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【R18】afterStory happy honeymoon〜
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しおりを挟む――パーティーから、半年後の五月某吉日。
ようやく、この日を迎えることができた。
私は大きく空いたデコルテを柔らかなリバーレースの包む、王道のAラインのドレスを着ている。上品に裾が広がりシルクがふわふわと波打っている。
これは何度も試着した上、体の小さな私でも上品なシルエットで着こなせることで、ふたりで選んだものだ。
それに合わせる形で、彼も迷った末、今日ばかりは白の着丈の長めなフロックコートを身にまとっている。
ずっとスーツは黒以外を着たことがないからと迷っていたが、ステンドグラスの輝く大聖堂のなか、神父様の前で向かい合った彼は、涙が出そうなほど綺麗だった。
場所は都内の外れにある、青い芝生の深緑が美しい式場。雑誌を見ながらピックアップし、シンプルで落ち着いたら空間を好む私たちは、ここを選んだ。
「そんなに泣いたら……赤くなるでしょう」
……“涙が出そうな”ではなかった。
実はもう、出ている。大号泣だった。
ヴェールをめくった智秋さんが苦笑しながら、指の背頬を拭う。
たぶん目元のメイクを心配してくれているのだろうが、言葉とは裏腹、眼鏡の奥の涼やかな瞳が優しく弧を描いている。
「だって……そのくらい、嬉しいんです」
私の涙声を聞いて、彼が小さくわらう。
普通の花嫁なら、実家を離れるのが淋しいとか、そんな感慨深い気持ちになるのだろうけれど私は違う。
すでに〝偽装結婚〟という結婚生活のなかで、ようやくずっと好きだった人と気持ちの通じ合えて、念願のこの時を迎えられるんだ。
嬉しくて、幸せで泣けてしまうのは仕方ない。
溢れる涙を拭ったあと、智秋さんは身を屈め、濡れた瞳を覗き込んでくる。
「……俺も、嬉しいですけどね。言葉に言い表せないくらいに」
そして、小さく嬉しそうにそう囁いて、震える私の唇に誓いのキスをしたのだった。
ようやく交わせた誓いのキスは、いつもしているキスよりも塩辛い、優しい涙の味がした――
◇
その後、隣接する洋館で、私たちは小規模なウエディングパーティーをした。
お付き合いのある方たちを招いたとても小さなパーティーだったが、終始和やかな空気を見せていた。
挨拶をお願いした会長が途中感極まり言葉を詰まらせたり。
少し前にパパになった藤森さんが、酔っぱらって「子供は可愛いんだぞ~」と智秋さんにしなだれかかって、ずっとうんちくを語っていたり。
智秋さんもいつもの感情を表に出さないような、落ち着いた表情でありながらも、ほんの少し口角が上がっていてとても楽しそうに見えた。私ももちろん、楽しかった。
そして、その夜はもちろん、特別な夜をふたりで過ごした。
隣接するホテルのスイートルームを取って、とてもロマンチックでラグジュアリーなベッドルームに、シャワーを浴びたあとそっと導かれた。
『……ようやく、あなたが手に入ったような気がするな』
キスのあと私を組み敷いた彼は、とても穏やかで幸せそうな表情をしていて……いつも以上に胸がキュンと締め付けられた。
『……私は、はじめから、智秋さんしか見ていませんよ』
『これ以上、煽るな――』
『ぁあっ……』
長い指先が全身を這い、蕩けるようなキスが降り注いだ。繋ぎ止めていた理性がいとも簡単に断ち切られた。
そして、挙式後初めて繋がった体温は、ふたりの情慾を煽り、いつも以上に呼吸を震わせた。
『まずいな……よすぎて制御が効かない……』
『ぁっ……わたしも、きちゃ……っ――!』
『何度でも、達けばいい――』
念願の挙式をできて、いつもより獣ちっくな智秋さんに、たっぷり啼かされて愛を注がれて……。
この日は本当に、夢みたいな一日だった――。
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