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忠告8 side chiaki

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「――んんっ……」
「……嫌なら拒んでください……じゃないと、もう、我慢できそうにない……」

 脱力した彼女からボトムやシーツを引き剥がしながら、焦ったように自らのシャツも脱いで床へ落としていく。

 ピシャッ……と、グラスで濡らした彼女の服が、床で音を立てた。

 ――抱きたい。彼女がほしい。

 現れた淡い色の下着を纏った白い裸体を優しくマットレスに押し付け、夢中で唇を寄せた。

「あっ……」
「あなたを抱きたい……形だけじゃなく、ちゃんと俺のものに――」
「……ん……ちあき……さ……」

 ゆっくり長い睫毛が伏せられ、可愛らしい声が甘くか細くなったのは了承の印だととらえた。

 啄むだけで跡がつきそうな首筋を舌先でたどり所有痕を残しながら……鎖骨、胸元、皮膚の薄い場所へ唇を走らせる。

 押し潰さないように体を重ね、触れ合う素肌に呼吸を震わせながら、ようやく柔らかな胸に触れた。

 だけど、気付いたのはそのときだった。

 聞こえていた甘い吐息がいつの間にか消え失せ、代わりに、すーすーと規則正しい穏やかな息づかいが頭上から聞こえてくるではないか。

 ……ん?

 嫌な予感がして、ギギギっと頭を動かしてみれば、

 ……むにゃむにゃ、とっても、いい夢……。

 長い睫毛を閉じ、開いた唇からよだれを垂らした、少し残念な眠り姫。

 満足気な寝言をつぶやきながら、のしかかる俺を払い除けるように寝返りを打って、胎児のように丸まってしまった。

 寝ている……。

 ……俺は、未練がましく数秒間、石のように固まり、さらにたっぷり数十秒ほど無防備な寝顔を見つめ葛藤したあと、

 大きなため息で邪な気持ちを吐き出し、起きる様子の無い彼女の上から仕方なく退いた。

 なんだこれは……拷問か……?

 下方で猛威を奮うもう一人の俺が……絶望を味わっているのは言うまでもない。

 これ以上暴走を起こさないようシーツで桜さんの体を隠し……枕に肘をついて無防備な寝顔をじっと見つめる。

 ほんとに、この人は……。

 ふっと苦笑がこぼれ落ちる。

 でも――

 脱力した小さな左手をそっと掴んだ。
 それから薬指にそっと唇を押し付け、首から下がるマリッジリングを見つめた。

『……キミたちに隙があるなら別だけどね』

 早急にこの偽装関係を埋めたくなるが……。

 クリスへの嫉妬を理由に先を急ぐのは、誠実な彼女に対してとても不誠実だよな……。

 それに……
 まず、優先しなければならないのは――。

「……公私ともに――覚悟してくださいよ……」

 ――少しだけ、頑張ってもらわなければならないことがある。

 ふわりと、長い栗色の髪を撫で、閉じた瞼に唇を押し付けた。

 指どおりを確かめるように何度か長い髪を撫でたあと、

 ……俺は冷たいシャワーを浴びに、バスルームへと向かった。
 
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