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新居と影
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冒険者ギルドの受付嬢キャスカに案内されるままやってきたのは、商業ギルド。
ここでは不動産だけではなく、この街での商売の全てを取り扱っているらしい。
冒険者ギルドともつながりが深く、主任クラスにもなればそれなりの交流があるそうだ。
ああ、キャスカの名前はもう嫌でも覚えさせられてしまった。ここに来るまでのあいだずっとしつこいくらいアピールを繰り返してきたりやたら密着してきたり……。
昔のオレだったらコロっと落ちてたかもしれないけど、今はメルルにミリゼットといったタイプの違う美女と交流があるから、それなりに美女にたいして免疫ができたみたいだ。
わはは。妬くな。コメント欄に荒らし行為は禁物だからな。
チリンチリン
商業ギルドの鐘の音は、冒険者ギルドとは違うようだ。
暑苦しい冒険者ギルドの熱気とは何か違う、胃がキリキリするような緊張感を漂わせている商人たちがいっぱいで正直ちょっと怖い。
「さ、こっちですよ皆さん」
そんな雰囲気を全く気にしていない様子のキャスカに案内されるまま、不動産部門と書かれたカウンターへ。
「ようこそ。本日はどうされましたか? ってなんだ、キャスカじゃない。どうしたのー?」
「お久ぶりねナナ。ふふーん、実は賃貸でいい物件を紹介してもらおうと思ってね」
そう言って意味ありげにオレをチラ見するキャスカ。
「えー、キャスカその人と結婚するのー? きゃーおめでとう!」
「えへへー、ありがとうー。式には呼ぶからねー」
「新居ならいいところがいくつかあるわよー?場所はどどのあたりがいい? あ、馴れ初め教えてくれたら少しサービスしちゃうよー?」
「いやいやちょっと待った。 結婚なんてしないしキャスカとはそういう関係じゃないから!」
なんだか2人で盛り上がりはじめてしまったので、慌てて止めに入った。
「もうー、いいじゃないですか。 わたしこう見えても冒険者の人たちから人気高いんですよ?」
えーい、シナをつくるなシナを。
「あーすまない。実はわたしたち……キャスカ以外の3人でパーティーを組んでいてな。事情があってとりあえず1か月だけ借りられる賃貸を探しているのだが、いい物件はないだろうか?」
「そうですかー、そんなところだと思いましたよ。それではいくつか候補を探してみますので少々お待ちくださいね」
商人らしくあっさりと態度を変える受付嬢のナナ。キャスカはといえば、気恥ずかしそうにポリポリ頭をかいていた。
「ご予算や、場所の希望はありますか?」
「今の宿と食事代の合計よりも安くなればいいかな。場所は冒険者ギルドに近ければいいけど、できるだけ治安がよくて静かだと嬉しい」
「あのあたりは賑やかですからねー、治安はともかく静かというと……これなんてどうですかー?」
「どれどれ?」
ギルドと街の南門のちょうど中間地点あたり、それぞれ徒歩で15分ほどといった感じかな。
大通りから2本ほど外れた場所にある一軒家で、部屋数も十分にある。値段は……かなり安い。
「これ、今から見に行ける?」
「はい、大丈夫ですよー。ご案内しますね」
案内されたのは、石壁で造られた平屋の一軒家。
「小さいですが、お風呂付きです。水と火の魔法石を取り換えればすぐに使えますよー」
この世界、お風呂はまだまだ贅沢品。オレとメルルがいる宿は風呂付きだけど、ミリゼットがいる安宿には風呂はない。一般家庭でも普及はまだまだ進んでいない。
「ここは昔、裕福な商人の別邸だったんです。亡くなられた後売りに出されたんですが、築年数がかなり経っているためなかなか買い手が見つからず、ちょうど賃貸に出たばかりだったんですよー。古いことは古いんですが、掃除さえしていただければ明日からでもご入居可能です!さあ、いかがでしょうかー?」
「そうだなー、オレはいいと思うけど、メルルとミリゼットはどうだ?」
「わたしはどこでも構わないぞ。ヒカリ殿が決めてくれ」
「ヒカリさんといっしょなら! どこでも!」
「わたしはその……隙間風が少し気になりますが、それ以外はいいと思います」
余計な返事まであったような……。
メルルが指差した先には、石が欠けたのか隙間ができていた。手を当ててみると、確かに風の流れを感じるな。
「この建物は、自分たちで修復とかしても大丈夫なのか?」
「ええ、構いませんよ。ただあまり費用をかけられるようなら他の物件もご紹介できますがー」
「いや、できるならいいんだ。ありがとう。ここに決めるよ」
「ご成約、ありがとうございますー。それでは手続きをしますのでお手数ですが商業ギルド
までお願いしますー」
翌日
「「「な、なんですかこれはー!!」」」
メルル、ミリゼット、キャスカの声が揃う。
土魔法を駆使して隙間をふさいだだけじゃなく、せっかくなので大理石風の見た目にしましたが、何か?
本物の鉱石をつくることはできないから見た目だけだけど、なんということでしょう!
築うん十年のボロ家が新築同然の見た目になったじゃありませんか。
いや、本当はきちんと石の材質なんかも変えられるかと思ったんだけど無理でした。そんなことできたらダイヤモンドとか作り放題になっちゃうもんな。
「あの、やっぱりわたしもいっしょにここに……」
「それはともかく、今夜は引っ越し祝いするからキャスカも来てくれよな」
「は、はい! 必ず! 何があってもきます! あ、差し入れも持ってきますね!」
ぶんぶん手を振って、笑顔で駆け出すキャスカ。
そしてその夜……いくら待ってもキャスカが来ることはなかった。
ここでは不動産だけではなく、この街での商売の全てを取り扱っているらしい。
冒険者ギルドともつながりが深く、主任クラスにもなればそれなりの交流があるそうだ。
ああ、キャスカの名前はもう嫌でも覚えさせられてしまった。ここに来るまでのあいだずっとしつこいくらいアピールを繰り返してきたりやたら密着してきたり……。
昔のオレだったらコロっと落ちてたかもしれないけど、今はメルルにミリゼットといったタイプの違う美女と交流があるから、それなりに美女にたいして免疫ができたみたいだ。
わはは。妬くな。コメント欄に荒らし行為は禁物だからな。
チリンチリン
商業ギルドの鐘の音は、冒険者ギルドとは違うようだ。
暑苦しい冒険者ギルドの熱気とは何か違う、胃がキリキリするような緊張感を漂わせている商人たちがいっぱいで正直ちょっと怖い。
「さ、こっちですよ皆さん」
そんな雰囲気を全く気にしていない様子のキャスカに案内されるまま、不動産部門と書かれたカウンターへ。
「ようこそ。本日はどうされましたか? ってなんだ、キャスカじゃない。どうしたのー?」
「お久ぶりねナナ。ふふーん、実は賃貸でいい物件を紹介してもらおうと思ってね」
そう言って意味ありげにオレをチラ見するキャスカ。
「えー、キャスカその人と結婚するのー? きゃーおめでとう!」
「えへへー、ありがとうー。式には呼ぶからねー」
「新居ならいいところがいくつかあるわよー?場所はどどのあたりがいい? あ、馴れ初め教えてくれたら少しサービスしちゃうよー?」
「いやいやちょっと待った。 結婚なんてしないしキャスカとはそういう関係じゃないから!」
なんだか2人で盛り上がりはじめてしまったので、慌てて止めに入った。
「もうー、いいじゃないですか。 わたしこう見えても冒険者の人たちから人気高いんですよ?」
えーい、シナをつくるなシナを。
「あーすまない。実はわたしたち……キャスカ以外の3人でパーティーを組んでいてな。事情があってとりあえず1か月だけ借りられる賃貸を探しているのだが、いい物件はないだろうか?」
「そうですかー、そんなところだと思いましたよ。それではいくつか候補を探してみますので少々お待ちくださいね」
商人らしくあっさりと態度を変える受付嬢のナナ。キャスカはといえば、気恥ずかしそうにポリポリ頭をかいていた。
「ご予算や、場所の希望はありますか?」
「今の宿と食事代の合計よりも安くなればいいかな。場所は冒険者ギルドに近ければいいけど、できるだけ治安がよくて静かだと嬉しい」
「あのあたりは賑やかですからねー、治安はともかく静かというと……これなんてどうですかー?」
「どれどれ?」
ギルドと街の南門のちょうど中間地点あたり、それぞれ徒歩で15分ほどといった感じかな。
大通りから2本ほど外れた場所にある一軒家で、部屋数も十分にある。値段は……かなり安い。
「これ、今から見に行ける?」
「はい、大丈夫ですよー。ご案内しますね」
案内されたのは、石壁で造られた平屋の一軒家。
「小さいですが、お風呂付きです。水と火の魔法石を取り換えればすぐに使えますよー」
この世界、お風呂はまだまだ贅沢品。オレとメルルがいる宿は風呂付きだけど、ミリゼットがいる安宿には風呂はない。一般家庭でも普及はまだまだ進んでいない。
「ここは昔、裕福な商人の別邸だったんです。亡くなられた後売りに出されたんですが、築年数がかなり経っているためなかなか買い手が見つからず、ちょうど賃貸に出たばかりだったんですよー。古いことは古いんですが、掃除さえしていただければ明日からでもご入居可能です!さあ、いかがでしょうかー?」
「そうだなー、オレはいいと思うけど、メルルとミリゼットはどうだ?」
「わたしはどこでも構わないぞ。ヒカリ殿が決めてくれ」
「ヒカリさんといっしょなら! どこでも!」
「わたしはその……隙間風が少し気になりますが、それ以外はいいと思います」
余計な返事まであったような……。
メルルが指差した先には、石が欠けたのか隙間ができていた。手を当ててみると、確かに風の流れを感じるな。
「この建物は、自分たちで修復とかしても大丈夫なのか?」
「ええ、構いませんよ。ただあまり費用をかけられるようなら他の物件もご紹介できますがー」
「いや、できるならいいんだ。ありがとう。ここに決めるよ」
「ご成約、ありがとうございますー。それでは手続きをしますのでお手数ですが商業ギルド
までお願いしますー」
翌日
「「「な、なんですかこれはー!!」」」
メルル、ミリゼット、キャスカの声が揃う。
土魔法を駆使して隙間をふさいだだけじゃなく、せっかくなので大理石風の見た目にしましたが、何か?
本物の鉱石をつくることはできないから見た目だけだけど、なんということでしょう!
築うん十年のボロ家が新築同然の見た目になったじゃありませんか。
いや、本当はきちんと石の材質なんかも変えられるかと思ったんだけど無理でした。そんなことできたらダイヤモンドとか作り放題になっちゃうもんな。
「あの、やっぱりわたしもいっしょにここに……」
「それはともかく、今夜は引っ越し祝いするからキャスカも来てくれよな」
「は、はい! 必ず! 何があってもきます! あ、差し入れも持ってきますね!」
ぶんぶん手を振って、笑顔で駆け出すキャスカ。
そしてその夜……いくら待ってもキャスカが来ることはなかった。
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