【完結】牧場で羊になりきっていたら、氷結の貴公子に夜のお供を命じられました

夜曲

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小瓶から飛び出した粉が舞う。

これは!この匂いは!!

ガルルルッ!!先程まで獣人型だった男が、一気に獣形態に変わった。

「まずい!逃げるぞっ!!」

ロムニーがジャコブの襟首を掴んで部屋から脱出しようとするが、黒豹の瞬発力には勝てない。

本能で、この部屋の中で一番弱い存在に狙いを定めたらしい。

あっという間に飛びかかられて、ジャコブにしがみ付いていたボクのうなじに牙が立てられ、そのまま引きずり下ろされた。

無理に抵抗すると、ボクが大怪我をすると悟ったジャコブは、そのままボクを大人しく手放す。

ドスン!もの凄い力で地面に引き倒されて、目の裏に星が散った。直接頭は打たなかったものの、丸くせり出しているツノを地面に強打して、振動で頭がガンガンする。

どうやらツノが片方折れてしまった様で、痛くは無いが普段は空気に触れない折れたところが少しスースーする。


獣人姿の今のボクと比べても、体積が3倍はありそうな逞しい体つきの黒豹に地面に押さえつけられ、ボクは本当に今日が命日になるのだと悟った。

確かに溺死は嫌だと言ったけれども、溺死と肉食獣に噛み殺されるのとでは、一体どちらがマシなのだろうか。


「ジャコブ!行くぞっ!」

「でも、羊ちゃんが!」

「大丈夫だから行くぞっ!俺も廊下の奴らも、もう持たないっ!」

「えっ?」

唯一状況が分かっていないのは、人間族であるジャコブだけの様だった。
自分の氷結の上司の予想外の豹変ぶりに、すっかり呆気に取られていて、どうすれば良いのか解らない様子だ。

ロムニーをはじめ、肉食獣人を祖先に持つ者たちは、その粉末に多かれ少なかれ影響を受ける。

嗅覚が鋭い肉食獣人達は、ジャコブやロムニーの服についた残り香を嗅ぐだけでも、我慢が出来なくなるはずだ。

今日は羊花魁のオネエ様方も大忙しだろうなぁ~と。今まさに食べられようとしているのに、他人事の様に思うだけの理性がボクにはあった。

どうせだったら、ボクにも効いたら良かったのに。薬でわけがわからなくなってる時に、ひと思いに食べられた方が、よっぽど良かったのに。
残念ながらこの粉は草食獣人には全く効かない。

そして、肉食獣にとっては強い強い催淫効果がある。

あぁ~あ、どうせ死ぬなら綺麗なまま死にたかったなぁ~。
産まれてすぐ親に捨てられた上に、最期は獣形態の肉食獣人に死ぬまで獣姦されるなんて、ボクの人生ハードモード過ぎるよぉ…。


にしても、とっくのとおにめちゃくちゃになっていないとおかしいのに、どうしてボクにはまだ考え事をする余裕があるのだろう…。

恐る恐る目を開けてみると、ボクに馬乗りになっているそのヒトは、フーフーと荒い息を吐きながらも、必死に理性と戦っていた。
口からダラリと涎が垂れ落ち、ボクの頬を濡らす。さっきまで澄みすぎて氷の様に冷たかった蒼い瞳も、今は血走っている。

凄いなぁ~貴族で軍人さんだと、やっぱり自己管理能力が桁違いなんだなぁ~。
ボクはもう、この船の正体をほぼ正確に把握していた。


普段から獣耳が隠せない程の強い獣の血を持つ獣人なら、本能には逆らえないはずなのに。
あの量の粉末をモロに浴びても、ボクを噛み殺さない鋼の理性。やっぱり軍人さんって凄いんだなぁ~。


でも、こうやって躊躇されると困るのも確かな訳で。少しずつ噛まれるより、一気にいってくれた方が苦痛は少ないと思うし、ボクは羊獣人だから、溺死よりも肉食獣に食べられた方が自然の摂理に適っている気がする。

押さえつけられているのは肩だったので、腕を伸ばして大きな黒豹の頭をボクの首筋に近づけてみた。
そして、首筋を思いっきり伸ばして、牙を立てやすい様にしてみる。


しかし、ガブリっと彼が勢いよく噛み付いたのは、ボクの折れていない方のもう片方のツノだった。そのままガブリッガブリッと、何度も何度も獰猛に噛みつかれる。
ボクはその振動と力強さがもろ頭に伝わってきて、今すぐ気絶したかったのだが、365連勤で鍛えた気力は、そう簡単にボクを気絶させてくれない。

やがて、粉に刺激されていた獰猛さのピークが去ったのか、彼はその長いザラザラとした舌で、ペロリとボクの首筋を舐めた。

そうそう。やっと舐めてくれた。肉食獣は、何回か舐めて、肌を湿らせて、それから牙を立てるんだよね?

と思っていたら、全裸のボクをそのままペロリペロリと舐めはじめるではないか。

えぇぇ~何?これ一体どういう状況?
気持ちいいしくすぐったい上に、下腹の辺りがムズムズして…なんだか変な感じがする。


あれだけの粉を吸い込んだ後に、まだ前戯をするだけの余裕がある事に驚いたが、どうやら彼が重点的に舐めているのは、さっきジャコブが口でコルクを抜いた時にボクの身体にかかった粉末の様だった。

えぇ!それ吸い込むだけでもヤバいやつでしょ?舐め取って平気!?正気!?

あ、いや正気では無いのか。正気ではないから、普段彼がツノ付きだと蔑んでいるボクの上に乗って舐め回しているのか。


とはいえ、その舌遣いは人肌に飢えていたボクには抗い様がない気持ちよさで。
多分普段ならボクが泣いて縋っても相手にしてくれないだろうこの雲上人に喰われるのなら、平民のボクの人生も捨てたもんじゃないだろう。
ボクはもうどうにでもしてくれ!っと全身の力を抜いた。


ボクに抵抗の意思が無い事を見ると、逆に狩猟本能の興が冷めてしまったのか。その美しい黒豹は、おもむろにボクの上から退いて、ブルブルと身体を震わせ、自分の身体にかかった粉を振り落とすと、バンっと文字通り扉を突き破ってどこかへ走り去ってしまった。

物凄いパワーだ。あのパワーがボクに向けられていたら、きっとひとたまりも無かっただろう。


え。これは…たっ助かった…のか?
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