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忠告8 side chiaki

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「……大丈夫ですよ。智秋さんの考えているようなことにはなりません」

 あれこれ過ぎらせ言葉に詰まっていると、彼女は察したようにキッパリ言い放つ。

 視線を合わせると、彼女はへらりと笑って。

「偽装結婚するって決めたときに言いました。私は、この期間をとても大事にするって決めているって」

『レセプションまでの約4ヶ月間、後悔しないように過ごしたいんです』

 それは忘れることができない、偽装結婚を提案した日の、真っ直ぐな口説き文句だ。

「クリスの気持ちはとても嬉しかったです……。でも私の気持ちは決まってるので、迷うことはないんです。期間が終わって離婚届を突きつけられない限り、しつこく……智秋さんの隣にいさせてもらいたいと思っていますよ」

 この人は……。

 緩やかな真っ直ぐな言葉から。意志の強い視線から。意識を逸らすことができなかった。

「智秋さんが、私が求めるような意味で言ってくれているのかはわかりませんが……、例えそうじゃなくても、思いは変わりません」
「――」
「なので、私――」

 話しを差し止めるよう滑らかな髪に手を差し入れ、コツンと額を合わせる。

「もうあなたは……なんでそう、こちらが困るくらい……いつも素直な言葉を、くれるのかな」

 色んな熱いものがこみ上げてきて……胸が詰まるような泣きくなるような不思議な気持ちになった。

 桜さんの可愛らしい童顔がキョトンと俺を見つめる。

 もう……このままでは嫌になっているのは俺の方だ。

「“そういう意味”だから、参ってるんですよ……。そうじゃなきゃ、こんな情けないこと思うわけないでしょう」
「あの……」
「こんなに人の心に入り込んできて――責任、とってよ、桜さん……」
「それって――んむっ」

 ちょっとだけ恨めしい思いで頭を引き寄せ、わなないた唇を噛みつくようにして奪った。

 かすかにアルコールの香る口内に舌を挿しいれ、夢中になって深く掻き混ぜる。
 ここにきてから俺を取り繋いでいたほそいほそい理性の糸がプツリと音を立て切れたのがわかった。

 ――もう、抗えない……どうかしそうだ。

 控え目なくせしてたまに大胆。

 でも真っ直ぐで芯のある強い心。

 まるでそれが、計算し尽されたように、俺の心にいとも簡単に入り込んできて……

 みるみるうちに俺の心を掻っ攫っていった。

 ほんとうのほんとうに……彼女は、テロリストかっ。
 どこまで人の心を占拠すれば気が済むんだ。

 とろけた顔の桜さんをシーツに包んで抱き上げ、部屋を移動する。

 俺のベッドに彼女を組み敷いて、タイを緩めながら堪らず無防備な彼女の唇をもう一度塞いだ。

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