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 ……そして俺は、そんな心優しい彼女の次の行動は、なんとなく予想している。
 
 ほんの数秒の間をおいて、「ふふ……」と笑う気配。
  
「まぁ、いいです。もう少し時が経ったら、また聞くことにします、そしたら教えてくださいね?」

 ……やっぱり。

 心根の優しい彼女は、いつも俺の気持ちや意図を汲んで……寄り添ってくれる。
 それを目の当たりにするたびに、思い知らされるんだ。

 今まで出会ってきたどの女性とも違う。俺という捻くれた人間を認め、受け入れ、それを愛してくれる姿がたまらなく愛おしくて、その度に胸が掴まれたように苦しくなる。
 
 同時にこの際やっぱり告げてしまおうか、という葛藤が起きはじめるが、踏みとどまる。 
 感情論については、結局、シナリオがないとどうしていいかわからない。情けない自分に、じわりと顔が熱くなる。

「あれ? 智秋さん、耳が――」
 
 ……気づかれた。案外侮れないんだよな。
 
「赤くない」 
「私、まだなにも――」
「…赤くないって言ってるでしょう」
「ひゃあ! 赤いなんてまだ言ってないのにぃ~!」
 
 そこまで言えば、同じだ。
 これ以上形勢不利になる前に、目を輝かせ顔を覗き込んできた彼女の腰に腕を回し、ひょいと肩に担ぐ。 

 素っ頓狂な声を上げながら、抵抗しているが問答無用。
 

「えっ、あの……なんで、ここに……?」

 ぼふん! とベットにおろしてシーツに縫い留めると、ドキドキして仕方ないという濡れた瞳が俺を見上げる。

 これに見つめられると、すぐに体が熱くなるようになったのはいつからだろう。
 愛おしいと思うのに、ひたすら啼かせて自分だけがその無垢な瞳に映りたいと望んでしまう。
 
「言葉で伝えがたいものは、別の方法で伝えたほうがいいかと思って」

 嘘のように本心を言って、パジャマのボタンを解きながら首筋に顔を埋めると、ビクン!と小さな体が反応する。  
 
「ふぁっ……お仕置きの間違いじゃ、なくて……?」

 思わず、クスッと笑みがこぼれる。
 仕置き……良くわかってるな。

 そうだな。そんなこと、聞かなくても理解できるくらい植え付けてやりたいと思う。
 まぁ、それ以上に、俺がなんど触れても足りないんだが……。

「さぁ……どうでしょうね?」
 
 だが、常々俺の心を汲み取ろうとしてくれる彼女なら、きっと言葉がなくてもすんなり伝わってしまうんだろう。

 これが〝仕置き〟という名の、言葉にし難い愛情の伝えかただということを――
 
「私も、愛してるよ……ちあきさん」

 やっぱり……。
 
 蕩けたそこに自身を押し込み、一心不乱に彼女を突き上げていると、甘い声と混じって途切れ途切れに聞こえてきた。
 
 でも、その気持ちが俺に敵わないということは、ずっと教えてやらない――。
 
 彼女には、俺よりも、俺のことを愛してほしいと……捻くれた俺は常々思っているから――

「俺も、愛してるよ、桜――」

 小さな唇からこぼれる吐息を塞ぎながら、繋がった体を力強く、でも壊さないように抱きしめ、シーツの波にふたりで身を沈めた。





 ――END
 
 
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