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忠告4 俺なりに最大限だいじにします
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しおりを挟む駆け引きとか、そういうのは苦手だけれど。
好きな人に、好きだって伝えていくことくらいはできる
……いや、したい。
これこそ……最大のチャンスだと思いたい。
しん、と静まり返るふたりの空間。
それから「ふふっ」と微かに笑い声が聞こえてきて、ゆっくりと島田さんが手で顔を覆い私から背ける。
そして、クスクスとこれまで一度たりとも見たことのない声をあげて控えめに笑いはじめた。
「――あなたはほんとに予想外だ……」
……え?! 笑ってる……?
唖然と彼を見つめていると、ひとしきり笑ったあと中指で眼鏡を押し上げてから、こっちに近づいてきて、
そして、立ち尽くす私の顔を覗き込んできた。
「つまり、國井さんが俺を口説いてくれると……? まさか、女性から口説くと言われるとは――…ふっ」
その瞬間、頬に熱が上がりつつも、あっと目を奪われた。
「――それは…楽しみですね」
あぁ、この顔……知ってる。
これまでの、作ったような意地悪な笑顔とは全然違う。
ふわりと上がる頬。くしゃっと落ちた目尻。
5年前の――あのときに見た優しい笑顔だ。
呆れられてると言っても過言ではないのに、胸がときめいて、その表情から目が離せない。
「……いまいち自信はありませんけど、後悔しないように過ごしたくて……」
「構いませんよ。こんなに赤い顔の人が、何ができるのかわかりませんが……」
「――んなっ……」
長い睫毛に縁取られた瞳が、ちょっぴりからかうように……でもやっぱり優しげに私を捉えるものだから、火が付いたように顔が熱くなる。
“笑ってる”ではなく“笑われている”だけなのに、胸は痛いくらい弾む。
あぁ、やっぱり私、恋してる。
こんなことになって、戸惑いを感じないわけじゃないけれど。
それ以上にもっと。彼の素顔に翻弄されながら、何度だって島田さんに恋に落ちると確信をした――。
きっと、あの日、秘書室でキスを交わしたときから……こうなることは、決まっていたのかもしれない。
「会長の言うこともバカにできない……」
そんな最中、どこからともなくボソリと何かが聞こえたような……
「え?」
意識をそちらへ流すと、
「いえ、なにも」
彼はふるふると首を横にふりながら、どこか誤魔化すようにして、
目の前に大きな手を差し出してきた。
「では、桜さん……あなたの口ぶりだと、俺――と夫婦になってくれると、そう解釈をしても……?」
俺……。
所作や言葉遣いはいつもどおり丁寧だけどきっとこれが、プライベートの彼なんだろう。
少し意地悪で。ちょっと不器用で。たまに底知れない黒いオーラを放っていて。
でも知りたい。近づきたい。こんな状況でも気持ちは止まらない……。
名前呼びに胸をときめかせながら返事をした私は、差し出された大きな手に、自らそっと触れた。
「――私で良ければ……、よろしくお願いいたします、ゼネラルマネージャー」
「……名前で。夫婦になるんだから……おかしいでしょう」
そう言われたと思ったら、手を引かれて突然視界が暗くなった。
ふわり、とこめかみに優しい温もりが触れて、ゆっくりと離れていく。
「付き合ってもらう以上……俺なりに最大限あなたをだいじにしますよ」
「――?!?!?!」
い、い、いま……!!!
驚きすぎて口がきけない。
おおおおでこに……っ!!
キ、キ、キキキ――!!
そんな雷に打たれたような私を見て、島田さんの唇が意地悪に弧を描く。
「やられっぱなしじゃ、いられないんで――」
やられっぱなしって、なんのこと――?
私なにかした――?!
これからどうなっちゃうのかわからないけど。
一筋縄ではいかなそうな大好きな人と、
予感よりもちょぴり甘くなりそうな偽装ライフが、はじまりそうな――予感?
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