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忠告10(後編) 答え合わせはおもてなしの後で

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 ――そんなわけで、午後三時。
 時間まで秘書室で仕事を片付け、社内図書に返却する経済誌を持って、クリスの滞在する一室へと急ぐ。

 帰りがけに、返却しなきゃ!
 期限が今日なの、すっかり忘れてた。

 算段を立てながら、社長室のホワイトチョコみたいなドアをノックをすると、すぐに、カタコトの日本語で「ハイ」と返事があがる。

「失礼します」

 内壁のない開け放たれた白を基調とした空間は、とても明るくて眩しい。

 うちの社長室は、他の執務室の何倍も広く設計されていて、多忙な社長が移動せず小規模なミーティングなら、ここでも行えるようになっている。

 中央奥のくの字型のプレジデントデスクに、隣には窓に沿ったカウンター式の秘書デスク。

 応接スペースと、ミーティングスペースは都内の景色が見晴らせる一面のガラス窓のところへ。洗練されたシンプルなインテリアが輝きを放つ。

 社交的な社長の方針で、他企業とは少し違った、多くの人が出入りする開放的な場所となっている。

 クリスと智秋さんがいるのは、そんな社長室を可動式の間仕切りパネルで仕切られた一角だ。

 仕事にも環境にも不慣れなクリスが、智秋さんの不在時でも誰かしらヘルプに駆けつけやすいように、というのが理由らしい。

 とはいえマネジメントや役員研修、関連企業への出張などと忙しく……ここでLNOXの仕事をしていられる時間は、なかなか少ないみたいだけど。

「ハイ! サクラ! 待ってたよ」
「今日は忙しいなか、ありがとう」
「いいんだよ、僕もどうなったのかと心配していたんだ」

 書類でも読んでいたのか、クリスがメガネをかけたまま出迎え、無人の室内へ促してくれる。

 まだカタコトで混ざり合っているけれど、クリスは来日してからメキメキと日本語が上達してきた。

 会長・社長、セクレタリー共に英語が堪能な人員に囲まれているけれど、今後のために少しでも日本語を身に着けておきたいと言っていた。

 ふと、視線を先へ伸ばす。 友子たちは、午後から打ち合わせと会食のハシゴで、社内にいないと言っていた。

 さらに移動させると、フロスト調の間仕切りパネルの向こう側で、対面して並ぶチョコレート色のデスクが見える。

 書類の散らかっているクリスのものと、もうひとつ、常々きっちり片付いているデスクに人影は……。

「……チアキなら、今しがたソウムからコールがあって荷物を受け取りに行ってくれてるよ、サクラが来るの知ってるから、すぐ戻ってくるんじゃないかな」

 察したクリスがそんなことを言いながら、自分たちのデスク横に備わる、応接スペースのソファに私を促す。
 
「そ、そうデシタカ」

 見透かされていた。なんだか恥ずかしくて、ギクシャクしてしまった。

 でも、こうして、クリスと二人になるのは、あの告白以来だ。常にお互い誰かを連れ歩いていて、社内で顔を合わせることもほとんどない。

 キッパリ気持ちを跳ね退けた私に何事もなかったように接してくれる彼は、本当に優しい人だ。

 もちろん、裏に潜む“偽装”というワードを、彼は知らないわけだけれども。

 ふいに、『もし……』という、ただならぬ予感が巡りそうになったが、慌てて頭を振る。 ――これは誰にも知られてはいけない秘密だ。

 振り払うように、あれこれ気遣うクリスをソファーに押し留め、コーヒーを準備したあと、早速本題に入らせてもらった。

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