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クレール・クール

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崖からぼた餅

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 ザシュ……ザシュ……ボキ……グイ……ザク……ゴロン

「よし、終わったぞ」

 ほんの10分ほどでミリゼットが手早く解体を済ませてくれた。

 最初は丸ごと鉱山の外に運び出してから解体しようと思ったんだけど、重すぎて運べなかったからしかたなくバラして甲羅と魔石だけ持ち運ぶ。

 小柄な亀の甲羅といっても、甲羅部分だけで長さは70から80センチほどもあるんじゃないか?

 金や銀に比べたら銅の重さは軽いけどそれでも1人で運ぶのはちょっときつい。

 ……そういえば、タックは余裕でひとりで運んでいたな。オレも生前もう少し鍛えておけばよかったかな。というか、あれだけ準備はしっかりしたつもりだったのに袋を忘れるとは。

「これ、チャッチャカレまで運ぶんだよな? きついな……」

 思わずため息が出る。

「それも含めての試験ということだな。わたしも手伝うから頑張れ」

 ミリゼットと2人でかつげばなんとかなるか? そのあとはタックたちのように丈夫な袋を買って中に入れればなんとかなるか? そう思っていると、

「ミリゼットさん、それはありがたいですけどダメですよ。これはわたしとヒカリさんの試験なんですからわたしがヒカリさんといっしょに運んでいきます」

 メルルの言葉にミリゼットは一瞬だけ驚いた表情を浮かべていたけど、その後は笑顔で頷いた。

「わかった。わたしはその分まわりの警戒に力を入れよう」

 結局オレとメルルが甲羅をかつぎながら前を歩き、ミリゼットが後方を警戒しながら鉱山の出入り口まで戻ることにした。

 ここまで来る道中は今倒した亀以外に魔物はいなかったので、帰り道の前方は安全だと判断しての並び順だ。

 出口までもう少し。早く外の新鮮な空気が吸いたい。この水たまりを抜ければもうすぐだ。そう思ったその時……

 ビキッ……ミシィッッ…………!!

「うわああぁぁ!」

「きゃああっ!」

 地面が!? 嘘だろ? 甲羅が重かった?

「ふたりとも、はやくその甲羅を捨てるんだ!」

 ミリゼットの言葉に慌てて甲羅を投げ捨てようとするが、遅かった。

 ミシリという音がひときわ強く聞こえたその瞬間、ズドーンという音とともに地面が崩れオレとメルルの体は鉱山の中で宙を舞うことになった。



「……!! ……リ殿! ……ルル殿! 無事か!?」

「……あ、ああ。大丈夫。とりあえず大きなケガはなさそうだ……えっ! あ、ごめん!」

 衝撃で気を失っていたようだけど、頭上だいぶ離れたところからのミリゼットの呼び声で気が付いた。

 そしてオレの腕の中。メルルは抱かれるような状態で顔を真っ赤にしていた。

「ど、どうした? 何かあったのか? わたしもすぐに降りるから動かずにそこで待っていてくれ!」

「あ、いや、大丈夫! 何でもないから!」

 慌ててぱっとメルルから手を放す。どうやらオレと光の魔法石は今の衝撃で壊れてしまったらしい。

 ミリゼットの魔法石は無事のようだけど、元いた場所からここまではさすがに光も届かないらしい。

 おかげで見られなくて助かったというべきなのか、周りが暗くて困ったというべきなのか。

「メルル、ケガは?」

「ひゃ、ひゃい! ヒカリさんにかばっていただけたので、あの、大丈夫です。 それよりヒカリさん、その、お顔に傷が……!」

 落下の恐怖と興奮のせいなのか? 珍しくメルルがキョドっていた。

 額に手をやると、血でべっとりと濡れていた。なのに痛みはまったく感じない。

 これがアドレナリンだかドーパミンだかでハイな状態というやつなのか? 平静な状態ならかなり痛いんだろうな。

「あ、ごめんなさいヒカリさん。すぐに回復魔法で治療しますね」

 額に手を当てて魔法を発動させようとするメルルを止める。

「メルル。取り合えず血だけ止めてくれればそれでいい。できるか?」

「え? できますけど…… それだと傷は残ってしまいますよ?」

 回復魔法の効果があるのは、現在進行形で病気やケガなどの異常がある場合のみ。

 古傷や、過去に患った病気のせいで残った障害には効果がない。

 それをもちろん知っているメルルが、本当にそれでいいのかとオレに目をむけてくる。

「構わない。頼む」

「わかりました」

 メルルが魔法を使うと、血が止まり痛みもひいていく。

 触ってみると、左目の上に大きな傷があった。たぶん、落ちた時に崩れた地面の破片か何かが当たったんだろうな。

「どうだ?」

「え?」

「傷だよ。なんかこのままのほうがかっこいいんじゃないかなんて思ってさ。オレって特徴があまり無い顔してたし? 似合うか?」

「もう……馬鹿ですね。心配して損したじゃないですか。でも、そうですね。ヒカリさん、かっこいいですよ」

「だろ? なかなかいい面構えになっただろ? ははは」

「ふふふ。ははははは」

 しばらくふたりで笑いあう。

 実は傷を残しておきたかったのは本当だけど、別にかっこいいからとかそんなんじゃない。

 情けないけど、前世のオレならイザという場面に出くわしたとしてもきっと体がついていかずに何もできなかったと思う。体力も……勇気もなかった。

 だけど、今は違う。

 ゴブリンや角ウサギ、角オオカミなんかと命を張った戦闘をこなして体力的、精神的にだいぶ成長できたんだろう。

 体が勝手に動いて、人を守ることができた。

 この傷はその勲章として残しておきたい。

 メルルにそう言ってしまうとからかわれるかもしれないし、逆に気にしてしまうかもしれないから彼女には言わない。かっこいいだろという話だけで納得してくれたみたいだしな。


「【ライト】」

 砕けてしまった魔法石のかわりに、光魔法でまわりを照らす。

「カッパータートルの甲羅は……あ、あそこです。 あれ? 甲羅の下に何かありますね」

 メルルが指さした場所には確かにさっきまでかついでいた亀の甲羅。そしてその下に何かが埋まっていた。

「これは? ……おいおい、マジかよ。こりゃあ逆にラッキーだったかもな」

 歩いていたところにちょうど銅でできた甲羅が落ちてきたのだろう。

 首の骨が曲がってはいけない方向に曲がっていて、息がないのは確実だ。

 土砂や甲羅にやられただろうに、その亀の甲羅には傷ひとつ付いていなかった。

 それもそのはずだ。 この甲羅は金剛石。 ダイヤモンドだったのだから。



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