親を血まみれにしたツノを、親子揃って憎んでるってことらしいっすよ。だから、他の部位よりツノで良いらしいっす。
ツノは、頭を押さえつけるか、死んでないとなかなか綺麗には切り落とせないから、殺したツノ付きの数の証明になるってコトらしいっすよ。」
なるほど。だからボクにツノがついてる時はあんなに冷たかったのに、ツノが無くなった途端優しくなったのか。
ボクでいうところの、狼なんて怖い!爪とキバがある狼とは、絶対に同じ船に乗りたくない!っていうのと同じだったんだなぁ。
草食獣人としては凄く良くわかる感情だ。
そして、連れてきた兵士たちは、ロマノフ王国との戦闘ではなく、王様の命令でロマノフ島に近づく怪しい船が無いか見張らせる任務につかされるらしい。
なるほど。それであの三箇条なのか。
よっ良かった……。
ライランド様、これっぽっちも侵略していなかった……。
むしろ、今のこの共犯関係に持ち込めた外交手腕、恐るべしである。
もし王太子になったら、きっと将来は良い王様になれただろうに。普通の豹柄一家に黒く生まれてしまったばっかりに。可哀想に。
ロマノフ王国は、寒さに強いヤギ系や牛系草食獣人が各種入り乱れて生活している国だが、王族はなんと珍しい種類の羊獣人らしい。
パワフルな牛獣人を差し置いて、羊が王族だなんて凄いじゃないかと、それを知った時は興奮したものだ。
だから、ボクがいた大陸からは海を挟んで遠い国なれど、ボクはそれなりに親近感を覚えていた。
ライランド様がボクの同胞を沢山殺していなくて、本当に良かった。
ふぅ~~。安心したら、なんだかお腹が空いてきた。
でも、さっき昼食を食べたばかりで、まだ夕食まではだいぶ時間がある。ボクは前線がどんなところか心配過ぎて、ろくに食事が喉を通らなかったのだ。
天幕の外には、侵略戦争真っ最中の前線らしからぬ、のどかな風景が広がっていた。乳牛が、ハムハムと草を喰んでいる。
そこに生い茂る青々とした牧草を見て、ふと、草食獣人の国の牧草はどんな味がするのだろうかとボクは興味を持った。
きっと、あの綺麗な山から供給されるミネラルたっぷりの雪解け水で、大陸のものより美味しいに違いない。
草食獣人のお尻に見惚れているジャコブの隙をついて、ボクはまたまた羊形態となって、裏手にある牧草地に草を食べに行くことにした。
はぁ~~。なぜだかこのロマノフ王国の自然は、懐かしい感じがして好きだなぁ。
雪帽子を被っている屹り立った山に、起伏のある草原。のどかだ。
これこそ草食獣人の故郷!楽園!ここに居るだけで癒される。
ずっと部屋にこもって本を読んでいるだけだから、自分では平気だと思っていたけど、肉食獣人達に囲まれて暮らす生活は、思いの外ストレスになっていたのかもしれない。
着いてきて良かった。しばらくのんびりと草を食んで、ポカポカの太陽の下でお昼寝しちゃおうっと。
うとうと。うとうと。
目を開けるとそこは、豪華絢爛な部屋のベッドで、ボクはフカフカの布団に包まれて寝ていた。
ここ、どこーーーーー!!!!
「王子様、お目覚めですか。」
目の前には、超絶美麗な草食獣人の美女たち。
対するボクは、羊形態から獣人姿に戻ったばかりで、ライランド様の王家の証しか身につけていない。つまり全裸と言って差し支えない。
美女達は、お召し替えをと豪華絢爛な服を勧めてくるが、そんな高そうな服は着られない。
どうやら随分と勘違いされている様だが、この王家の紋章はライランド様のもので、ボクは王子様ではないのである。
大体、肉食獣人の国の王子様が、草食獣人な訳ないじゃないか。
あ。いや。草食獣人を手籠にするのが好きな、あの王様ならあり得るのか?いやでも居たとしても、認知しなさそうだよな。
とか考えている間に、使用人が呼びに行ったらしい、いかにも王様!王妃様!という服装の、頭に王冠を被った二人組がものすごいスピードで部屋に入ってきた。
と、ボクは綺麗な王妃様に急に抱きすくめられて、全く身動きが取れない。
ちょっちょっと待ってくれ。
イマ、ボク、全裸。
不敬、不倫、ゼッタイ、ダメ。
これ、一体どういう状況?
ちょっと王様、あなたの奥さんが、目の前で浮気してますよ!
ちょっとどうにかしてくださいよと視線で助けを求めようとして、王様の髪の毛に目が留まった。
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※現実世界でも、黒豹は黒豹という豹の一種ではなく、普通の豹柄の豹から突然変異で生まれる黒い個体の事を指すらしいです。もし知識が無かったら、黒豹を産んだ豹柄お母さん達はびっくりでしょうね。
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