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第四章 青い夜と侵入者

第38話 隙間風

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 一度目の仮眠から目を覚ました時、トトは窓際に立って外の景色を眺めていた。窓枠に肘をつき、退屈なテレビ番組でも見てるかのように気の抜けた表情で真っ暗な窓の外を見つめている。トトの左の腰のあたりが薄っすら青く光っている所をみると、まだ二時間は経過していないようだ。

「トト、交代するよ」

 どれくらい眠っていたのかは分からないが、眠気はすっかり消え去っていた。

「もう起きたの? まだ一時間ちょっとしか経ってないよ?」

 トトは左ポケットから蛍光石を取り出して言う。俺は時計の針でも見るかのように目の前に差し出された蛍光石の輝きを確認した。光の強弱はよく分からなかったが、その光が当分消えそうにない事だけは分かった。

「ああ、なんだか目も覚めたし、のんびり見張りをしておくよ。トトはその分ゆっくり寝といてくれ」

「ありがとうイヨ君。実は何も起きなくてさ、ちょっと眠くなってきてたんだ」

「いや、何も起きない方がいいんだけどな」

 俺はトトから蛍光石を受け取り、自分のポケットに放り込んだ。

「まぁ、それはそうだけどさー」

 トトはあくびをしながら自分のバッグを漁り始めると、俺と同じようにタオルを取り出して枕を作っていた。俺はその反対にトトのようにマントで体を包み、窓際の方へ揺り椅子を引っ張っていった。そして、外が見える位置に角度を調整してから揺り椅子に腰掛けた。

「ここで寝てもいい?」

 トトは自作のタオル枕を持って俺の側にやってきた。やはりトトでもこの状況は落ち着かないのだろうか。

「いいけど、寒くないか? 俺のマントを貸そうか?」

「大丈夫、大丈夫。寒かったらすぐに奥の方に移動するからさ」

 トトはそう言うと俺のすぐ隣で横になって体を丸め始めた。

「それより、何かあったら絶対に起こしてね! 絶対だよ!」

 トトがこちらを見上げて言う。

「わかってるよ」



 トトの寝息が聞こえ始めたのは蛍光石の光が消え始める頃だった。俺はポケットから蛍光石を取り出し、大きな音を立てないよう気を付けながら窓枠に弱い力で叩きつけ、再び蛍光石に衝撃を与えた。
 部屋の中にまた仄かな青い光が広がる。俺はその光でトトの寝顔を確認してから蛍光石をポケットしまった。

「やっぱり、ちょっと寒いな」

 どこからか隙間風が吹き込んできていた。いや、そこら中の隙間から夜の風が屋内に吹き込んでくるようだった。俺はバッグの中から大きなタオルを二枚取り出し、一枚を自分のひざに掛け、もう一枚をトトに掛けた。

 その後の二時間は何事も無く経過した。途中、蛍光石を発光させる為に一度だけ椅子から立ち上がったが、その時以外はずっと揺り椅子に座って外の景色を眺めていた。自分でも意外に思ったが、退屈はしなかった。上空の風が強いのか、切れ切れになった細かい雲が夜空を忙しなく流れていくのが見ていて飽きなかったし、見え隠れする月や、その月の光の加減で見え方が変化する景色も面白く感じた。

 レジェクエをこんな風に楽しんだ事はなかったな。いや、昔はあったのか? どうだっただろうか。
そんな事を考えている内に蛍光石の光が消えかけている事に気が付いた。

「おーい、トト、起きれるか?」

 まだ小さな寝息を立てているトトの肩を小さく揺らした。

「ふわぁー、おはようイヨ君。もう交代の時間?」

「眠かったらまだ寝ててもいいぞ。なんだか目が冴えてるんだ」

「ん、どうして? もしかしてイヨ君、夜の番人が怖いの?」

 トトがもぞもぞと起き上がって言った。いやいや、そんな訳は無い。いくら夜の番人がこのエリアのボスモンスターといえど、こっちは元ゲーム内最強の黒魔導士と剣士なんだ。どんなにレベルが低くとも、夜の番人程度のモンスターになんて負ける気はしない。――とは、何故だか言い切れなかった。

「どうなんだろうな。自分でもよく分からないんだ」

「大丈夫だよ。私がいるよ!」

 トトが自信満々に立ち上がって言う。

「そうなんだよな。トトがいるのにな」

 俺はトトの主張に大いに頷きながら答えた。

「何が来ても任せといてよ! ってことで、イヨ君はゆっくり寝てね」

「……そうだな、そうするよ。それじゃあ、また二時間位経ったら起こしてくれ」

「おっけーおっけー! それじゃ、ゆっくり寝るんだよ」

 俺は揺り椅子から立ち上がり、時間を追うごとに厳しさを増している隙間風をしのげそうなスペースを探してみた。しかし、部屋の中はどこを見渡してみても寒々としていて、どこで寝ても似たり寄ったりといった様相だった。

「そこで寝るの?」

 俺は揺り椅子のすぐ側で眠りにつく事にした。先程と同じようにタオルを枕にし、マントで体を覆って丸くなる。

「ここで寝る」

「へへーん、イヨ君、やっぱり夜の番人が怖いんだ」

 トトはからかうように笑って言うと、空席になった揺り椅子に勢いよく飛び乗った。その瞬間、ギシと揺り椅子の軋む音が部屋の中に響いた。

「トト、静かに」

「ご、ごめんなさい」

 トトはすぐに揺り椅子の揺れをピタリと手で止めて謝っていた。

「じゃあ、後は任せた」

「おやすみ、イヨ君!」

「おやすみ、トト」

 目を瞑ると、また心地の良い眠気がすぐにやってきた。
何も心配せず、今度はトトに起こされるまでゆっくり寝てよう。そんな事を考えながら俺は再び眠りに落ちて行く。それから何分位経った頃だろうか。俺が眠りの淵を漂っている時だ。トトの鼻歌がどこからか聞こえてきた。

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