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クレール・クール

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ジュエルタートル

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朝だ。正確にはまだ日は昇っていないから夜?

 鉱山にある宿場町だけあって、当然のように山に囲まれた場所にあるから夜明けが遅いんだ。

 とにかく、もうじき明るくなってくるのでそれに合わせて冒険者の1日は始まる。

 日の出が遅く日の入りが早い土地では、昼間の時間の価値は普通の街以上に高い。

 夜まで飲んで騒いでいる荒くれたちも、ここでは滅多に寝坊したりすることはないらしい。

 昨夜は、美女2人に囲まれて眠れないんじゃないかと思ったけどそんなことはなかった。

 メルルとミリゼットの寝顔をみんなにも見せてあげたいけど、さすがに許可なしでそれはちょっとな。

 見てみたい! っていう人がいたら2人宛てに直接頼んでみて欲しい。

「ダメです」

「ヒカリ殿以外に見せるのはさすがにちょっと」

 ……。

 諦めて欲しい。


 他の冒険者たちが起き始めたくらいの時間。今オレたちは鉱山の入り口にいる。

 ジュエルタートルの鉱石や宝石狙いで人気がある狩場だから、もう少し遅い時間帯になると大勢の冒険者たちがやってきてそれぞれの実力や目的に合った亀を探すためにごった返すそうなので、混雑が始まる前にさっさと終わらせるつもりなのだ。

「入口に警備詰所があるのだが、そこで光の魔法を付与した魔法石を打っているから人数分買っていくぞ」

 鉱山の中は暗闇なのでなにかしらの照明が必要になる。

 松明が銅貨1枚、光の魔法石は銀貨1枚とそれなりに値段に差はあるけれど、魔法石は1日はもつ上に紐をつけて首からさげておけば両手が自由になることもあって、たいていの冒険者はこっちを選ぶんだそうだ。

「亀たちは暗闇でも見えるのか?」

「いや、やつらも目はあまりよくないようだ。そのかわりに音には敏感だな」

「でも、魔法石の明かりでオレたちの場所がバレるんじゃないか?」

「たしかにそうだが、暗闇の中で戦うわけにもいかないからな。奴らのテリトリーで狩りをする以上、地の利があちらにあるのは仕方がない」

 テリトリーと聞いてオレの心に疑問が浮かぶ。

 亀って普通こんな鉱山に巣を作ったりするものか?

 川や海とか、少なくとも水がある場所なイメージだよな? 少なくともこんな鉱山のイメージはオレにはない。

「ヒカリさん、行きますよ」

「あ、お、おう」

 まあ地球の亀じゃないんだ。気にするだけ無駄だな。

 ミリゼットを先頭にオレ、メルルといつもの順番で鉱山を進んでいく。

 魔法石は魔力を流すと魔石に含まれていた魔力が尽きるまで光続けるというものだったので、ミリゼットのぶんはオレが魔力を流してから渡した。

 入口からしばらくは壁や床が木材で補強されていて、昔観光で行ったことのある足尾銅山のようになっていた。

「思っていたよりだいぶ広いんだな」

 通路の幅は3~4メートルはあるだろうか。高さも180センチのオレでも頭上にはだいぶ余裕がある。

「広場に出ればもっと開けているぞ。ただ、もし通路で戦闘になってしまった場合はわたしの大剣はとても振れないからな。わたしが注意を引いている間にヒカリ殿が魔法でしとめてくれ」

「了解。作戦通り雷系の魔法でいくよ……ん?」

「どうした? 何かあったか?」

「いや、水たまりを踏んで驚いただけだけど……いや違うな。水が沸いてるんだこれ」

 よく観察してみると、水量は少ないもののコポコポと水が染み出しているのが分かる。

 みんなが見てる動画だとちゃんと輝度の調整をしているはずだからはっきり見えると思うけど、魔法石のうっすらした明かり頼りでは目をしっかりとこらして何とか分かる程度だ。

「ミリゼット、こういうのはけっこうあるのか?」

「……いや、少なくともわたしは何度かここに来たことがあるが、見たことはないな」

「ヒカリさん、この水が何か気になるんですか?」

「んんん……。ミリゼット、この鉱山って水路とか水脈ってあるのか?」

「無い……はずだ。わたしは3層までしか行ったことはないが、更に深く潜ったことのある冒険者もそんな話はしていなかったと思う。わたしが知らないだけかもしれないから絶対に無いとはいえないが」

「ちなみに、この鉱山が廃坑になったわけは分かるか? 以前は冒険者じゃなくて鉱夫が発掘していたんだよな?」

「それなら分かるぞ。今からもう10年も前になるが、当時最下層だった10層を掘っているときに急にジュエルタートルに襲われたのだそうだ。
 当時の冒険者ギルドの発表では、鉱山と奴らの巣が掘っているうちにつながってしまったせいで亀共が出てくるようになって、さすがに鉱夫たちは出ていかざるを得なくなったが、代わりにちょうど亀の甲羅から鉱山で取れていたのと同じ素材が取れるようになったから冒険者が集まるようになったんだ」

「なるほどなあ。……まあ、いくらなんでもさすがに今日いきなりってことはないよな……」

「ええと? つまりどういう意味ですか?」

「うん、オレの考えすぎだと思うんだけど、これ「いたぞ、カッパータートルだ」」

 オレに被せるように小さな声でミリゼットが言う。

「ちょうどこのあたりが気付かれないぎりぎりの距離だ。ヒカリ殿、いけるか?」

 オレたちの20メートルほど先、ちょうどこちらに背を向ける形でそいつは立っていた。

 身長はだいたい130センチくらいだろうか? 聞いていたより少し小さめなのでかなり若い個体なんだろう。

 2本足で立ち、しっぽは短めで、手には折れたショートソードを握っている。

 だが何よりの特徴は、やはり背負っている甲羅だ。赤茶色の分厚い甲羅は、なるほどミリゼットの言っていたように低ランクの……ましてやオレの剣ではどうにもならなそうだ。

「いく。倒しきれなかったらミリゼット、援護を頼む」

 ミリゼットが頷くのを確認し、魔法を放った。

「【サンダーランス】!!」

 バチバチと音を立てながら、雷が槍を形作り飛んでいく。

 カッパータートルも異変に気付き振り向くが、時すでに遅し。

 振り向いた眉間に槍がぶつかるとそのまま頭部が弾け飛んで、ズシンと重い音をたて胴体が地面に倒れた。

 ミリゼットが慎重に近寄り、OKの合図を出したところでようやくオレの体から緊張が抜けていった。

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